ポーズ上達に必須。動作の「単位」とは?|理学療法士がヨギに知ってほしい体のこと
理学療法士として活躍する得原藍さんが、ヨギに知ってほしい「体にまつわる知識」を伝える連載。第十四回目となる今回は「決まった動きをする、ということの罠」について。
決まった動きをする、ということの罠
前回・前々回と、運動とは何かを追求したベルンシュタインが掲げたベルンシュタイン問題をテーマに取り上げて、自由度と文脈の話をしてきました。
「ベルンシュタイン問題」では、運動とその制御についての研究者であるベルンシュタインという人が提示した問題なのですが、運動に関する「自由度」「文脈」「単位」について、それぞれが複雑に絡まりあって運動が遂行されていることで制御がいかに難しいものになっているかを問うています。
今回は問題の三つの要素の最後のひとつである「単位」について考えてみましょう。ある一定の動作をするときに、必要な筋力や関節運動があります。
例えば、ダウンドッグを思い浮かべてみましょう。
ダウンドッグの完成度を上げようとするときに、下記のようなひとつひとつの「必要とされる要素」の中から「自分ができていないもの」をピックアップして修正する、ということがまず頭に浮かぶと思います。
関節可動域から見るダウンドッグに必要な要素
・肩関節の屈曲可動域と肩甲骨の上方回旋
・胸椎の伸展
・股関節の屈曲と膝関節伸展の連動、それに伴う足関節の背屈筋から見るダウンドッグに必要な要素
・菱形筋や広背筋のエキセントリックな収縮
・大胸筋や健康上腕関節周囲の筋の柔軟性
・体幹を支える筋群の安定したアイソメトリックな収縮
・ハムストリングスと下腿三頭筋が膝関節伸展を妨げないこと
それはダウンドッグを完成させるには必須の段階ですから、間違いではありません。けれども、ダウンドッグを行うこと自体の目的は、そこにあるのでしょうか? ダウンドッグに限らず、その他の姿勢を取ろうとするときも、その運動の目的が要素の達成とその組み合わせになってはいないでしょうか。
動作の先にはさらなる動作の上達が待っている!
ベルンシュタインは、「ある運動を実現する身体期間の組み合わせ」を「単位」と呼びました。
ダウンドッグを完成させるための関節や筋の組み合わせが上記に述べたようなものだとしたら、それを「単位」と考えるわけです。ここで問題が提示されます。この単位は、ダウンドッグという運動を分解した結果だけれども、この単位で可能になる運動は「ダウンドッグ」だけでしょうか?
そうではないと思います。
なぜなら、それぞれの要素が、また別の動きへ汎化され、ダウンドッグを通して様々な身体運動が可能になるからです。
例えば腕を上げるのが簡単になるでしょうから、日常生活でも身体を伸展させて高い場所のものを取ることなど楽になるでしょう。ハムストリングスの柔軟性は座る姿勢にも良い影響をもたらすでしょう。
もっと高度な運動にも影響します。例えば逆立ちをしようとする際に必要な広背筋の筋力は、ダウンドッグに必要な筋力のその一歩先にあります。ダウンドッグに必要な筋力なくして、逆立ちはあり得ないのです。
つまり、ひとつの動作を完成させる目的は動作の完成にはなく、動作は常に、その動作を通して得られるその先の運動の自由を見据えて行われるべきなのです。
ヨガを始めとする身体運動を応用した様々な身体へのアプローチは、時に、決まった関節可動域や筋力や柔軟性を要求します。それらがなければ完成しないものを追求することで、その先の「身体の自由度」を高めることを目的にしています。わたしたちは常日頃から、問題を分解してそれをひとつずつクリアすれば最終的にゴールに導かれるような帰納的な方法に慣れ親しんでいるように思います。けれども運動は、それとは正反対の演繹的な発想で導かれるべきものなのではないでしょうか。
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