確実にやせたい人は、運動よりも「姿勢改善」から始めるべき
「ダイエットを始めよう!」と思い立った時に、何を思い浮かべますか?運動?食事?「ダイエットでまず始めるべきは、姿勢改善」とニュージーランドの公認パーソナルトレーナーmikikoは言います。フィットネス先進国で予約半年待ちの人気トレーナーが、人の発達を根拠にその理由を解説します。
※本稿は、mikikoの著書『ニュージーランド式24時間やせる身体をつくる ベストセルフダイエット』から、一部を抜粋・編集してお届けします。
姿勢を無視したエクササイズが、あなたの努力を逆効果に向かわせる
運動する目的が「やせるため」だったとしても、「体力をつけたいから」であったとしても、「健康に年を重ねるため」であったとしても、エクササイズを始める際に、真っ先に取り組むべきなのが姿勢改善です。
というのも、姿勢が悪いまま筋トレやランニングなどをすると、せっかくの頑張りも逆効果になってしまうこともあるからです。
例えば、骨格のバランスが崩れている状態でランニングをすると膝や腰を痛めやすくするだけでなく、余計な負荷がかかっている筋肉が発達してしまうため、脚が細くなるどころか太くなることもあります。ダイエットのためにランニングを始めたら太ももがゴツくなってしまった、ふくらはぎが発達してししゃも足になってしまった、という相談が多いのですが、これは普段の猫背や座りっぱなしの生活が原因で、〝上手なランニング〞ができていないことが原因です。
筋トレの場合も同様で、姿勢を改善せずに負荷を上げてしまうと、すでに余分な負荷がかかっている部分にさらなる負荷が加わってしまうので、意図していない部分に筋肉がついてしまいます。「ジムに通うようになったら、体力はついて体脂肪も落ちたけれど、意に反して足がたくましくなってしまった」という悩みもよくあります。これがさらには、「筋トレで筋肉がつくのが嫌なので、食事制限と有酸素だけでやせたい」という大きな誤解の要因になっているのです。
姿勢を改善しながらエクササイズをすればこうした努力の逆効果を防ぎ、引き締まった健康的な身体を作ることができます。
姿勢改善だけで服のサイズが変わることがある
姿勢改善で身体が本来の働きを取り戻すと、臓器もあるべきところに収まり、それまで滞っていた血流が改善し、バランスが崩れていた神経系の働きも向上します。
例えば、胃下垂やぽっこりお腹は、お腹周りの筋肉で支えきれなかった胃腸が重力で下がり、前にぽっこりと出てしまっていることが原因。そのため、姿勢改善で臓器があるべきところに収まるだけで解決できてしまうことも。
また、ブラ肉といわれるブラジャーの上に乗る背中のお肉は、背中周りの血流が滞ることによって発生するむくみが大きな要因。猫背を直して血流をアップさせるだけでも、見違えるほど改善します。
たくさんの重要な神経が通っている背骨は、交感神経・副交感神経の働きに大きく関わっているため、姿勢を改善することでメンタルヘルスにもよい影響をもたらします。数分間姿勢を変えるだけでストレスへの耐性が改善したり、自信を持てたりするようになることが科学研究でも明らかになっているのです。
こうした臓器の働きや神経系の働きの改善によって、落ちていた代謝は上がり、身体から余分なものを自然と落としていくようになります。姿勢を改善するだけで普段使うベルトの穴が内側へずれたり、服のサイズが変わったりする人もいるほどです。
目指すは「いい姿勢によって、首筋からオーラが出る人」
毎日のように鏡の前で下着姿になって体型をチェックしたり、裸で体重計に乗って一喜一憂したりしながらダイエットの進捗を確認している人は、最終的な身体の印象は「服を着た時の見栄えで決まる」ということを忘れていないでしょうか?すっぽんぽんで外に出るわけではないので、服を着た時に効果を実感するかが大切。
それなのに、体型さえ変われば服を着た際の印象まで変わると思っていませんか? ダイエットに励む人は体型にばかり意識を集中させがちなのですが、服を着た時の印象は実は、体型よりも「姿勢」で決まります。
雑誌やお店のショーウインドーで見る素敵な服たちは、猫背で着こなすようにはデザインされていません。シンプルな服ほど姿勢がファッションの一部として機能し、着た時の印象に大差が出るのです。Tシャツにジーパン、ドレス、スーツといった格好は特に、どれだけ体型がスラッとしていたとしても、姿勢の悪さで印象が悪くなってしまいがち。特別な時に着たい女性用のドレスや男性用のスーツも、猫背の人ではなく、まっすぐ立った人を想定してデザインされていますよね。制服の採寸も、猫背でスマホを見る姿勢で測る人はいません。
姿勢がいい人からは、凛としたオーラが出ます。これは、人々の憧れである芸能人の姿勢を見ていれば一目瞭然ぜん。厳しい体型管理もさることながら、人前に出る時の姿勢がとてもきれいで人を惹きつける力があります。ブラックピンク、テイラー・スウィフト、ビヨンセといった、ファンから絶大な支持を誇る一流アーティストのそれは、圧倒的なレベルです。
芸能ではなく政治の世界に目を向けても、あのトランプ元大統領や、バイデン大統領も、後期高齢者ながら支えもなくまっすぐ立っていますよね。アメリカ大統領選で二人が比べられることが多かった当時、私はあの二人がどんなトレーニングや生活習慣を心がけているのか、気になって見てしまったほどです。アメリカという国を動かすほどの支持を集める理由も、立ち居振る舞いに隠されているのでしょう。
姿勢がいい人の凛としたオーラは「首筋」から出ています。背筋がスッと伸び、まっすぐ前を向き、鎖骨を見せつけるように首元のスペースを広げて立つと、自信とも似た雰囲気が漂うのです。
これは一流アーティストや政治家など人前に出ることの多い人に限らず、一般人でも同じこと。人混みの中で一人パッと目を引くような雰囲気で立っている人を見かけたことはないでしょうか。街中で歩いている人、バス停で待っている人、ショッピングをしている人など、姿勢を気をつけている人は見ただけで分かります。
やっている人は何食わぬ顔でやっている。言葉で語らずとも、姿勢にオーラに表れる。それが姿勢改善なのです。
人類の身体の発達からも、姿勢の重要性は痛感できる
人間の身体は、3万年ものの歳月をかけて「動くために」進化してきました。私たちの祖先は1日15 ㎞歩いていたともいわれています。骨格模型で見るようなきれいな骨の配置、そして解剖の教科書で見るような筋肉のつき方というのは、狩猟の時代から稲作の時代にかけて、生活に必要な身体活動をこなすために進化していった結果です。3DプリンターもCGもないマンモスの時代から、何万年ともいわれるほど繰り返された環境適応だけで、世界中の優秀な科学者を集めても真似できないほど精密な身体をつくっていったのです。
しかし現代人の生活では、「パソコンの前で猫背のまま8時間座った後に、電車で座って、テレビを観て、スマホを触ってそのまま布団で寝る」といったライフスタイルも珍しくありませんよね。座りっぱなしの生活に慣れてしまいました。その結果、身体はだいぶ弱ってしまい、電車で30 分立っているのも疲れてしまうという人もいて、肩こりや憂鬱な気分といった不調も現代人のよくある悩みとして定着しています。こうした不調の原因は、特にお尻・背骨・肩周りの仕組みや進化の過程を考えてみるとよく分かります。
人間の身体は、サルからヒトに進化する過程で、直立二足歩行をするためにお尻と背中の筋肉を大きく発達させました。サルの体格との最大の違いは「大きなお尻」と「S字に伸びた背骨」です。
遠くを見ながら長距離を二足で歩くために、お尻の筋肉は大きく発達しました。人間に必要な動作(歩く、走る、飛ぶ、登る、泳ぐ、運ぶなど)を可能にするために、股関節はたくさんの筋肉や靭帯で包み込むように進化し、そのおかげで四方八方に動かせる「柔軟性」と、簡単には外れない「丈夫さ」を持ち合わせています。その丈夫さは、車の事故くらいの衝撃がないと外れないといわれるほど。体重の3倍近くの重量を持ち上げることができるポテンシャルを持ちながら、バレリーナのように開脚もできてしまうような柔軟性があるのが、股関節の最大の特徴です。
そのしっかりとした股関節に支えられた骨盤を土台に、100個以上の関節を持つ背骨が立っています。背骨を取り囲む筋肉は縦・横・斜め全ての方向へ伸びていて、自在な動きを可能にするために何層にも張り巡らされています。
深部から表面まで綿密に敷き詰められている筋肉の配置からも分かるように、私たちの身体は動くためにデザインされています。
数世代前までは、子供の時から木に登ったり、川で泳いだり、石を投げていたり、畑を耕したりしていた私たち人間。イスからイスへと移動するだけの現代の生活では、この身体のポテンシャルを使い切ることができません。筋肉は使っていないと、使えなくなっていきます。
よく身体の不調は年のせいだといわれることがありますが、まず疑うべきは長年の運動不足。お尻や背骨周りの筋肉を衰退させ、腰痛・肩こり・むくみ・気分の沈みなどの不調につながっていくのです。
肩周りの筋肉には「サル時代の名残」があります。胸の筋肉である大胸筋と、背中にある広背筋きんは、まっすぐ起立した状態では上腕の骨に付着する部分がねじれています。チンパンジーなどの霊長類も同様にこの筋肉がねじれているのですが、このねじれが取れてまっすぐになる時があります。それが、バンザイをして棒にぶら下がった時の角度。この角度をゼロポジションといい、肩の安定性が最も高く、筋緊張(筋に備わっている張力)のバランスが保たれた状態です。
しかし、現代人がゼロポジションになるように両手を上げるタイミングというと、髪をセットする時とTシャツやトレーナーを着る時くらいしかありませんよね。石を投げたり海を泳いだり木に登ったり、肩周りの筋肉を縦横無尽に動かしていた頃とは打って変わって、目の前の画面を目で追うばかりの生活にもなってしまいました。
肩周りの筋肉も、使っていないと使えなくなっていきます。胸の筋肉は短く硬くなり、背中の筋肉は柔軟性を失い、いい姿勢を保とうとしてもダルさを感じてすぐ猫背に戻したくなってしまうのです。まっすぐバンザイができなくなってしまっている人も多く、こうした硬さを放っておくと四十肩・五十肩(凍結肩)と呼ばれる症状に発展し、生活に支障が出るようになります。
これも年齢が直接的な原因ではなく、生活習慣と普段の姿勢が原因です。スマホの普及により20 代でその兆候が見られることも珍しくありません。
こうした人類の発達にそぐわないライフスタイルは、炎症となって表れ、痛み・むくみ・精神的不調の要因になります。だからこそ、姿勢や生活習慣を改善すると、その炎症が取り除かれ、余分なものが自然と落ちていくような身体の仕組みが出来上がっていくのです。
いい姿勢とは「空から背骨が引っ張り上げられている状態」
身体が1番うまく機能するのは、進化の過程で身体がデザインされてできあがった本来あるべき姿勢です。理科室に置いてある人体模型を想像してみてください。あの「空から背骨が引っ張り上げられている状態」をイメージしながら「重力に逆らって」「背骨の骨と骨の間の隙間を広げるように」立つと、猫背のせいで前に出ていた頭は自然と後ろ斜め上に移動し、遠くを見つめるように顔が前を向きます。この姿勢では、耳、肩、股関節、膝、足の中央部の5点が一直線上に乗っているはずです。重心は、猫背の状態だとつま先のほうにシフトしていますが、空から背骨が引っ張り上げられている姿勢では両足のちょうど真ん中に来ます。これが、本来人間の身体がするべき立位姿勢です。
100年ほど前の映像を見ると、街中の人々のほとんどがこの姿勢で歩いている姿が確認できます。しかし、現在の街中ではこの姿勢で歩いている人はあまりおらず、たまに見かける凛としたオーラのある人も、バレエ・ダンス・演劇・モデルなどをやっている表現者の方々であったりプロスポーツ選手だったりします。
普段姿勢が悪い人がいきなりいい姿勢をとろうとすると、最初は肩や腰に余計な力が入ったり、胸を突き出して見せつけているような違和感を覚えることもあるはずです。今はまだ猫背のほうが身体にとっては標準設定であるため、いい姿勢でいようとすると無駄な力が入って、違和感やダルさが生じてしまうのです。
数十秒間この姿勢でいるだけでも一苦労。いい姿勢でいることは、それだけで筋トレになります。普段からいい姿勢の習慣を繰り返していくこと自体が身体を鍛え、筋肉のつき方や骨格の位置に変化が生まれていくのです。1日何十分か有酸素運動や筋トレだけをやるよりも、ずっと効果が期待できるでしょう。
何年もかけて出来上がったのが、今の悪い姿勢です。数週間で直そうとしたところで、関節や筋肉はその変化についていけず、痛みにつながってしまいます。焦らず、悪い姿勢が出来上がったのと同じだけの年月をかけて直していくようなつもりで、根気よく新しい標準設定を作っていきましょう。
姿勢改善は、上から下まで、一気に、同時進行で
姿勢改善のエクササイズで目指すべき方向性は、もともと身体がデザインされた目的で動かせるように、筋肉や関節の動作を改善することです。そのためには、猫背になっている部分だけを集中して直すのではなく、「上から下まで」「一気に」「同時進行で」姿勢改善を行なう必要があります。
身体の動作は、頭から足先までチェーンのようにつながっていて、全ての動作が連動しており、これを「キネティックチェーン」といいます。
例えば、丸く固まった背骨のせいでできなくなった動きは、連動している他の部位がカバーして補います。骨盤を前傾にし、反り腰の状態をつくることで、腰の筋肉に負荷をかけて仕事をするのです。座りっぱなしの生活では股関節の硬さも加わり、股関節ができなくなった動作を膝や腰でかばいます。丸い背中だけ改善しても、こうした問題の根っこの部分が改善することはありません。この場合、背骨の柔軟性、骨盤の傾き、股関節の硬さ、生活習慣の改善を同時進行で行ない、動作の連動を修正する必要があるのです。
一般的な姿勢改善エクササイズでは、シンプルにするためにこの連動の仕組みを無視して「〇〇するだけ」と一点集中で改善しようとします。5分のエクササイズでどれだけ姿勢が変わったか、ビフォア・アフターの写真を見せることで、本当に改善したように見せるテクニックも使われます。
しかし、その変化も次の日には元通り。一点集中法では一時的に劇的に改善するかもしれませんが、原因の根っこから解決していないので、もともとの猫背の標準設定にすぐ戻ってしまうのです。
1日5分だけの集中的なエクササイズより、残りの23 時間55 分をどのような姿勢で過ごしているかどうかが決め手になります。よく考えれば、非常に当たり前の話だと思いますが。街中で見る凛としたオーラのある人に、そうした5分だけの集中的な努力をしている人はいないでしょう。
いい姿勢で立っている時の骨格の位置が「自然だ」「普通だ」と感じるようになるまでが姿勢改善。大切なのは、悪い姿勢の根っこから解決するためのエクササイズをするのはもちろん、それだけでなく、そのいい姿勢を維持するために必要な日常生活での心がけを同時進行ですることです。
AUTHOR
mikiko
パーソナルトレーナー|自身の失敗経験を元に個人差や体質を重視した『mikiko式フィットネス論』を提唱|身体と人生観が変わるフィットネス哲学で、一生ブレないための視野と学びを発信しています|流行を根拠と本質で斬る人| 筑波大学健康増進学修士|NZベストトレーナー入賞
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