妊娠中〜産褥期に血栓症のリスクが高まる?知っておきたい血栓症と予防のための運動【医師監修】

 妊娠中〜産褥期に血栓症のリスクが高まる?知っておきたい血栓症と予防のための運動【医師監修】
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仁平美香
仁平美香
2023-06-28

妊娠中や産後まもない時期にリスクが高まる血栓症について、産前産後以外でもリスクが高まってしまう生活習慣や、予防のために気を付けたいことをご紹介します。

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日本では女性の方が3:1で症例が多い血栓症

妊娠期や産後間もない時期は、医師の安静指示がある場合はもちろん、運動する環境や本人の体調(痛みや栄養、睡眠の状態など)から運動やマッサージなどが禁忌とされる場面があります。そして不調の自覚がない場合でも、細心の注意を払う必要がある時期です。

今日は、妊娠中や産後まもない時期にリスクが高まる症状のひとつ、血栓症(静脈血栓塞栓症)について、気を付けたいことをお伝えしていきます。妊娠期、産褥期の方以外でも、運動の習慣がない方や以下に紹介していく症状チェックで気になる項目がある方は一度受診をおすすめします。

血栓症(※)は、腕など上肢にできることも稀にありますが、一番生じやすいのは脚(下肢・ふともも・脚の付け根)です。※血栓症とは血のかたまりが血管の中にでき、血管がつまってしまうこと。

血栓症で一般的によく耳にするのはエコノミークラス症候群ではないでしょうか?これは長時間同じ姿勢で血流が悪くなり、足の静脈にできた血栓が肺に移動して起こります。飛行機などの長距離移動の他、デスクワークなど同じ姿勢が続くことでも起こる可能性があります。

海外の疫学調査では妊娠中と産後12週の女性はこの血栓ができやすい状態にあり、特に妊娠中より産後まもない産褥期(分娩後6週~8週くらい)は特に血栓症のリスクが高まります。

妊婦
妊娠中より産後まもない産褥期(分娩後6週~8週くらい)は特に血栓症のリスクが高まります。
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なぜ妊娠中や産後は血栓症リスクが高まるの?

・エストロゲンには血液を固める凝固作用があり、妊娠中はエストロゲンを含む女性ホルモンの分泌が大幅UP

・出産時の出血から母体を守るために血液凝固作用が高まる

・妊娠中は静脈が圧迫されたり、癒着がおこりやすいため血流が悪くなりやすい

・産後、身体の回復のために安静にしなくてはならない時期があるため血流が悪くなりやすい

・経膣分娩に比べて帝王切開の場合は血栓症リスクが7~10倍に高まる

気を付けたい時期や生活習慣

血栓症リスクがあがるとされる方をいくつかピックアップしてみました。すべての方が血栓症になるわけではないですが、いくつか当てはまる方は、他の方よりもリスクが高まります。

・妊娠中と出産後数か月以内

・40歳以上(特に60~70歳以上)

・喫煙している方

・高血圧、脂質異常症(×高脂血症)の方

・お酒をたくさん飲む人(脱水症状になりやすく血液がドロドロになりやすい)

・抗リン脂質抗体症候群など血液が凝固しやすい疾患をお持ちの方

・肥満気味の方

・ピルを服用している方

・親族に血栓症になった方がいる方

もしかしたら血栓があるかも? 気を付けたい気になる症状 

・片側の脚の付け根や大腿部(太もも部分)、ふくらはぎなどがむくんでいたり、はれや痛みがある

・片頭痛が出る前にキラキラした光がみえる(脳血管障害がおきやすい)

・手足にしびれがある

・息苦しさがある 

・持続する胸の痛み

・めまい・激しい頭痛 

・視界の一部がみえにくい

※上に挙げたような症状がある方は、運動やセルフマッサージをする前に、循環器内科や脳神経センターへの受診をおすすめします。熱感や皮膚の赤みが出る場合もあります。

日頃からできる予防法

・1時間以上同じ姿勢をとらないこと。産前~産後半年以内など血栓症の発症リスクが高い時期は、映画なども映画館よりも自宅で時々立ち上がって歩くなど動ける環境で鑑賞すると良いです。また長距離移動をなるべく避け、もしどうしても移動する必要があるときは、乗り物の通路側に座ってトイレまで時々往復したり、車移動の場合はこまめにパーキングエリアで休憩をとりましょう。

・服装はベルトをきつく締めないなど着用の仕方に注意し、ゆったりとしたものや身体のサイズにあったものを選びましょう。

・水分補給をこまめにしましょう。特に産前産後は水分不足になりやすい時期です。授乳時期も喉が渇く前に水分を摂取しましょう。汗をかいていなくても気づかずに水分不足になっていることも。1度にたくさん飲むよりこまめにとりましょう。

・特にリスクの高まる産褥期(分娩後6週~8週)には足(足底、下腿、大腿)のマッサージは控えましょう。妊娠中や産後半年くらいまでも気になる症状がないか注意が必要です。妊娠期などは信頼のおける専門家に相談しましょう。また、産前産後以外でも片側の脚や鼠径部のはれやむくみ、血管がぼこっと浮き上がる、痛みがある等の場合などは足のマッサージは行わないようにしましょう※症状がない場合も硬いボールなどで身体を強くこすったり、強く押したりするのは、血管や神経、筋膜などにダメージを与える可能性があるので、どの時期でもおすすめしません。

予防のための簡単エクササイズ

血栓症予防のためには血圧に配慮しつつ、よく歩いたり、マタニティヨガや産後のためのヨガなど、骨盤周辺や腹部に負担がかかりすぎないことに留意して軽めの運動を日課として実践いただくのはとてもよいです。とはいえ、産後まもない時期などは安静にする必要があり、ヨガやその他、骨盤周辺やお腹に負荷がかかる運動がまだできない時期ですので、だれでも簡単にできる血栓予防エクササイズを紹介していきます。産後以外にもいつでも移動中の乗り物の中などでもできます。

・かかとを床につけたまま足の指の曲げ伸ばし

・足のつま先を床につけたままかかとを上げ下げ

・くるぶし下を指で押さえて支点にして足首をまわす

※帝王切開などで起き上がるのがつらい場合は寝たまま足指でグーパーしたり、足首を動かしたりしてみましょう。クッションなどを時々足の下に敷いて高さを上げて調整するのも良いでしょう。

血栓症のリスクを知っておくと、気になる症状があったときに受診のきっかけになったり、やみくもにほぐしたりして重篤な症状になるのを防ぐことにつながります。また、予防のためにできることを生活の中に取り入れて頂けたらと思います。

 

医師監修/甲斐沼孟
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より主にTOTO関西支社健康管理室産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。

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仁平美香

仁平美香

WAY-TOKYOヨガ&ボディケアサロン主宰 パーソナルヨガおよびグループレッスンの他、オイルマッサージ、指圧整体等を様々な年代のクライアントに提供。ヨガ講師(WomensAwarenessYoga、月経血コントロールヨガ、産後、マタニティヨガ等、講師養成スクールにて講師育成を行うほか、イベントやレギュラークラスで指導中)、栄養士。女性のためのヨガ協会代表。「カラダをゆるめてこころを整えるはじめての月経血コントロールヨガ」「医師もすすめる血管美人ヨガ」等8冊の著書がある。雑誌・WEB等コラム連載&監修多数。



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