脚の血管が浮き出る【下肢静脈瘤】自然に治ることはない?なりやすい人の特徴は?医師が解説
知っているようで意外と知らない「下肢静脈瘤」について、医師がわかりやすく解説します。
下肢静脈瘤とはどのような病気か
下半身の静脈血が心臓に戻ってくる際には、血液の逆流を防止する静脈弁が重要な役割を果たしていますが、静脈弁の機能が低下するなどによって逆流する血液が多くなると、血液が下半身にたまって血管が拡張して盛り上がる状態が下肢静脈瘤です。
下肢静脈瘤とは、下肢の表面近傍を通っている静脈がこぶのように盛り上がって網目状に浮き上がる病気であり、静脈弁自体に問題がある、あるいは深部静脈血栓症などの病気や妊娠が原因となって発症することもあります。
基本的に自然に治ることはなく、時間の経過と共にゆっくりと進行し、代表的な症状としては主に血管が浮き出て下肢が重くだるいような疲労感やほてり感を自覚する、下肢が痛み浮腫が認められる、足に湿疹が形成されて皮膚炎や色素沈着になるなどが考えられます。
ひどい場合には、下肢に潰瘍が形成されて感染して全身状態が悪くなる場合もありますし、下肢全体がこぶのように浮き上がった外見を呈する為に精神的に苦痛を大きく感じるケースも見受けられます。
下肢静脈瘤になりやすい人とは
下肢静脈瘤は、40歳以上の女性に多く認められることが知られていて、一般的に年齢とともに発症率は増加し、わが国では30歳以上の男女において約6割の人に下肢静脈瘤が認められて、その患者数は1000万人以上存在すると推定されています。
また、出産経験のある女性の約半数の割合で下肢静脈瘤が発症すると言われるほど、実は身近な病気であり、発症要因には遺伝性の関連があって両親とも下肢静脈瘤を発症している場合には将来的にその子供も90%以上の割合で発症すると指摘されています。
妊娠時には、女性ホルモンの影響に伴って静脈が柔らかくなって弁が壊れやすくなるため下肢静脈瘤を発症しやすくなりますし、調理師や美容師など普段から立ち仕事が多い人は発症しやすく、一定の注意が必要です。
また、肥満や便秘なども下肢静脈瘤を悪化させる因子ですし、静脈弁自体に問題がある以外にも、深部静脈血栓症や骨盤内腫瘍など静脈以外に病変を有するがゆえに下肢静脈瘤ができる場合も想定されます。
下肢静脈瘤の治療や予防策は?
下肢静脈瘤に対しては、現在のところ様々な治療法が存在しますが、静脈瘤の状態にあわせて単独、あるいは複数の治療法を組み合わせて実践されます。
簡便な治療策としては、医療用の弾性包帯や弾性ストッキングなどを用いて下肢全体を圧迫することで静脈の還流を補助して、血液の循環をスムーズにする効果が期待できますが、根本的な原因である血管治療ではありませんのであくまでも進行防止として使用します。
治療時間も短時間で済む硬化療法とは、静脈内部に硬化剤を注射した後、皮膚の上から血管を圧迫して固くなった静脈は組織に自然に吸収されて消える効果が期待できますが、治療後も硬化するまで2日間ほど圧迫を続ける必要があります。
外科的な治療である高位結紮術では、鼠径部に存在する深部静脈と表在静脈の合流部分を糸で縛り、血管を部分的に切除して断端を結紮することで、血液の逆流を止める治療方法となります。
同様に、外科手術であるストリッピング手術では、鼠径部と足首または膝直下の2か所を切開して、血管内腔に通した専用ワイヤーを用いて、弁不全を起こした静脈を引き抜く手術方法であり、比較的大きな静脈瘤にも対応できるメリットがあります。
局所麻酔や大腿神経ブロックなどの麻酔法を用いて実践される血管内焼灼術においては、超音波で病変部を確認しながら血管内部にカテーテルを挿入し、高周波やレーザーによって静脈壁の内側を焼灼して血管内腔を閉鎖して、逆流を止める治療法となります。
まとめ
これまで、下肢静脈瘤とはどのような病気か、下肢静脈瘤になりやすい人の特徴や治療予防策などを中心に解説してきました。
下肢静脈瘤は、下肢の血管の病気であり、文字どおり静脈血管がコブ(瘤)のように膨隆してふくらんだ状態を指しています。
下肢静脈瘤は良性の病気ですので、直接的に命に係わることはほぼありませんが、慢性的に足のだるさや痛み、浮腫などの症状が認められて生活の質を低下させます。
稀に、下肢の皮膚に湿疹ができる、あるいは皮膚潰瘍ができて重症になることも想定されますので、心配であればできるだけ早く血管外科や専門クリニックなどを受診して相談されることを推奨します。
AUTHOR
甲斐沼 孟
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く