インド人同士であっても言葉が通じないことも…だけどなぜ大丈夫なのか?インドで私が学んだ「柔軟性」
インド研究家でライターの中谷秋絵さんによる連載「インドに学ぶ人生ハック」。インドでの体験から気づいたことをシェアします。
日本は、基本的に日本語だけで生活できる環境ですよね。これが、話す言葉も書く言葉も、まったく異なる人々が大勢いたらどうなると思いますか?
インドはまさにそんな国です。多くの言語、文字が存在しています。
インド人同士であっても言葉が通じない状況の中、それでも彼らは柔軟な発想力と豊かなコミュニケーション力で、しなやかに生きていました。
今回は、そんなインド人から学べる人生ハックをお届けします。
北と南で言葉が通じない?
私がインドで働いていた時の珍事件をご紹介します。
当時私が働いていた会社は、インド北部に位置するデリーと南部のチェンナイに支店がありました。
私はデリー支店で働いていたのですが、支店長がチェンナイに出張に行った時のことです。支店長がチェンナイの空港に着いた時、インド人スタッフに電話がかかってきました。
「タクシーのドライバーが英語話せないから通訳してほしい」と。
ドライバーに電話を代わり、インド人同士で話し始めます。しかし、インド人スタッフから返ってきた返事は意外なものでした。
「彼はヒンディー語も話せないので、私も何を言っているのかわかりません」と言うではありませんか!
そう、北インドでは主にヒンディー語を話しますが、南インドではまったく異なる言語を使うので、インド人同士であっても会話できなかったのです。
この後、支店長がどうやって移動できたのか定かではありませんが、出張から帰ってきた際に「あの時はまいったよ」と、こぼしていたのを覚えています。
多言語の国インド
インドには多くの言語が存在しています。公用語はヒンディー語と英語ですが、インド政府が認めている言語は他に21あり、さらに細かく約2,000もの言語が存在すると言われています。
そのため北と南の人では使う言語が異なり、会話できない状況が生まれるのです。インド人同士なのに、英語で会話している場面もあります。
ちなみに、現在日本で大ヒットを記録している映画『RRR』(日本国内で公開されたインド映画として初の興行収入10億円を突破)は、南インドのテルグ語映画です。映画の製作が盛んなインドですが、多言語国家であるためそれぞれの映画産業があります。これも多言語国家インドならではの特徴ですね。
コミュニケーション豊かなインド人
これはあくまでも私の個人的な憶測ですが、インドは多言語国家であり、言葉が通じないからこそ他のコミュニケーション方法が発達したのかも?と思います。
そんなインド人のコミュニケーションのわかりやすい例をご紹介します。
ジェスチャー
インド人は会話の中でたくさんのジェスチャーを使います。
体の前でくるっと手を回して、手のひらを上にし指を広げるしぐさは「Why?」を表します。これは日常的によく見られるのですが、遠くにいる人に対して、声を出さずにこのジェスチャーだけで訴えかけている場面もよく見ました。
また、あいさつの時に、相手の足に触れるしぐさもあります。これは目上の人に対する敬意を表しています。インドで足は「不浄のもの」と考えられているため、「私はあなたの不浄の部分さえ触れるほどに尊敬しています」という意味があるのです。
表情
ジェスチャー以外に、インド人は表情も豊かです。目を大きく開いて驚いたり、目を細めて我が子をかわいがったり、とにかく表情豊か。これはインドの映画やダンスを見るとよくわかるかと思います。映画の中だけではなく、日常から表情豊かなんですね。
ある時、こんな場面に遭遇しました。
インドの道路上で、車が詰まって進めなくなっていた時のこと。インドの道路は線がきちんと分かれていない場所が多く、みんな好き勝手に自分の行きたい方向に行くので、車が前にも後ろにも進めない!なんて状況に陥ることもよくあります。
そんな時、インド人同士が、車の中から顔の表情とジェスチャーだけでケンカを始めたのです。
「どけ!」
「お前がどけ!」
のように。
声を出さずに、こんなやり取りをしているインド人を見て「なんて器用なんだ」と感心したものです。
言葉が通じなくても
インド人同士で言葉が通じないことはもちろん、私たち外国人とも会話ができない状況も多々あります。例えばタクシーに乗ってもドライバーが英語を話さず会話ができない時、それでも彼らは柔軟に解決策を考えてくれました。
私の行きたい場所が伝わらなくても、電話番号を見せると自らホテルに電話して位置を確認してくれる人もいれば、周りにいる人に道を尋ねまくって目的地までたどり着いたこともあります。
「言葉が通じないなら、別の方法を考えればいい」
まるでそんな風に考えているように思えます。
それはインドでは外国人だけではなく、日頃から言葉が通じない相手がたくさんいるからこそ育まれたもののような気がします。
ものごとを解決するための方法は一つではない。
柔軟な発想で、しなやかに生きるインド人から、学べることがたくさんありそうです。
AUTHOR
中谷秋絵
インド研究家×ライター。自己肯定感激低の状態でインドに渡航し、インドの人々の温かさ寛容さで救われる。インド滞在経験2年、現地の日系旅行会社に勤めた経験あり。現在はフリーライターとしてインタビューを中心に活動中。電子書籍『どんなに自己肯定感が低くても生きやすくなるすごいインド思考術』でAmazonランキング1位・ベストセラーを達成。ダンサーとしてインドのボリウッドダンスも踊っている。
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