「死は特別なものじゃない」バラナシの火葬場で燃える死体を見て感じたこと

 「死は特別なものじゃない」バラナシの火葬場で燃える死体を見て感じたこと
中谷秋絵 あぬ
中谷秋絵
2023-04-12

インド研究家でライターの中谷秋絵さんによる連載「インドに学ぶ人生ハック」。インドでの体験から気づいたことをシェアします。

広告

ガンジス川が流れるヒンドゥー教の聖地・バラナシには、誰でも見られる火葬場があります。

私はこの火葬場を訪れ、はじめて人が焼かれていくところをこの目で見ました。その光景は衝撃的でもあり、別の意味での驚きもあったのです。

今回は、そんな火葬場を訪れ、「生と死」を身近に感じた出来事について書きたいと思います。

ヒンドゥー教の聖地バラナシ

ガンジス川が流れるバラナシは、ヒンドゥー教徒にとって憧れの聖地です。川沿いには多くのガート(沐浴場)があり、人々はそこで沐浴をし、祈りを捧げます。

ガートでは、円になってお坊さんの話を聞いている人々がいたり、毎晩プージャ(ご祈祷)が行われていたりして、「聖地」を感じられます。一方、沐浴している人だけではなく、洗濯している人もいて、人々の生活が垣間見える場所でもありました。

バラナシで毎晩行われているプージャ
バラナシで毎晩行われているプージャ(筆者撮影)

その中に、火葬場「マニカルニカー・ガート」があり、誰でも見学できるようになっています。バラナシは観光地でもあるため、インド人だけではなく、海外から訪れた観光客も多く集まるような場所です。

私はバラナシに行ったとき、ぜひともこの火葬場は見ておきたいと思いました。日本も同じく火葬の文化ですが、人が燃えるところを直接見ることはできませんよね。インドではどのようにしているのか「怖いけれど見てみたい」そんな好奇心から、火葬場を訪れました。

火葬場で灰になり、ガンジス川に流される

ガンジス川には多くのボートが
ガンジス川には多くのボートが(筆者撮影)

階段状になっている火葬場には、死体を乗せるための木で組んだ足場が20~30ほど並んでいました。

花で覆われた担架に乗った死体が、どこからともなく運ばれてきて、その足場に乗せられます。この時、距離がある場所から見ていたことと、たくさんの花で覆われていたこともあり、死体そのものは見えません。組んである足場自体も多くの花で装飾してありました。

そして火葬場で働く人々がそこに火をつけるのです。

今火をつけられたばかりのもの、もう何時間も燃えているようなもの、そろそろ燃料がなくなり火が消えそうなもの、さまざまな状態でした。バラナシの火葬場では、24時間絶え間なく煙が上がり続けるのだそうです。

最後に、燃え終わった灰はガンジス川に流されます。ヒンドゥー教では、ここで燃やされ、灰をガンジス川に流されれば、輪廻の苦しみから抜け出せると信じられているのです。

日常の中にある死

人が燃えているところを見たのはこれがはじめてだったので、もちろん衝撃的でした。しかし、それ以上に私が驚いたことがあります。

まず驚いたのは、燃え盛る火の周りを野良犬や牛が当然のようにウロウロしていることです。そして、牛は死体を飾っている花をむしゃむしゃ食べています。

ガートにいる牛
ガートにいる牛(筆者撮影)

その周りを、チャイワーラー(チャイを売る人)が「チャイチャーイ」と言いながら歩いていきます。

さらに、火葬場が見渡せる場所にお菓子を売っている小屋もあり、お菓子をつまみながら、チャイを飲みながら火葬場を眺めている人もいました。

「なんだこれは……。日本の火葬場と違いすぎる」と、そのあまりにも俗物的な光景に、私は衝撃を受けたのです。

日本では棺に入れられ、親族で最後のお別れをしてから、巨大な施設の中に入れて焼かれていきます。燃えている様子は見えず、さっきまでは人間だったものが、次の瞬間には骨と灰になり、まったく別の姿で現れます。その過程はどことなく現実味がないように、私には感じられました。

しかし、インドではあくまでも日常の一部に「死」があったのです。火葬場も街の中にあり、すぐそばで生活している人々がいます。そして、死体が燃えている様子は、親族でなくても誰でも見られるのです。

この様子から「死は恐れるものではなく、すぐそばにあるもの」だと思いました。

人はいつか必ず死ぬものだけど、どこか私たちはその事実を忘れて、あるいは目をそむけて生きているのかもしれません。

死が当たり前にすぐそばにあるインドで、人々は何を思い、日々を生きているのだろう。私は、いつか死ぬことを前提にして、今を大事に生きられているだろうか。

目の前で燃えていく煙を見ながら、そんなことをぼんやりと考えたバラナシでの出来事でした。

広告

AUTHOR

中谷秋絵 あぬ

中谷秋絵

インド研究家×ライター。自己肯定感激低の状態でインドに渡航し、インドの人々の温かさ寛容さで救われる。インド滞在経験2年、現地の日系旅行会社に勤めた経験あり。現在はフリーライターとしてインタビューを中心に活動中。電子書籍『どんなに自己肯定感が低くても生きやすくなるすごいインド思考術』でAmazonランキング1位・ベストセラーを達成。ダンサーとしてインドのボリウッドダンスも踊っている。



RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

バラナシで毎晩行われているプージャ
ガンジス川には多くのボートが
ガートにいる牛