物事が当然のようにスムーズにいかないインドで、私が「ここにいてもいいのだ」と安心できた理由

 photo by Unsplash
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中谷秋絵 あぬ
中谷秋絵
2023-02-17

インド研究家でライターの中谷秋絵さんによる連載「インドに学ぶ人生ハック」。インドでの体験から気づいたことをシェアします。

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人は「許されている」と感じると安心するものです。インドではそれを強く感じました。

インドは「寛容の国」だと思います。これは私だけではなく、インド経験のある人からもよく聞く言葉です。

インドは14億1200万人もの膨大な人口を抱えていますが、多くの異なる宗教が共存し、多民族・多言語が混ざり合っている国です。狭いエリアにヒンドゥー教とイスラム教、キリスト教の寺院が建ち並び、州や地域が異なると違う言語を話します。

インドでは「異なるもの」が常に近くにいることが当たり前の社会なのです。

今回は、私がインドで驚いたエピソードをご紹介します。

ケンタッキーフライドチキンで驚いたこと

私がインドの「寛容性」を最初に感じた印象的な出来事があります。

首都ニューデリーの、ファストフードチェーン店「ケンタッキーフライドチキン」に行ったときのことです。メニューは若干異なるものの、日本にもあるチェーン店と同じものです。

デリーにあるショッピングモール。ケンタッキーなどのチェーン店も多く入っている。(筆者撮影)
デリーにあるショッピングモール。ケンタッキーなどのチェーン店も多く入っている。(筆者撮影)

注文しようとレジに立つと、なんだか店員さんの様子に違和感を覚えました。私が戸惑っていると、後ろのお客さんから声をかけられます。

「この店員さんは耳が聞こえないから、メニューを指さしてあげて」

耳の聞こえない店員さんが普通のチェーン店で働いていることにも驚きましたが、それをお客さんが私に教えてくれたことにも驚きました。教えてくれた人は私に一言だけ言うと、すぐに一緒にいた友人との会話に戻っていきました。その人の振る舞いから「特別なこと」という雰囲気は一切ありません。

私は日本でこのような経験をしたことがなかったので、最初こそ戸惑ったもののその後はメニューを指さし、問題なくスムーズに会計を終えることができました。

もっと驚いたコスタコーヒー

次は、当時住んでいた近所にあったコスタコーヒーでのこと。インドでコスタコーヒーは、スターバックスよりも安く、インド経営の他のコーヒーチェーンよりは高い、中間ほどの位置づけだったと思います(2014年当時)。

コスタコーヒー(筆者撮影)
コスタコーヒー(筆者撮影)

雰囲気もよく、近所だったので休日はよく利用していたのですが、最初に行ったときレジで紙とペンをスッと差し出されました。

ケンタッキーでの経験があったので「そうか、この人も耳が聞こえないんだな」とすぐに理解し、今回はさっと注文を書き込んでスムーズに会計を終えました。

「インドでは耳が聞こえない人でも、飲食店で働けるんだな。日本とは全然違うなぁ」なんて思いながら、コーヒーが来るまで店内を見渡していると、あることに気づきます。

私の会計をしてくれたスタッフだけではなく、他のスタッフもみんな耳が聞こえないようでした。スタッフ同士は手話で会話をし、コーヒーをお客さんに運ぶときも目とジェスチャーだけでコミュニケーションを取っているのです。

特別な支援施設ではなく、どこにでもあるチェーン店のコーヒーショップです。日本のチェーン店でスタッフ全員が耳の聞こえない人ということがあるでしょうか?少なくとも私は経験したことがありません。

ケンタッキーでもそうでしたが、お客さんは誰もその様子を不思議がることも、特別視することもなく、あくまでも「普通のこと」として受け入れているようでした。そして、私は何度もこのお店に通いましたが、特に問題が起きている様子を一度も見ていません。

他にもこのような場面には何度か遭遇し、インドでは「障がい」を特別視することなく、「違い」として受け入れている様子が伝わってきました。

他人を認め、許し合いながら生きるインドの人々

今回は「障がい」に絞ってお話ししましたが、インドではとにかく物事はスムーズにいきません。

注文と違うことをする、
人々は約束の時間にはやってこない、
列車が何時間も遅れることもザラ、
予想外すぎるハプニングが起こりまくる……

こんな社会なので、人々は小さなことにいちいち構っていられないのでしょう。

インドの列車(筆者撮影)
インドの列車(筆者撮影)

誰もがみんな完璧じゃない、だから相手にも完璧を求めない。
違いを認め、失敗を許し合いながら生きている。

私にはインドの人々がこのように映りました。

日本では「他人に迷惑をかけてはいけないよ」と教えられます。
しかし、インドでは「人は他人に迷惑をかけて生きるのだから、人のことも許してあげなさい」と教えるのです。

私はこの考えを聞いたとき、とても楽になりました。そして、インドにいると「あなたはここにいてもいい」と受け入れてくれているような気がして、とても安心感を覚えたのです。

インド人のように、もっと他人も自分自身をも許してあげると、生きるのが少し楽になるような気がします。

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中谷秋絵 あぬ

中谷秋絵

インド研究家×ライター。自己肯定感激低の状態でインドに渡航し、インドの人々の温かさ寛容さで救われる。インド滞在経験2年、現地の日系旅行会社に勤めた経験あり。現在はフリーライターとしてインタビューを中心に活動中。電子書籍『どんなに自己肯定感が低くても生きやすくなるすごいインド思考術』でAmazonランキング1位・ベストセラーを達成。ダンサーとしてインドのボリウッドダンスも踊っている。



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デリーにあるショッピングモール。ケンタッキーなどのチェーン店も多く入っている。(筆者撮影)
コスタコーヒー(筆者撮影)
インドの列車(筆者撮影)