業界経験ゼロ、完全独学でスタートしたスローファッションブランドtree & moonの挑戦

 業界経験ゼロ、完全独学でスタートしたスローファッションブランドtree & moonの挑戦
写真提供: tree & moon

「今まだ試行錯誤中なのでインタビューにお答えして良いのか...」 一般的にインタビュー依頼のメールには様々な返信をもらいます。「喜んで!」とすぐに承諾してくれるケースもありますが、「嬉しいですが、相談があります」と言われることも珍しくありません。今回お話を伺ったスローファッションブランドtree & moonのmokuさんもそんな一人。冒頭のメッセージを受け取りました。ファッション業界においてのサステナビリティには課題が多くありますが、そんな中で一歩一歩進んでいる現状をお話していただきました。

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tree & moonは、創業者のmokuさんが2019年にはじめて訪れたインドでスタートしたスローファッションブランド(※)。

当時25歳だったmokuさんはファッション業界の経験ゼロでブランドを立ち上げ、環境問題や社会問題を解決しようと試みます。けれど、現実はそう簡単ではありませんでした。ブランド発足3年目の今も、現在進行系で試行錯誤や葛藤を抱えながらブランドを続けている状態と言います。

今やってることは小さいことかもしれないけどより良い世界になってほしいという思いを胸に、邁進するmokuさんにお話を伺いました。

※スローファション:  アパレルのデザイン、生産・消費過程、ショッピングの仕方などを含め、地球環境に配慮したサステナブルなファッションの価値観

トゥクトゥクに乗ってはじめたtree & moon

—— mokuさんはもともとファッションが好きだったとのことですが、ブランドを立ち上げる前に洋服の学校に行ったり、洋服関連のお仕事に携わっていたんですか?

mokuさん: いいえ。洋服とは関係のない専門学校を卒業して、その後、オーストラリアにワーキングホリデーに行きました。オーストラリアでは飲食店でアルバイトをしたり、ワーホリ帰国後には派遣会社で働いたりしていたんですが、洋服の勉強や仕事はしていないです。

—— 知識や経験ゼロでブランドをスタートされたんですね!

mokuさん: ファッション関係の学校に行こうかとも考えました。けれど、日本の学校は学費が高いですし、2年間をまた学校生活に費やすよりも、早くはじめたかったんです。

そこで思い切ってインドに行ってみることにしました。洋服が作れなくても、生地屋さんを見たり色々イメージを膨らませたり、現地に行けばいろいろなことが分かるかなと思ったんです。

—— インドに行く前は下調べをしっかりして行かれたんですか?

mokuさん: いいえ。トゥクトゥク(インドの三輪タクシー)のドライバーの人に「洋服のビジネスをしたいんだけど、洋服を作ってくれる工場や、生地屋さんに連れて行ってほしい」と伝えました。けど、もちろんドライバーの人たちもお洋服を作る専門家ではなかったので街の人に聞いてもらって色んなところを回りました。

「ここのお店は違う」となると、そのお店の人が「じゃあこっちに行ったらいいよ」と教えてくれて、最終的に出会った工場がとても良いと思ったので、すぐに決めました。

写真提供: tree & moon
写真提供: tree & moon

—— すごい!きっと気持ちが通じて、素敵な工場が見つかったのかもしれませんね。色々な工場を見てまわり、最終的にお願いすることを決めた工場のどんなところに惹かれたんですか?

mokuさん: いろいろな工場をまわっている中で、嘘をついて騙してくる人が多かったんです。けれど、分かりやすい嘘が多いんですよね(笑)。例えば、最初の方に回っていた工場には、明らかに化学染料で染めたようなキレイに染まっている生地を見せながら「これは自然染めで染めている。キャロットで染めた。」と言われました。

最終的に決めた工場は「自然染めはこんな感じでムラになるよ。化学染料はこんな感じにムラなく綺麗に染まるよ」というように、違いを見せて説明してくれました。正直に話してくれたことと、社長含めて社員みんなの人柄もとてもよくて雰囲気も好きだったので、お願いしたいなと思いました。

—— 分かりやすい嘘っていうのはすごく分かります(笑)。そんな中で誠実な対応をされると嬉しくなりますね。話は少し戻りますが、お洋服作りをいざ始めるとなった時に経験ゼロで始めるのはとても大変だったと思うんですが、どうやって洋服作りを勉強したんですか?

mokuさん: インドの工場の社長に教えてもらったり、インターネットで調べたり、2年目からは日本にいるパタンナー(※)さんと一緒に仕事しているので、分からないことは全て聞きながら、作りながら学んでいる状態です。今3年目ですが、まだまだ知らないことばかりで勉強中です。けど、1年目は何も分からないまま「こんな感じかな...??」と進めている状態で、本当に大変でした。

※パタンナー: ファッションデザイナーが作成したデザインをもとに、パターン(型紙)におこす専門職

—— 個人的に思うことなんですが、日本の社会って「どこの学校を出た」とか「何の勉強をした」「何の資格がある」って、世間的に見て未だに重要視されることが多いと思うんです。もちろんそれも活かされることだってあるし大切だとは思うんですけど…だけど、知識も経験もゼロであっても、情熱や根気があれば何だってできるんだなとmokuさんのお話しを聞いていてすごく感じました。勇気をもらえる方は多いんじゃないかなと思います。ところで、お洋服作りの場所って色々選択肢があるのではと思っているんですが、インドを選んだのはどうしてですか?

mokuさん: インドはコットンが有名だと聞いたことがあったので、前々からインドに行ってみたいと思っていたんです。またフェアトレード(※)にも興味がありました。インドの人たちに職を与えることができて、洋服を日本で販売できたらなと思ったんです。

※フェアトレード: 公正取引。発展途上国との貿易において、フェアなトレード(公正な取引)をすることにより途上国の人々の生活を助ける運動。

—— フェアトレードに興味を持っていたのはどうしてですか?

mokuさん: オーストラリアのワーキングホリデー中に、自然や社会に優しい暮らしを意識している人たちが多くて、わたしも興味を持ちました。環境問題や社会問題について自分で理解を深めていく中で、『THE TRUE COST』(※)というドキュメンタリー映画を見たんですがそこから意識が一気に変わりました。

※『THE TRUE COST』: 2013年ダッカ近郊の衣服生産ビルが倒壊して1100人以上が亡くなったことにショックを受けたアンドリュー・モーガン監督という方がファッション業界の裏側に迫ったドキュメンタリー映画。

—— 『THE TRUE COST』では、ファストファッションブランドの勢いが増して、安くおしゃれな洋服が手に入るようになった一方で、インドやバングラデシュなどの服の生産現場では、労働者達が過酷な労働環境で働いていることが明らかにされていますよね。自分の好きな洋服を作っている人たちを苦しめている現状をどうにかしたいと思ったんですね。

mokuさん: 子どもの頃から洋服が大好きで、私にとって心のときめきでした。けれど、その大好きな洋服が、世界中で大量生産、大量消費され美しい自然を汚したり、弱い立場の人を苦しめているという現代のファッション業界の裏側を知って大きなショックを受けました。

—— mokuさんのように意識が変わった人は多いのではないかと思いますが、mokuさんはどんなポイントに涙したんですか?

mokuさん: 初めから最後まで泣いてましたが、特に縫製工場で働いているシングルマザーのお母さんが賃金が安すぎるために、子供と泣く泣く離れて、出稼ぎに行くシーンは本当に見るのが辛かったです。

ベンガラ染めで自然環境への配慮に力を入れる

—— tree & moonの洋服は自然環境にも配慮するということにも思い入れがあると思いますが、具体的にどんなことにこだわっていますか?

mokuさん:インドのオーガニックコットンやヘンプ(麻)を使用しているのと、日本でベンガラ染めという自然染め(※)で洋服を染めています。

※自然染め: 自然の植物等から色素を抽出する染め方。100%自然由来なので川や海に流れても汚す心配がない。

—— 日本の染料メーカーさんにお願いされているんですね。ブランドをはじめた頃から染色は日本でしていたんですか?

mokuさん: ブランドをはじめた頃は、インドの染め職人さんに発がん性物質を含まないアゾフリー染料という優しい染料を使って染色をお願いしていました。本当は、自然染めがしたかったのですが、見せてもらったインドの自然染めはムラが多いのに加えて、「決めた色の通りに、染めるのは難しい」と言われたので諦めました。1枚1枚違う色になってしまうのは、さすがにオンラインでは販売しにくいと思ったので…。なるべく自然由来のもので洋服を作りたいと思っていたので、化学染料を使うことになって「これでいいのか...」と落ち込んだり悩んだりしましたが、それがその時の私の精一杯できることでした。

—— 確かにオンライン販売でいくら「自然染めで写真とは異なります」と但し書きがあっても、写真とあまりにも違う色の洋服が送られたきたら「えっ?」となる方もいますよね。先程「インドの方々に職を与えることができたら」とおっしゃっていましたが、ゆくゆくは染めるのもインドでお願いしたいと考えていますか?

mokuさん: もし気に入る染色をしてくれる場所と出会えば、インドでも染めてみたいと思っています。今は、インドで縫製してもらって、日本の繊細な技術と丁寧さで染めるというバランスに満足しています。

—— 自然染めをしたいと思ったのはどうしてですか?

mokuさん: 着る人にとっては、自然に配慮された洋服を着るって気持ちがいいと思うんですよね。色もきれいだし、味もあって。

化学染料だと海や川を汚してしまうというのもありますし、自然や作ってくれる人への配慮はしたいなと思っています。化学染料は色んな病気になる可能性がある物質が含まれていることもあり、染めてくれる染職人さんが病気になってしまうというリスクもあると言われているので。

tree & moonの洋服を染めているベンガラ染めの染料は、土からできています。ですので、染めた後そのまま流しても土に還っていくのみで、自然環境にも人にも優しいことが分かっています。

—— すごく初歩的な質問になると思うんですが、化学染料が川や海に垂れ流しになるのは普通のことなんですか?工場排水を外に流す時にはフィルターを通してきれいな水にしてから流すのかなと漠然と思っていたんですが…

mokuさん: 細かい専門的な部分は私も分からないのでハッキリは言えませんが、日本だと浄化槽は都市部にはあると言われています。けれど、地域によっては浄化槽がなく垂れ流しになっていることもある(※)ようです。

また、以前に海の調査をされている方から、洋服を染める際の化学染料だけでなく、家庭で出す洗剤やシャンプーなどが、川や海を汚しているという問題があるということを聞いたことがあります。

特に現代では洋服を作っている国は発展途上国が多いですが、そういった設備は少ないのでは...と思います。

※…日本下水道協会が発表した調査によると、令和3年度末における全国の下水道普及率は80.6%(下水道利用人口/総人口)となっています。

—— そうなんですね…そういったことが明らかになってきているのにも関わらず、化学染料で染めている洋服って今もすごくたくさんあると思うんですが、それは大量に安く作れるからなんでしょうか?

mokuさん: そうですね。大量に安く作ることもできます。また、化学染料は、洋服をムラなくキレイに染めることができます。例えば、染める前の真っ白な生地に、気づかないほどの小さな汚れがついていることがあります。ベンガラ染めなど自然染めをすると、これが斑点になってしまうこともあります。こうした染めてみないとどうなるか分からないものも、化学染料であれば濃く染めることができます。

写真提供: tree & moon
写真提供: tree & moon
 

—— ベンガラ染めについて、少し詳しく教えていただけますか?

mokuさん:  ベンガラは土から取れる成分(酸化鉄)でできた顔料で、語源はインドのベンガル地方から伝来しているそうです。実は、日本の暮らしにも古くから根付いている素材だそうで、防虫・防腐の作用があるので、家屋のベンガラ塗りとしても使用されてきた歴史もあるそうです。ベンガラは太陽の光に強く、紫外線による劣化・変色から守ってくれる役割もあります。

—— 土からとても鮮やかな色ができるんですね!tree & moonの洋服ははじめて見た時からとても鮮やかできれいな色だなと思っていました。

mokuさん: きれいな色ですよね。わたしも気に入っています。もともとベンガラは赤しかなかったそうです。今、tree & moonの洋服のベンガラ染めをお願いしている染料メーカーで染色加工業をされている「古色の美」さんでは、長年の加工技術を活かして黄、黒、緑、紫など色彩豊かな色合いを作り出したそうです。

—— どんな風に色を作っているんですか?

mokuさん: 古色の美さんは、染料を作るところからしています。まず土を取るところからはじまり、取ってきた土を乳鉢で時間をかけてすり潰して、土を焼いて温度によって色を変えるそうです。手作業で作る色は、機械にはない、どこか暖かく深い色になっているなと思います。

また、(古色の美さんでは)ベンガラ以外に、藍とベンガラを混ぜたり、松を燃やしてできた墨で染める煤(すす)染めもされていて、来年のコレクションでは煤染めなども取り入れる予定です。

写真提供: tree & moon
写真提供: tree & moon

現在も試行錯誤中

—— ブランドを立ち上げて3年目ということですが、現在感じている壁や葛藤などはありますか?

mokuさん: 文化の違う人達と働くことには試行錯誤しています。工場に出向くたびに「従業員の方々が働いているところを見せてほしい」と言うようにしていますが、このリクエストが、工場側からしたら「日本人の私が"ジャッジ"している」ように見えるのかなと思ったりします。だって普通日本だったら、取引先の会社にいちいち「職員さんはどういう風に働いてるんですか?」「働いてるところを見せて下さい」「どれくらいお給料払ってるんですか?」なんて細かい質問をすることはそう多くないのではないかと。だから、インドはそういう問題が多い国だという偏見だと捉えられていないか、など、考え込んでしまいます。結局のところ、相手がどんな風に考えているかはわからないのですが…。

インドの工場では、英語を話せるのが社長や幹部だけなので、彼らとしか話できないのですが、とってもフレンドリーでいい人たちなんですね。気さくに「ランチ食べよ〜」って声をかけてくれて。そんな楽しい雰囲気の中、私が「ここではちゃんとやっているのか」みたいなことを聞くのもな、と葛藤することが多いです。

—— 日本人では、特にお金の話などはあんまりしないですもんね。

mokuさん: ブランドをはじめた1年目は工場を見学させてもらっていました。けれど、やっぱり分からなくて…。それでも2年目に、お給料や労働環境はどうしても気になると思って、思い切ってメッセージをしたんです。そうしたら「働いてくれている人たちはみんな満足してくれている」と言われました。嘘ではないかもしれないけれど、ちょっとオーバーに言っているのかなと疑ってしまう気持ちもあるんです。工場側からしたらわたしがお客さんという立場で、わたしにお金を支払ってもらっているので良く思ってもらいたいと思うんですよね。すごくいい人たちというのは会ったから分かるんですけれども、どこまで信用したらいいのかまだ分からないんですよね。

インドはカースト制があって生まれた時から身分は決まっていますが、私もインド人ではないので詳しいところは分からないですし…どれくらいお給料が支払われているか、そもそもそのお給料で暮らしていけるのかなど、もっと深くまで関わっていかないと分からないこともあると感じました。まだまだインドについては勉強中です。

—— 文化背景が違う方々とお仕事をするのは大変ですよね。

mokuさん: そうですね。あとは、こちらの会社では、男性従業員の方々しか働いていないんです。もちろん良い人たちであることは変わりないんですが、先程お話した『THE TRUE COST』で見たようなインドの女性たちの支援をしたいという思いも強く持っていたので、そこにも葛藤を感じていました。

—— 最初にやりたいと思っていたことが実現できていないことに違和感を感じたんですね。

mokuさん: はい。けれど最近、インドで弱い立場の女性たちへの支援で縫製工場を運営されている方を紹介してもらえる機会がありました。もともとNGO団体として運営されていたようですが、インドの女性たちに対する支援をするために、企業化もされたそうです。コロナの関係でまだビデオ電話やメッセージなどでしかお話できていないんですが、今年(2023年)、工場訪問することが決まって…信頼できるようであればオーダーしたいなと思っています。

—— インドの弱い立場の女性たちの現状について分かっていることを教えていただけますか。

mokuさん: インドは女性がとても働きづらい国です。裕福な家庭に生まれ育った女性は大学に行って就職したりということもあるようですが、基本的には「女の人が家にいるのが当たり前」という考え方が今も強くて...けれど、貧しくて働かないといけない女性もいますし、シングルマザーの人も働いて子どもを養っていかなくてはいけません。また、実力があっても「女性だから」という理由で雇ってもらえなかったり、仕事を紹介してもらう代わりに性交渉を求められることも多いようです。その他にも、「不可触民」(※)とされている人たちは生理中は汚いと扱われ、家の外で寝ないといけないようです。

※不可触民…インドにおける最下級のカーストに属する人を意味する言葉。インドでは 1949年に憲法によりこの用語の使用は禁止されているが、伝統的な差別の慣習は完全に撤廃されたとは言い難い。

—— とても厳しいですね。けどそういった女性たちの支援を、洋服を通してできたらいいですね。

mokuさん: まだ、工場を立ち上げたばかりなので、時間がかかるかもしれないんですが…実現したいですね。 

—— 日本人の求めるクオリティーはかなり高いと思うのですが、そのレベルに到達するまでは、時間がかかるということでしょうか?

mokuさん: そうですね。工場側からも、「日本人はクオリティーが高いものが好きなことも分かっている」とは言われていています。

—— もしかしたらわたしの偏見だと思うので失礼な風に聞こえてしまうかもしれないんですけれど、インドから送られてきた商品で段ボールを開けたら砂埃が舞うなんて経験はありませんか?

mokuさん: 今お願いしている縫製工場は、私がいろいろな工場を回って最終的に決めたところなのでキレイですし、さすがに、そこまでの経験はないんですけれど…ただ、サンプルを作る時に生地だけを送ってもらうのですが、その生地が少し汚れている…ということはありますね(笑)。染める前に洗うので大丈夫なんですけど。あと、実際工場を見学している時に感じたのは、ものへの扱いがワイルドだなと思いました。

——私も海外在住なので想像できます。洋服ではないですがスーパーとかでも陳列が雑だったりホコリをかぶったものが並んでいたりするし、洋服屋さんでも糸がほつれているものとか普通に店頭に並んでいますしね(笑)。国が違うと常識も異なってきますよね。

mokuさん: (笑)間違いではないんですけれど「なんで気づかんのかな?」ってこともあります。例えば、tree & moonのタグが逆についていたりとか、擦らないといけないようなチャコペンで大きく「M」ってかかれてあったりとかもありました(笑)

あと、全部同じデザインで作ったものの中に、なんでか知らないけど1枚だけブラウスにフリルが入っているものが混ざっていたこともありました!可愛かったので、それはそれで「インドの人がフリルをつけちゃいました」っていうフリル付きブラウスとしてマーケットでちょっと価格を下げて販売しました。ネットではさすがに売れないですけど、お客さまのなかにはそんなイレギュラーが好きという人が多くて、購入してくれるので嬉しいです。

日本はやっぱりクオリティーをすごく大切にする国で、インドというクオリティーをあまり気にしない国とのやり取りはとても難しく感じるんですが…けれど、言えばちゃんと直してくれるので、検品はかなり厳しくやっています。

これから実現したいこと

——これから力を入れていきたいことがあれば教えて下さい。

mokuさん: インドの女性たちががどんな風に暮らしているのかとか、どのように働いているかというのをお客さんに見てもらいたいので、そういった発信をしていけたらと思っています。

—— インドの女性たちの支援を広げられるようにしていきたいということですね。実際、インドの女性たちの暮らしがどういったものなのかというのは詳しくは知らなくても、何となく知っているという方は増えてきているのかなと思います。けれど、それに対して関心があって、取り組もうとしている人は本当にごく一部だと思うんですが、mokuさんはどうやったらもっと一人でも多くの人が関心を持ってそれに取り組んでいけると思いますか?

mokuさん: わたしが、最初に社会問題や環境問題とかに興味を持ちはじめたキッカケは、オーストラリアで環境問題に取り組んでいる人たちを「クールだな」「おしゃれだな」と思ったからです。例えば、オーガニックショップとかも「素敵」「雰囲気いいな」と思ったりとか、「この洋服可愛い」と思ったらオーガニックコットンの洋服だったりとかして、最初の入りはそういうポジティブな感じで入っていた方が、結局楽しくはじめられると思います。

社会問題や環境問題に全力で取り組む人って本当にほんとにごく一部で、それよりもみんなもっと楽しいこととか、自分の大事なことの方が人生的には大事だと思うんですよね。

——確かに楽しそうなことを広めていった方が大多数に伝わりやすいですね。

mokuさん: 社会問題とか環境問題とかについて取り組んでいてすごく考えている人の中には、心がすごくやられてしまう人もいると思うんです。突き詰めれば突き詰めるほど、悲しい現実だから。実際わたしもそういう時期があって、怒りがこみ上げてきたりという経験もあります。例えば日本ではレジ袋が有料化したけれど、お金を払えばもらえるし、エコバッグを持ち歩くよりレジ袋をもらうほうが楽だからという人もいると思うんです。そういうのを見ると「なんで、こんなにニュースとかいろんなところで環境問題の話が出ているのに...」と感じていた時期もありました。けれど、怒りとかネガティブな感じで訴えても、人は寄ってこないと思っています。おそらく「怒っている人」って見られると思うんです。もちろんそれに興味を持つ人もいると思うんですけれど、それはやっぱり少数だと思うんです。それだと、大多数の意識は変わらないと思うんです。

人は「楽しそう」とか「かわいいな」「素敵だな」というものに惹かれて目がいくと思っています。わたしの洋服だったら「かわいい!着てみたい」から入ってきて、そこから、「こういう風に作られているんだ。あれ、じゃあ安い服はどうやって作られているんだろう?」とかにつながればいいなと思っています。かわいい、着てみたいから入ってきて、気づいたら、意識が変わっていたみたいな…環境問題や貧困問題について考える「はじめの一歩」はそんな感じの気軽さでいいと思っています。

 
写真提供: tree & moon
写真提供: tree & moon
 

ライター取材後記

実を言うと、わたしがtree & moonに魅せられたのはかわいいと思ったから。環境に優しくフェアトレードに力をいれているということが、その次に分かりました。

「かわいい」「着たい」と思えることはもちろんですが、今もtree & moonに惹かれている理由の一つが、mokuさんの言う「マイナスな部分も見せることが大事」という言葉に胸を打たれたからです。頑張っている姿に応援したいという気持ちが湧き上がったということもありますし、改めてわたしが日々しているモノを買うという行為はとても責任のあることなんだと思いました。

こうした素敵な出会いが、たくさんの人に広がるといいなと思います。

取材協力 - tree & moon

地球のことを想った服、作り手のことを想った服、自然と人が循環しながら心地よく洋服を着れるような服作りを目指して、インドではじまった「tree & moon」。オーガニックコットンやヘンプを使った生地、ココナッツの殻や貝殻から作られたボタンを使い、ベンガラ染めという自然染めを取り入れてなるべく自然素材から作っているスローファッションブランド。

公式HP: tree & moon

Instagram: tree & moon

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桑子麻衣子

桑子麻衣子

1986年横浜生まれの物書き。2013年よりシンガポール在住。日本、シンガポールで教育業界営業職、人材紹介コンサルタント、ヨガインストラクター、アーユルヴェーダアドバイザーをする傍、自主運営でwebマガジンを立ち上げたのち物書きとして独立。趣味は、森林浴。



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