「消費者には世の中を変えるパワーがある」ニューヨーク在住モデル・ベイカー恵利沙がそう考える理由

 「消費者には世の中を変えるパワーがある」ニューヨーク在住モデル・ベイカー恵利沙がそう考える理由
ベイカー恵利沙

ファッションの最先端ニューヨークで、イキイキと活動するモデル・ライターのベイカー恵利沙さん。彼女が放つオーラや人を惹きつける魅力の源となるエネルギーやモチベーションはどこからくるのか、今回は前編・後編に分けてお話を伺いしました。

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インスタグラムを中心に日々おしゃれで参考にしやすいファッションを発信している恵利沙さん。中でも地球環境に優しいサステナブルファッションを楽しむことは、彼女のファッションにおいて重要なポイントだと伺えます。インタビュー前編では、恵利沙さんにサステナブルファッションとの出会いや、ニューヨークで感じた消費者一人ひとりが持つパワーについてお話ししていただきました。

社会を良くしていく話を誰もが普通にできる世の中にしたい

—— 恵利沙さんとサステナブルファッションの出会いを教えて下さい。

恵利沙さん: 出会いは大学生の時です。子どもの頃から「社会に対して何か貢献がしたい」というざっくりした思いがあったんですが、何をすればいいのか分からなかったんです。私が入学した早稲田大学には、学校が公認している社会貢献団体を束ねている早稲田ボランティアセンター(WAVOC / ワボック)というのがあって、そこに説明を聞きに行くことにしました。

社会貢献の形って本当に様々で、WAVOCの中にも、実際自分の体をたくさん使うようなもの…例えば「どこかに行って学校を建てる支援をしよう」「子どもたちと遊ぶボランティアをしよう」など色々な団体がありました。その中で、フェアトレード(※)の啓蒙活動をしている団体にすごく興味を持って入ったのがサステナブルファッションの入り口です。

※ フェアトレード: 公正取引。発展途上国の原料や製品を適正な価格で継続的に購入することを通じ、立場の弱い途上国の生産者や労働者の生活改善と自立を目指す運動。

—— フェアトレードに興味を持ったのはなぜですか?

恵利沙さん: 私自身が人生のすごい大きな時間とパワーをいっぺんに使って何かをしたかったというよりかは、他にもやりたいことがあったので、色々なことをやりながらもフェアトレードは社会貢献できる形だなとしっくりきて。

フェアトレードは、日々選ぶもので社会を良くしていくシステムに常に長く参加できるという形だと思ったんです。

—— 確かにフェアトレードって日常生活の中で参加できる社会貢献活動ですね。どんな活動をされていたんですか?

恵利沙さん: 今から13年くらい前の話なので、日本でフェアトレードという概念がまだ浸透していませんでした。なので、まずは「フェアトレードを知ってもらう」というような活動を中心にしていました。誰にでも身近なトピックとしてよくコーヒーが使われ「あなたが飲んでいるコーヒーの裏側はこうなっているんですよ」といったような話をしていたんですが、わたしはテーマをファッションに絞って研究していきました。

—— ファッションに絞ったのはどうしてですか?

恵利沙さん: もともとファッションが好きだったということもあるんですが、「フェアトレードについて話をします」と言った時と、「ファッションショーをします」と言った時に集まってくる層が違うじゃないですか。「ファッション」と聞いて集まってくる層も一緒に取り込んでいった方が結果的に社会を良くしていくと思ったんです。そんな経緯から、フェアトレードの洋服を使ったファッションショーをしたんです。

—— ファッションを通して色々な層を巻き込んでいこうとしたんですね。

恵利沙さん: 当時は、今よりも更に社会の問題に対して話すことがすごく閉ざされていて、社会貢献って、それをしたい人だけのものだったんですよね。それを話したい人、話したくない人に分かれているというか... 団体の中にも、人を寄せ付けないという雰囲気があるなと感じたんです。けれど、社会貢献って、参加する母数が増えれば増えるほどシステムは機能するので、限られた誰かのものにするよりかは、みんなが気軽に取り組んでいった方が、良くなっていくなと思ったんです。

何かを知るキッカケは何でもいいと思っています。大学生の当時から抱いていた、「社会問題を一部の人だけのものにしたくない」という思いは、今も変わらず持っている思いです。

—— 現在もインスタグラムではファッションを通して色々な層に社会をより良いものにしていく発信をされているのが印象的です。

恵利沙さん: こんな話をしていいのか分からないんですが…実は、時々ファッションの話ばかりをしている自分に違和感を覚えることもあるんです。世の中には色々なことが起こっているのに、今日のアウトフィットの紹介ばっかりしているは「どうなんだろう?」と思ったりもするんですけれど…けど結局それをやめてしまうのは意味がないなとも思うんです。

ファッションの話をしている人が社会問題の話をすることが普通になっていくことの方が大事かなと思っていて。断裂させないというか、社会問題はみんなが普通に話していいことだっていうことを目指していきたいんです。それを継続させるためには、自分が好きなファッションの話と同時にしていくことに意味があるのかなと思っています。

消費者には世の中を変えるパワーがある

——  現在はファッションの最先端であるニューヨークに身を置かれていますが、それを踏まえて、日本のファッション業界がこう変わっていけばいいなというのはありますか?

恵利沙さん: ファッション業界だけを変えようとするよりかは、全体の消費者の基本的な意識が変わっていかなきゃいけないのかなと思っています。それは単純に知識量というか危機感をどれくらい持っているかということです。

—— もう少し詳しくお話して頂いてもいいですか?

恵利沙さん: わたしが6年前にニューヨークに引っ越してきた時から、現地の人たちは環境問題に対する危機感が強かったんです。全員が同じ知識量を共有しているのに衝撃を受けました。多分、街中で環境問題の質問をしたら、みんな同じ答えが返ってくるくらい、理解がない人とか関心がない人がいないんです。

「買い物は投票」っていう言葉もあるじゃないですか。それが、みんなにすごく根付いていてすごい当たり前にやっていることなので、多分ファッション業界が変わっていくというよりかは、消費者全体の意識が変わっていって、私達が求めるものが変わっていくのがいいのかなと思っています。ニューヨークでは消費者の方がパワーを持っているんですよね。

—— 消費者の持っているパワーとは何ですか?

恵利沙さん: 例えば、消費者がある企業の人種に対するアプローチの仕方や女性に対するアプローチの仕方が「おかしい」と思ったら、すぐに企業はキャンセルされてしまうんです。消費者の方が力を持っていることを知っていて、企業を変えていっていますね。ときにちょっと怖い文化でもあるんですけれど(笑)、それは倫理的におかしいということには、厳しいんです。

—— 恵利沙さんが消費者の持っているパワーに気づいた具体的なエピソードはありますか?

恵利沙さん: 以前、FIT(Fashion Institute of Technology / ファッション工科大学)という学校で、働きながら社会人コースにしばらく通っていたんです。サステナブルファッションなどは関係なしに、マーケティングとブランディングのクラスに通っていました。

学生は18歳〜25歳くらいの若い世代が多かったんですが「購買の動機」について話し合った時に、口を揃えて「企業の環境へのアプローチはどうなっているのか」「人種的なアプローチ」「女性をエンパワメントしているか」「動物の権利を守っているかどうか」というのがどんどん当たり前に出てくるんです。それをしていないブランドとかは、「ダサいし、絶対に買いたくない」「そういう反環境的なものを勧めているインフルエンサーやセレブリティーのSNSはフォローしないし」という態度で、それが当たり前なんですよね。

「購買理由の一番のモチベーションが、それってかっこいいな」といい意味でショックを受けました。

—— 社会に良くしてもらうのではなく、社会を良くしていくというマインドを持っているんですね。

恵利沙さん: 何かを買うっていうことはその企業活動をサポートするということだから、その意識を持っていくことが大切なんじゃないかなと思っています。「こういう作り方なら買わない」とか「こういう作り方をしているからかっこいいよね」というムードがもう少し増えていくと自然にファッション業界だけじゃなくて、どんな業界でもものを作る業界は変わらざるをえなくなるから、良いモノづくりをしなくちゃいけなくなってくるのかなと思います。

—— 消費者一人ひとりが、環境問題や社会問題を自分ごとにするためには、どうすればいいんでしょうか。

恵利沙さん: 最初にお話した、環境問題や社会問題が一部の人のものになってしまうというのは日本が持つ特徴の一つかもしれないとと思っていて。アメリカだと、環境問題や社会問題に対して興味のない人はキャンセルされてしまうんですが(笑)けれど、環境問題や社会問題に対しての危機感や意識を持つことの重要性を理解してもらうのって本当に難しいと思います。わたしもそこは、こうしたら良いという具体的なことはまだ模索中で… 

けれど難しい話にしてしまうと全体的に伝わりづらいのかもしれないけれど、良いものを長く使うことがラグジュアリーだというムードが特に、若い子たちに広がっていくと嬉しいなと思います。

*インタビュー後編へ続きます!

ライター取材後記

恵利沙さんはサステナビリティーを自分の好きなことに落とし込んで、上手に付き合っているのが印象的。つい難しく考えてしまいがちな「環境問題」や「社会問題」といった話ですが、自分の好きなこととマッチングさせることで世の中を良くしていく活動に気軽に参加できると感じました。社会に参加することが、自分の人生にも参加することになるのではないでしょうか。インタビュー後編では、恵利沙さんが洋服を選ぶ時にポイントとしていることや、インスタグラムで発信されている古着の魅力、また環境活動や社会活動を続けていくために大切にしたいことなどをお話していただきます。

プロフィール:ベイカー恵利沙さん

ベイカー恵利沙
ベイカー恵利沙

オレゴン州と千葉県育ち。現在はニューヨーク在住。モデルとして活動をはじめ、スタイリスト、ブランドとのコラボレーション、執筆など、活動の幅を広げる。ファッションのみならず、サステナブルなライフスタイルなどもInstagramを中心に発信。

Instagram: @bakerelisa

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桑子麻衣子

桑子麻衣子

1986年横浜生まれの物書き。2013年よりシンガポール在住。日本、シンガポールで教育業界営業職、人材紹介コンサルタント、ヨガインストラクター、アーユルヴェーダアドバイザーをする傍、自主運営でwebマガジンを立ち上げたのち物書きとして独立。趣味は、森林浴。



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