「同じ服を着続けるのがカッコいい」NY在住モデル・ベイカー恵利沙が目指すサステナブルな未来

 「同じ服を着続けるのがカッコいい」NY在住モデル・ベイカー恵利沙が目指すサステナブルな未来
ベイカー恵利沙

ファッションの最先端ニューヨークで、イキイキと活動するモデル・ライターのベイカー恵利沙さん。彼女が放つオーラや人を惹きつける魅力の源となるエネルギーやモチベーションはどこからくるのか、今回は前編・後編に分けてお話を伺いしました。

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インタビュー前編では、恵利沙さんにサステナブルファッションとの出会いや、ニューヨークで感じた消費者一人ひとりが持つパワーについてお話ししていただきました。後編では、恵利沙さんが洋服を選ぶ時にポイントとしていることや、インスタグラムで発信されている古着の魅力、また環境活動や社会活動を続けていくために大切にしたいことなどをお話していただきました。

ファッションを選ぶ時は「自分が着たい」と思える服を選ぶ

—— 最近は「サステナブル」「エシカル」ってマーケティング用語のように使われることも多くなってきているような気がします。 所謂、グリーンウォッシュ(※)のようなブランドもあるのかなと…認証マークがついているものであれば安心なのでしょうか?

恵利沙さん: 世界的な認証マークがついているものは安心かもしれないですが、フェアトレードも含めて認証マークって取得するのにお金がかかって、時間と労力がすごくかかるんです。認証マークは取れないけれど、ちゃんとやっている小さなブランドを見逃してしまうことになるので、認証だけにこだわってしまわなくてもいいと思います。

※グリーンウォッシュ: 環境配慮をしているように装いごまかすこと、上辺だけの欺瞞的な環境訴求を表す。 安価な”漆喰・上辺を取り繕う"という意味の英語「ホワイトウォッシング」とグリーンとを合わせた造語

—— 恵利沙さんはサステナブルファッションを選ぶ上で何か基準を持ってお洋服を選ぶようにしていますか?

恵利沙さん: わたしは、今はお洋服を購入する時は、まずは「自分が着たい!」と思えるモチベーションを持てる洋服を選ぶようにしています。

洋服だけに限らず何かを購入する時「環境に良いから」というのが理由が第一になってしまうと続かないので。洋服のような自分の趣味が現れるものに関しては特にそうだと思っていて... 着なくなっちゃったりするんですよね。

—— 確かに自分の好きな洋服でなければ、楽しくないですよね。

恵利沙さん: ただ「自分が着たい」と思った洋服に出会ったら、必ずブランドのウェブサイトを見て、どんな取り組みをしているブランドなのかを調べます。「このブランドはどういうブランド?」「理念は?」「どのように商品を作っている?」など、調べる癖をつけると、いつも100点とは言えないかもしれないけれど、なんとなくアンテナがはられるようになってきました。繰り返していくしかないと思うんですけれど、ウェブサイトでどういう所を見た方がいいとか、少しずつ分かってくるようになってくると思います。

完璧にサステナブルに作られていなかったとしても、例えば女性のエンパワーメントを推進していたりとか、自分が「素敵だな」と思えるところを見つけられたらそれでいいかなと思っています。最終的に総合的に判断するようにしています。

—— 100点ではないけれど共感ポイントがあるブランドであればOKとしているんですね。

恵利沙さん: 実は、2019年のオーストラリアの大規模な森林火災があった時に気候鬱のような状態になってしまって…。動物がたくさん亡くなってしまったことがすごく悲しくて、何でこんなことが起きているのかということを自分で調べていって地球がすごい大変なことになっているということに改めて気づいて、それから2年間くらいは自分がする行動全てを否定してしまうようになってしまったんです。自分にすごく厳しくなってしまった時期でした。この調べる癖というのがその時からはじめたものなんですが、靴下一つ買うのも潔癖になっていました。

その2年間は、サステナブルに、エシカルに作られているブランドを選ぶようにしていたんですが、いくらサステナブルにエシカルに作られていたからと言って、自分が気に入っていない洋服を買っても、1回も着なければ本末転倒だなと思うようになったんです。

—— その心境の変化はどうして起こったんですか?

恵利沙さん: 疲れちゃったからですね。やじるしが全部自分に向いてしまったというか、自分のやることが全て環境に悪いことに思えるようになってしまって、責任を感じ過ぎながら買い物をすることに疲れてしまって、これは続かないなと思ったんです。

—— 確かに持続可能でなければ意味がないですよね。

恵利沙さん:  サステナブル、エシカルなものだけにこだわって浪費するのも、なんか違うような気がするんですよね。それに、今も持っているものを長く大事に使うとか、これから使うものを長く使うことも同じように大事だと思ったので、あくまでも自分の好きな欲しいものを軸にして買い物をしようと思ったんです。今はすごくゆっくり買い物をするようになって、こういう買い物の仕方をするようになるとセンサーが磨かれるようで、「これすごい可愛い」と思った洋服に出会って調べていくと、すごく良いものづくりをしているということが結構あるんです。良いサイクルで買い物ができるようになりましたね。

—— 例えば、気になった洋服の中でサステナブルでない洋服に出会うことはありますか?

恵利沙さん: 今は、素敵なものづくりをしていない洋服は「欲しい」と思わなくなったんですよね。「買っちゃいけない」というよりかは、「良いものづくりをしている洋服の方が素敵だ」というマインドになっていて…気になった洋服の裏側を見て「あんまり素敵じゃない」と思ったら欲しくなくなるというのはしょっちゅうあります。

同じ服を着続けることがかっこいい

—— 恵利沙さんのインスタではヴィンテージや古着を愛用されているのをよく見かけますが、これもサステナブルファッションとして取り入れたものですか?

恵利沙さん: 古着やヴィンテージは、サステナブルだという意識がない中学校2年生くらいから好きなんです。古着やヴィンテージ=サステナブルな買い物の仕方と言われて、ピンと出てこないくらい、そういう理由ではなく好きなんです(笑)今は「サステナブルだからいいじゃん」とも思っているんですけれど。もともとは、母や父、家族のお下がりを着るのが好きで、そこから始まったんです。

—— 古着やヴィンテージの魅力ってどんなものですか?

恵利沙さん:  洋服のストーリーが想像できることがおもしろいと思っています。今持っているコートの中で一番好きなのが、お母さんが20歳の時に着ていたコートなんです。お母さんが何十年か着たあとに、わたしが東京で受け継いで、今はニューヨークで着ているんですけれど…そのコートが母がイギリス留学をしていた時に買ったもので、母の時代で女性が海外の大学に行く人って今よりももっと少なくて、アジア人差別ももっとあった時代だと思うんです。住み込みでアルバイトをしながら学費を払っていたんですが、お金もない中ですごい大事にして買ったコートなんですよね。国際電話も簡単にはできないし… モノもすごい可愛いんですけれど、モノ以上にそういうストーリーって価値があっておもしろいものだなと思っているんです。お母さんが着ている写真と、今わたしが着ている写真を並べて見るのもおもしろかったり。

—— 大切な思い出が詰まったものを受け継ぐことって豊かな気持ちにさせてくれますね。

恵利沙さん: もちろん古着屋に行って、全ての洋服のストーリーが見れるわけではないんですけど、誰かしらの思い出がつまった洋服があるわけじゃないですか。それを着ていくことって、おもしろいなって思います。街を歩いていて同じ洋服を着ている人に出会うこともなくて、ユニークだし、大量にあるモノの中からかわいいものを1着を見つけることがすごい好きで、そういう古着の魅力を伝えていけたらいいなと思っています。先程も言ったように「サステナブルだから、古着いいですよ」というよりかは、わたしはそれ以外のところに古着の魅力をすごく感じているので。

——素敵な服を長く着ることがかっこいい世の中になったら素敵ですね。

恵利沙さん: つい先日行ったニューヨークのファッション・ウィークにも、古着を着て参加しました。「古着を着て行こう」と意識したわけではないんですが、自分が本当に好きで自分らしくいられる服を選んで、後から見返したらその8割くらいが古着だったんですね。

その中には、何年も前に買った洋服ですごく気に入っているものがあるんですが、毎回のファッション・ウィークに着るくらい好きなんです。けど、そんな人絶対にいないんですよ(笑)皆さん、シーズンに合わせて新しい服を着てくるんだけど、わたしは本当に気に入ってるので毎回同じ服を着ていくんです。

ファッション・ウィークって新しいモノを見に行く場で、わたしも新しいクリエーションに触れることってすごく刺激的で活力も湧くんですけど…でも毎回同じ服着ているのもそれはかっこいいんじゃないかなと思っていて、それが当たり前になったらいいなと思いますね。

—— 古着とかって、着こなすのが難しいような気がするのですが何かコツはありますか?

恵利沙さん: 古着のTシャツは、ジーンズや黒いスラックスとか何にでも合うシンプルなボトムスに合わせると着れると思います。わたしはストーリーを想像しやすい年代とか地名が入っているTシャツがすごく好きです。この間も、1960年代に行われたミュージックフェスティバルのTシャツを買ったんですけど、彼の叔父がそのフェスティバルに行っていたという話になったりとかして、すごいおもしろかったんです。

—— 確かにTシャツなら取り入れやすいかもしれないですね。

恵利沙さん: あとは、ブルー系のシャツとかはおすすめです。最近、わたしが一番気に入っているのがお父さんのクローゼットからもらったブルーのシャツなんですが、すごい可愛いんです。ブルーのシャツは、白Tにデニムとかと合わせると可愛いと思います。あとは、長さが足りればワンピースとかにしてもいいと思いますし。すごく着回しがきくと思います。

—— モノを長く大切に愛用していくことが、ファッションをサステナブルにする一歩ということですね。

恵利沙さん: わたしもたまにあるんですけど、クローゼットの中にたくさん服はあるけど、着たい服が全然ないという経験をしたことがある人は、それはスタイリングによって変えられることができると思うから、気分を変えようと思ってむやみに新しいものを取り入れようとするよりかは、1回自分のクローゼットを見てみて、再発見してみるといいんじゃないかなと。これはわたしも自分に言い聞かせないといけないんですが、自分のクローゼットを理解するというか、楽しむことが大切かなと思います。

あとは、自分のモノだけじゃなくて、家族やお友達の洋服を借りたりとかして、今あるモノを長く使えるといいですよね。

その後から、サステナブルやエシカルに作られているブランドを見つけるのがいいかなと思います。何か欲しい時にここに行ったら、安心して買い物ができるような場所があるといいですよね。

今大切にしている思い

—— 恵利沙さんが今、ファッションも含めてサステナブルな暮らしを送る中で大切にしていることはどんなことですか?

恵利沙さん: もしかしたら、これから変わっていくことかもしれないんですが... たった今思っていることは、先程もお話したように、一人ひとりの持つパワーの強さは信じていたくて、一人ひとりが行動を起こすことで、世の中は絶対に変わっていくと思っています。だけど同時に、一人で解決しないでいいというマインドを大切にしているんです。

—— 「一人で解決しないでいい」とは?

恵利沙さん:  みんなそれぞれできること、できる時があると思っていて、わたしも全部の選択が完璧なわけでは全くなくて、だけどそれは全体のバランスで考えればいいのかなと思っているんです。普段はローカルで小さなビジネスを選ぶように大まかなモットーは持っているんですが、例えば今はお金がないから、安くて早くて便利なサービスを選んでしまう、というときがあってもいいと思うようにしています。

—— 大学生時代に目標にしていた、環境問題や社会問題をみんなで話し合うということにもつながりますね。

恵利沙さん: もちろん何も知らないのでは何もできないので、知ることは大切だと思うんですけど、今は何が良くて何が悪いというのは考えないようにしています。例えば、サステナブルに作られた洋服って素敵だけど、価格が高いので手が出せないという時もあると思うんです。人生でも色々なフレーズがあって、それによって経済状況も変わってくるじゃないですか。だから、それぞれの状況によって、その時できることをすればいいと思っています。それは、みんなで支え合う、全員で分け合えたらいいと思うんです。

ライター取材後記

「地球環境に良い暮らしをしたい」と思えば思うほどフラストレーションを抱えることも少なくありませんが、恵利沙さんが現在考えているように、自分のステージに応じてきるベストを尽くすことが、世の中をより良い方向へ導いてくれるのだと信じていきたいと、わたしも思います。今持っているモノがどんなモノであれ、まずはそれを大切に使っていくマインドセット、そして今あるモノだけで充分満たされているということに気づけたらいいですよね。

プロフィール: ベイカー恵利沙さん

ベイカー恵利沙
ベイカー恵利沙

オレゴン州と千葉県育ち。現在はニューヨーク在住。モデルとして活動をはじめ、スタイリスト、ブランドとのコラボレーション、執筆など、活動の幅を広げる。ファッションのみならず、サステナブルなライフスタイルなどもInstagramを中心に発信。

Instagram: @bakerelisa

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AUTHOR

桑子麻衣子

桑子麻衣子

1986年横浜生まれの物書き。2013年よりシンガポール在住。日本、シンガポールで教育業界営業職、人材紹介コンサルタント、ヨガインストラクター、アーユルヴェーダアドバイザーをする傍、自主運営でwebマガジンを立ち上げたのち物書きとして独立。趣味は、森林浴。



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