「日本人だから米国で成功できる」ニューヨーク在住舞台演出家・河村早規が考える夢の掴み方

 「日本人だから米国で成功できる」ニューヨーク在住舞台演出家・河村早規が考える夢の掴み方
河村早規

頑張っている人の姿は、力になる。元気がない時、やる気が出ない時、停滞を感じる時、わたしには必ず見るYouTubeチャンネルがあります。屈託のない笑顔と自信に満ちた声のトーン、そして分かりやすいプレゼンテーション力、そして時に見せる不安な気持ちまで全てに惹きつけられる河村早規さんのYouTubeチャンネルは、チャンネル登録数11万人以上にものぼる。3年前に舞台演出を学ぶためニューヨークの大学院に留学し、今年5月に主席で卒業。現在もニューヨークで舞台演出家・マルチメディアアーティストとして活動する彼女の魅力を3回に渡り探りました。

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「何も考えていない」と言われないように

— 早規さんのYouTubeチャンネルはチャンネル登録者数が11万人以上と大人気ですが、そもそもYouTubeをはじめたきっかけは何だったんですか?

早規さん: 私は大学院受験期間中、芸術系の海外大学院の情報が少なくてとても苦労しました。私はいろんなサポートのお陰でなんとか合格して今ここにいますが、このままだといろんな人がチャンスを逃してしまうなと思っていました。そこで留学のいい部分だけではなく、大変なことやリアルな経験も含めて、今後受験を考える人たちの助けになるような情報を発信したいと思ったのが最初のきっかけです。始める機会をなかなか見つけられなかったんですが、パンデミックがきっかけになりました。舞台の仕事が全てなくなってしまい、俳優の子たちはみんな映画にいったんです。わたしも、映像に興味があったので、ビデオ編集やライティングの勉強も兼ねて、YouTubeをはじめました。

あとはわたしはあまり大人数の前で自分の意見を咀嚼して話すことが得意じゃなくて、その練習もしたかったんです。

— そんな風には全然見えないですが…?!

早規さん: 音声配信SNSの「クラブハウス」ってあるじゃないですか。それをニューヨーク在住の日本人同士で話していた時に気づいたんです。みんなバンバン自分の意見を言えていて、(相手が喋っているのに)遮ってまで言うんです。わたしは、もともとすごい気を使ってしまうタイプで今でも得意ではないんですが、自分の意見を噛み砕いて言う練習が必要だなと思って。

— 自分の意見が言えるようになった方がいいと思ったのは仕事のためですか?

早規さん: そうですね。わたしは、今26歳で業界の中でだいぶ若いですし、どこに行っても一番年下ということがすごく多いんですが、年上の方を目の前にすると特に意見が言えなくなってしまうんです。けれど、フリーランスとして生きていく上では、そこは直すべきところなのかなと思っています。

— 特にアメリカだと自分の意見を言えることが強みにもなりそうですね。

早規さん: そうなんです。アメリカに来てから「これどう思う?」「これについては?」と聞かれることが多くて、けど日本人として育ってきたので「そんな全部のことに意見があるわけちゃうねん!」と思ったり(笑)でも、よく「日本人は何も考えてない」と言う人もいますが、わたしもそれには同意せざる負えないかなと思います。

ニューヨークの演劇界で活動する中で「日本人で良かった」

— この3年間すごいスピードで走り続けてきましたよね。今、仕事をする上で大切にしていることは何ですか?

早規さん: ここまで急速で頑張ってきましたが、信頼を培って続けていくっていうことがすごく大事な業界だからこそ、このスピードでずっとやっていくといつか壊れてしまうなと思うようになりました。みんながみんなずっとチャンスがある世界ではないので、チャンスが来た時に準備万端の必要があると気がつきました。大学院時代は全然寝てなかったですが、今はもう少し地に足をつけて、持続的に頑張っていけるようなやり方に変えていっています。

— 周りの方の働き方もそうですか?

早規さん: 大学院の歴代の先輩方を見ていても、業界内に残って活躍している人って2-3人とかなんです。大学院を出たからと言ってどうなるかは分からないんですが、活躍している方の共通しているところは、ひたすら辛抱強くこの業界に居続けていることなんです。

— 続けることが何よりも大切なんですね。

早規さん:  そうなんです。私がいるアメリカ演劇業界は、あんまり「自分が、自分が」っていう感じでは実はなくって、逆にすごく日本と似ていると思っています。例えば、部屋の空気を読むとか、自分が今この場所で何がサーブ(提供)できるのかを考える、それを実行に移すっていう。それは私が日本で培ったことなので、日本人でよかったなとよく思います。それをちゃんと継続的に続けていける人が、最終的に残るなっていう印象を今は抱いていて、最近はとても大事にしていますね。

— 早規さんは、モチベーションが下がる時はありますか?

早規さん: 疲れてくるとモチベーションは下がりますね。それこそ、その夏も大きなブレイクダウンがあって…今までずっと走り続けてきたので、そこで疲れ切ってしまうことはダメなんだなということをそこで初めて学んだので、今はちゃんとバランスをとれるようにしているところです。

— バランスをとるために大切にしているセルフケアはありますか?

早規さん: すごく小さなことなんですが、外に出て歩いたり、陽の光を浴びたりするようにしています。家でできてしまう仕事も多いので、意識的に外には出るようにしています。あとは、食事にはとても気を使っていますね。

— YouTubeでも料理が好きなことを公言されてますよね。

早規さん: 実は今年の1月から6月にかけて、ほぼ自炊をしていなかったんです。おかしな話なんですけれど、この6ヶ月間は卒業公演の準備と外での仕事でスーパーに行く時間もなかったんです。だから適当なものを買って食べていたんですけど、その前まではちゃんと自炊してお弁当を作って大学院に行っていて、その時と比べると精神が不安定でしたね。体に良くないものを取り入れることが本当にここまで影響するんだなというのを自分の体で実体験しました。

— 適当なものを食べていた時はどんな風になってしまったんですか?

早規さん: アイディアが浮かんでこなかったり、それに視界がクリアではなかったです。身体的な視界の話ではなくて、常に倦怠感が続いているような感じです。当時は走り続けているから無視できちゃって気づかないんです。気づかないふりができていたというか。ヨガのスピリットで大切にされているような、自分の体や心に耳を傾けることをしていないので、何を食べているのかよく分かっていませんでしたね。

なので、今はなるべく自炊をするようにしていて、もし自炊ができなかったとしても、体に良いものを選ぶように気を使っています。あとは今は、食べる時も食事に対して感謝の気持ちを持って食べるようにしています。食べている実感を持つようにしていますね。

— 忙しいとつい”ながら食べ”をしてしまう方は多いですが、キチンと座って食べることに集中するって体や心を強くしてくれますよね。普段はどんなものを作ることが多いんですか?

早規さん: グラノーラとか自分で作ってます。アメリカのグラノーラってすごく甘いんですよね。 わたしはあまり白砂糖を取らないようにしているので、自分で抹茶グラノーラを作るようにしたりして、スーパーでグリークヨーグルトだけ買ってきて、フルーツとはちみつを加えて食べたりしています。

あとは、日本食スーパーに行ける時には、お魚を買ってきて冷凍してすぐに食べれるようにしたり、納豆やめかぶと一緒に食べたり…(笑)

— やっぱり日本食が恋しいですか?

早規さん: もう、めちゃめちゃ恋しいです。日本食を食べるために日本に帰りたいです(笑)やっぱり口にするものが日本と違うんですよね。例えば、ニューヨークでお寿司を食べようとするとスパイシーツナとかで(笑)それはそれで美味しいんですけど、日本の素朴な味が恋しいですね。

— 奈良出身だと、余計に日本食が恋しくなるのかもしれないですね。あちらの方は、都心に比べて食材もいいでしょうし、普通に生活しているだけでいいものが食べられますよね。

早規さん: アメリカに来てはじめて気づきましたね。食べ物だけじゃなくて、神社とかもたくさんありますし、自然と近い生活が当たり前だったなと思います。

これからの目標

— 早規さんの今持っているゴールを教えて下さい。

早規さん:  ニューヨークに居続けることが大変だということをちゃんと頭で分かっていた方がいいなと思っています。その上で、ニューヨークをベースにして作品づくりをしていくというのが長期的なゴールです。

 あとは大きな目標としては、10年後とか20年後とかには、ブロードウェイとかオフ・ブロードウェイの作品を演出したいなと思っていますね。

—  楽しみですね。いつもYouTubeで見ていた早規さんから「自信に満ち溢れた人なんだな」というイメージを持っていました。けど、それだけじゃなくて日本人としてのいい意味での謙虚さとかもすごく感じられて、きっとこれからもっと花開いていくんだろうなと思いました。

早規さん: ありがとうございます。演出家ってプロダクションのリーダーで、だけどビクビクしているリーダーにはついていきたくないじゃないですか。自信って、経験とか踏んでいるものからくるものだとわたしは思っていて、実際そのプロセスを踏まないと、わたしは自信に変えられないんですよね。無駄にやる前から自信を持っているわけではなくて、だから人の倍以上やらないといけないと思っています。

ライター取材後記

インタビュー中に彼女がよく使っていたのが「不安」という言葉でした。華やかな世界に身をおいている人は、見えないところで、わたしたちの想像をはるかに超える努力をしています。不安や壁にぶち当たった時、それが言葉も文化も違う海外であれば、なおさら逃げたいと思うことは決して珍しいことではないはずです。特に過去3年間は、パンデミックをはじめ、BLMやアジアンヘイトなど身に危険を感じることさえあったはずです。

どんな業界においても、成功をしている人が共通で言うことが「続けることが大切」ということ。例えば、文章を書くことを生業にしているわたしの場合は、天才的に面白いものを書けるだけの人よりも、書くことを続けることができる人の方が才能があるということになります。(もちろん天才的に面白いものを書ける人、書くことを続けることがベストでしょうが)そして、天才的な作品を作ることも続けていれば必ずできるようになります。

諦めずにどんなにつらい思いをしても逃げないことこそが、早規さんの持つ強みや魅力につながっているのではないでしょうか。”誰だって夢を叶えることはできる、努力し続けることができるのではあれば”ということを証明しようとしているのかもしれません。

プロフィール:舞台演出家・マルチメディアアーティスト・河村早規さん

河村早規
河村早規

現在NY在住、日本生まれ日本育ち。NYにて舞台演出家・俳優として活動。映像も勉強中でオーストラリア・Quarantine Film Festivalにて優勝。チャンネル登録者数11万人以上の大人気YouTubeチャンネルでは、NYでの生活や大学院の情報、英語学習について発信中。

公式HP: Saki Kawamura

YouTube: Saki Kawamura in NYC

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AUTHOR

桑子麻衣子

桑子麻衣子

1986年横浜生まれの物書き。2013年よりシンガポール在住。日本、シンガポールで教育業界営業職、人材紹介コンサルタント、ヨガインストラクター、アーユルヴェーダアドバイザーをする傍、自主運営でwebマガジンを立ち上げたのち物書きとして独立。趣味は、森林浴。



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