廃棄物の山に疑念を抱いて…「自然に還る文房具」創業者に聞く、サステナビリティに最も必要なこと

 廃棄物の山に疑念を抱いて…「自然に還る文房具」創業者に聞く、サステナビリティに最も必要なこと
Left-handesign® | Plant Your Stationery

突然ですが旅行は好きですか?旅行中はホテルにステイしますか?非日常的なラグジュアリーな時間を提供してくれるホテルの裏側では、日々たくさんの無駄使いがされています。今回、お話を伺ったシンガポールで自然に還る文房具製品を展開するライフスタイルショップ『Left-handesign』の創業者Radhika(ラディカ)は、ホテルで働いていた時に目の当たりにした廃棄物の山に疑念を抱きます。2017年創業当時から現在に至るまでの旅路とその学びをシェアしてくれました。是非あなたのサステナブルなライフスタイルのヒントにして下さい!

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サステナビリティを理解してもらうためには教育が必要

—— ブランド発足のキッカケを教えて下さい。

Radhika: Left-Handesignを2017年にスタートする前は広告とホスピタリティ業界で、アートディレクターとして14年間働いていました。ホテルではトイレットペーパーから、食べ物、リネンまで、本当にたくさんのものが日々、無駄遣いされているのはイメージできますよね?大きなホテルで働いていた時、このような出てしまった廃棄物を活用することはできないかと模索しはじめ文房具を作ることにしました。文房具にしたのは、わたしが文房具が好きだったからです。

 

—— 2017年というと今から5年前ですね。今でこそサステナビリティは人々の間で浸透してきていると思いますが、5年前はどうでしたか?

Radhika: かなり寂しい旅のはじまりでした。2017年当時は、わたしがやっていることに多くの人は理解を示しませんでしたね。「文房具を植える?」「それに何の意味があるの?」と言われることも珍しくありませんでした。

—— 理解してもらえるようにどのようなことをしました?

Radhika: わたしが行っていることがどういったことなのか、どうしてそれをやる意味があるのかについて教育するためのイベントをしました。それは販売することが目的ではなく、あくまでも、気づいてもらうためのイベントです。サステナビリティの旅路は長旅で、時間のかかるものです。サステナビリティという概念に人々が適応していかなければならないことは間違いないと信じているので、わたしたちの製品についての認識と教育を広める努力は今でも続けています。

—— 環境活動を先導することは簡単なことではないですね。

Radhika: 消費者に理解をしてもらうことと同時に、信頼できるパートナーを見つけるなど製品を作る過程でもトライ・アンド・エラーの繰り返しでしたね。けれど、人々の暮らしに自然を取り戻すというゴールに情熱を持っていましたし、わたしたちが直面している問題を本当に解決したいと思っていたので突き進むことができました。結果として2020年はパンデミックがありましたが今こうして生き残ることができたのは、徐々にではありますがサステナブルなライフスタイルを作るという考え方が世の中で支持され始めるようになって、わたしたちのやっていることがより多くの人に届くようになったからだと思います。

自然に還る文房具

—— 一般的な文房具のネガティブなインパクトについて簡単に説明して下さい。

Radhika: 例えば鉛筆やノートブックであれば、それを作るために木を切り裂いて製造していますよね。ペンなどは、もちろんプラスチックを使って作られています。一般的な文房具は、使い捨てなのでゴミとなってしまいます。

—— 自然に還る文房具の特徴はどんなものですか?

Radhika: わたしたちの植物性文房具は、BĪJ(ベジ)と言う「Plantable Series (植えられるシリーズ)」として展開しています。BĪJはサンスクリット語で「種子」を意味するんですよ。製品の全てはわたしの故郷であるインドで作られていて、鉛筆、ペン、ノートブックなどがあり、環境に配慮した材料で作っています。例えば、ベストセラーの鉛筆は、家庭から回収された新聞紙を再利用しています。また鉛筆の底にオーガニックの植物の種があるので、使い終わった後は、鉢に植えることができます。種は、トマト、チリ、マリーゴールド、インドバジル、ほうれん草、オクラなどがあります。

Left-handesign®
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—— 製品はどのように作られているんですか?

Radhika: わたしたちの製品は全て職人の手作業で作られています。

—— 手作業ということは、数もとても限られていますよね。

Radhika:はい。なので、わたしたちはセット販売などはしていないんです。時々、まとめ買いをしたいと来てくださる方もいるんですが、とてもスローな製造過程なので「待って下さい」とお伝えしています。

サステナブルの輪を広げるためにできること

——  どういった方が製品を購入されることが多いんですか?

Radhika: やはり環境に配慮した暮らしをしたい方が多いと思います。そういった方々が少なくとも1度は試してくれて、友達や家族へのギフトとして購入してくれることもよくあります。

——  文房具だとギフトとして選びやすく、サステナビリティーの輪を広げやすいですね。

Radhika:『BACK TO EARTH BOX』というのギフトボックスを販売しているんですが、これはスターターキットのようなものです。ペンと鉛筆、ノートブック、ココポット(ココナッツ繊維から作られたポット)、ココピート(土を使わない植物育成用の無菌培地)が含まれていて、サステナブルな暮らしに興味はあるけれど、何から初めていいか分からないといった方々にプレゼントすることができるようになっています。

https://left-handesign.com/products/back-to-earth
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——  サステナブルの輪を広げるために、どのようにすれば一人ひとりにもっと危機感を持ってもらえると思いますか?

Radhika:サステナビリティとは、気づきと習慣だと思っています。何が起こっているかということに気づいて、習慣を変える必要がありますが、すでに身についてしまった癖を変えることはとてもスロープロセスです。

おそらく年配の方はそれまで積み上げてきた習慣を変えるのはとても難しいことなのではないでしょうか。実際、わたしたちの顧客も若年層が中心で、彼らにサステナブルの意識を植え込むことはとても簡単なことだと感じています。

わたしたちのショップに立ち寄ってくれる人には、必ず声をかけるようにしています。けれど、それにはやはり限りがありますよね。

ですので、環境問題に関心のある若年層である、子どもや孫が両親や祖父母とちゃんと座って話す機会を持てたらいいですよね。「これがどうして地球にいいのか」ということを説明するんです。

——プランタブル文房具を通じて叶えたい社会的なインパクトについて教えて下さい。

Radhika: "人々の暮らしに自然を取り戻す "というのが、このブランドの基本的な考え方です。製品を使った後に、ゴミ箱に入れるのではなく、土に還します。それは、プランタブル製品だけができることで、自然と私たちの日常生活とのつながりを築くのに役立つと信じています。

ライター取材後記

あまりにも便利なものに慣れ親しんでしまった現代社会では、完璧なサステナブルライフスタイルは自分ひとりで実現できることではありません。その輪を広げるために、葛藤や怒り、無力感に苛まれることもあるかもしれません。(わたしはよくそうなります)けれど、サステナブルの旅路は、一歩一歩の積み重ねが大切であり、一人ひとりがこの世界を変えることができるという力強いメッセージをRadhikaは与えてくれました。老若男女問わず使う文房具は、特にサステナブルの輪を広げやすいものだと思います。小さな変化でもそれが一人でも多くの人の習慣になるまで微力ながらわたしもコツコツと広げていきたいと思います。

取材協力:Left-handesign®

Left-handesignは、シンガポール初のプランタブル文房具を販売するライフスタイルブランド。創業者Radhikaのスタジオで始まったハンドメイド文房具を作る小さなビジネスは、日々の生活の中で目にする旅行、アート、自然、食べ物などのシンプルな喜びからインスピレーションを得たコレクションを扱うブランドへと成長しました。

サンスクリット語で種を意味するBĪJと呼ばれる彼らの「Plantable Series」は、インドの社会的企業を支援するためにデザイン・生産されており、植えるとハーブに育つ鉛筆、ペン、ノートで構成されています。

また、Left-handesignは2018年より、国連環境計画の「10億本植樹キャンペーン」やWWFの「Cities for Forestsキャンペーン」に加盟する社会企業「GrowTrees」と提携し、自社製品の販売ごとに1本の木を植えています。2025年までに20,000本の植樹を目指しています。

Left-handesign® | Plant Your Stationery: 公式HP

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AUTHOR

桑子麻衣子

桑子麻衣子

1986年横浜生まれの物書き。2013年よりシンガポール在住。日本、シンガポールで教育業界営業職、人材紹介コンサルタント、ヨガインストラクター、アーユルヴェーダアドバイザーをする傍、自主運営でwebマガジンを立ち上げたのち物書きとして独立。趣味は、森林浴。



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