世界初「木のストロー」が生まれた背景にある日本の森林問題とは|開発者たちが語るストーリー

 世界初「木のストロー」が生まれた背景にある日本の森林問題とは|開発者たちが語るストーリー
アキュラホーム

間伐材で作られた世界初の「木のストロー」。開発者である木造注文住宅会社アキュラホームの広報担当、西口彩乃さんと、その仕掛け人である環境ジャーナリストの竹田有里さんに、開発秘話をインタビューしました。

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プラスチック汚染を解決するため脱プラ社会へのシフトが急務な昨今、間伐材で作られた世界初の「木のストロー」が注目を集めています。2019年のG20大阪サミットでも採用され、多くの賞も受賞するこのプロダクト、以前に商品についてをご紹介しましたが、今回は開発者である木造注文住宅会社アキュラホームの広報担当、西口彩乃さんと、その仕掛け人である環境ジャーナリストの竹田有里さんに、開発秘話をインタビュー。西口さんは開発を始めた2018年より以前は、環境問題の知識も意識も低かったところからのスタート。なぜ商品化を叶えるに至ったのかを伺うと、サステナブルな1プロダクトとしてだけでなく、日本の林業が抱える問題、自分と社会とのつながりを感じさせてくれる背景ストーリーが。日本ではまだまだどこか他人事に感じている人も多い環境問題やサステイナブルなモノ・コトを、自分ごととして日常の当たり前に取り入れることの魅力なども教えてもらいました。

ーーまず開発を担当されたアキュラホームの西口彩乃さんは、環境問題にはあまり関わりがなかったところからのスタートだったそうですが、始まりは何がきっかけだったんですか?

西口:私は2012年にアキュラホームに入社して、2015年から広報を担当してきたんですが、会社としては環境負荷の少ない住宅づくりをモットーとしています。CSR活動としても10年以上前から、地域の学校で木育授業をしたり、間伐材を使った学習机の天板を寄贈してたりしているので、私も環境意識がまったくゼロだったわけではないんです。ただ、以前はそこまで積極的に考える機会がなくて。広報担当としては、住宅業界の管轄である国土交通省の記者クラブにも出入りするんですが、そこで当時東京MXテレビの記者をされていた竹田有里さんと出会いました。それから仲良くさせてもらうなかで、竹田さんが2018年の夏に西日本豪雨を取材されて、現地で感じた林業の問題から「木のストローを作れないかな」という相談をいただいたのがきっかけでした。

竹田:そのとき豪雨によって大規模な災害が起こった現場を取材したんですが、被災された方々にお話を伺うと、「こんなに大きな被害になったのは天災ではない、人災だ」とおっしゃる方がすごく多かったんです。激しい豪雨が降れば自然と土砂災害が起きてしまう可能性も大きいんですが、問題は自然の森林というより、材木を育てるために作った人工林に原因があって。本来そうした人工林は、健全に保つために適切な間伐(太い木を育てるために、細い木を伐って間引きをすること)をしないといけないんです。日本は何十年も前から、木材をたくさん作って利益を上げるために、各地の山々に人工林を増やしてきたんです。それが今では国産材の需要も林業自体も衰退の一途で、職人さんの高齢化や後継者不足などが深刻化し、きちんと間伐されずに放置されたままの人工林が増えているんです。もともと人工林は管理されていないと根が弱ったり腐ったりして土砂災害に繋がりやすく、被災地のあちこちでも「手入れをしていればここまで被害は大きくならなかったのでは?」という声がとても多くて。そこで、記者として伝えるだけでなく、そうした間伐材や災害時の倒木などをうまく活用できないかなと。その頃、プラスチックのストローが刺さったウミガメの映像を見かけたり、スターバックスがストローを廃止にすると宣言したときで、間伐材を使ったストローが作れないかなと閃いて、西口さんに相談したんです。

林業や廃プラの問題を知ってもらうためのストロー

ーーそうして間伐材から「木のストロー」が生まれたんですね。「世界初」の技術ということですが、そこに至るにはどんなご苦労があったんですか?

竹田:間伐材は割り箸や再生紙などにはよく使われますが、私が最初に「木のストロー」「Wood Straw」など調べたときは全然見つからなくて。そこから試行錯誤しながら行き着いたのが、「薄くスライスした木を斜めに巻く」という技術で、その量産を叶えたのが世界初だったんです。

西口:最初に竹田さんにお話いただいのが2018年のお盆だったんですが、私は環境問題についても商品開発も、そもそもストローが何cmなのかも知らない、まったくの未知数でした(苦笑)。最初は木に穴を開けるくらいの安易な発想にしかなくて、第一号の試作品は、ただ木をくり抜いただけのストローだったんですが、大きすぎて全然飲めない(笑)。そのとき、間伐材が細くて弱くて節だらけで、使い道も需要もない素材をストローにすることがどれだけ大変かを目の当たりにしたんです。でも竹田さんの熱い思いに応えたい気持ちが強くて、何度も話し合いを重ねるなかで、「ただ木のストローを作るだけじゃ意味がない。この製品をきっかけに林業や廃プラの問題を知ってもらえたら」という思いも湧いてきました。そうして案を練り直すなかで、うちの会社は社長が元大工で、CMでも「カンナ社長」と呼ばれているんですが、カンナで削ったスライス材が社内にもたくさん溢れていて、それを有効活用できないかなと思ったんです。それも1本作って終わりではなく、間伐材を持続的に活用するビジネスモデルを作れたらと思って、スライスした木を巻く方法を思いついたんです。

竹田:といっても、最初にまっすぐ巻いた試作品を作ってくれたんですが、それだとなかなか飲めなくて、またそこからさらにトライ&エラーの繰り返しだったんですよね!

西口:そう。まっすぐ巻いたら裂けてしまったり、飲み物を全然吸い上げられなくてダメだこりゃって(笑)。カフェ巡りをしながら実験を重ねて、最終的には斜めに巻いたら強度が出せると気づいて、辿り着いたのが、杉の木を0.15ミリの薄さまでスライスしたものを斜めに巻き上げて、ストローの口径を4ミリに作る方法だったんです。

竹田:斜めに巻いたほうが、木目調の美しいデザインにもなって、お菓子のプリッツのような可愛らしさも感じられて。もちろん、天然素材なので自然に還りますし、林業を活性化するためを考えると「使い捨てのストロー」という形が理想的かなと思い、商品化に至ったんです。

アキュラホーム 木のストロー
木のストロー

木のストローが、教材やコミュニケーションのきっかけにも

ーー実際、ユーザーからの声はいかがですか?

西口:現在「ザ・キャピトルホテル東急」さん、「横浜ベイシェラトン ホテル&タワーズ」さん、今夏からは成田空港の直営飲食店、さらに12月からはJR東北・北海道新幹線と北陸新幹線の「グランクラス」でも導入いただいたんですが、「ザ・キャピトルホテル東急」さんでは、木のストローをきっかけにお客様との会話が生まれてコミュニケーションツールになっているそう。また、海外ではザラッと荒削りに仕上げることが多く、木を美しく削る技術や風習は日本ならではなんですが、G20の会合で使ってもらったとき、海外の方々から「日本ならではの発想だね」と褒めていただいたのも嬉しかったですね。お子さんにも使っていただいて、最近はzoomで小学生に授業をさせていただくこともあるんですが、子供たちもこのストローを通して考えを巡らせてくれる姿がとても嬉しいですね。

竹田:授業を受けてくれた子供たちは、カフェなどに出かけて他のストローと比較研究をしているそうで、環境や社会問題を学ぶ教材としても有意義なんだと最近気づきました。このストローは横浜市の障害者の方々に手作業で作ってもらってるんですが、そうした背景も話しながら、障害の有無に関わらず、みんなでより良い社会を創り上げていく感覚を身につけて欲しいですね。

西口:生産はすべてメイドインジャパンで、スライス材に削るところは機械で行うんですが、斜めに巻いて商品を完成させてから梱包するなどの一連作業は、すべて障害者の方々の手作業。じつはJR新幹線で使っていただく商品も、生産をJR東日本の系列子会社で障害者の皆さんに作っていただいていているんです。そんな風に、この1本1本のストローを通して、障がい者雇用を創出するほか、様々な社会問題を解決する一助を担えたらと思っています。

環境問題や社会問題、商品の背景やストーリーで商品を選ぶ時代へ

ーーさまざまな反響が広がっているようですが、お2人としてはこの商品開発がどんな転機になっていて、今後はどんな夢を描かれていますか?

竹田:私は記者一年目の2011年に、東日本大震災の被災地取材を機に、気象庁担当となり災害報道を続ける中で、特に気象災害において原因は気候変動との関わりが大きいことも感じます。そのなかで、このストローを手に取った方が林業、海のプラスチック汚染、障害者福祉などについて考えるきっかけになれているようでとても嬉しいです。ちょうど2021年1月から、欧州EUでは使い捨てプラスチックの使用が全面禁止になることもあって、フランス・パリなどでも木のストローを使えないかという問い合わせをもらっているんです。もちろん、これだけでさまざまな問題が解決するわけではないんですが、私個人としても今年は子供も生まれたばかりで、できれば「使い捨てプラスチックを知らない子供たち」になってもらいたいとも強く感じたんです。他にも、今はコロナ禍の背景で食糧過多によるフードロスも急増しているので、今後もそうした問題を解消できるような商品を考えていきたいなと思っています。

西口:私は昨年G20に参加したとき、これからの社会は環境問題の解決やSDGsに取り組んでいない企業は淘汰されていくんじゃないかなって、すごく感じたんですね。と同時に、SDGsに積極的に取り組む企業もどんどん増えていて、小学生でさえもSDGsを学校で学んでいる今、その子供たちが社会人になったときは、SDGsへの貢献度を指標に企業を選ぶかもしれない。そう考えると環境への配慮はこれから大きな軸になっていくと感じています。この開発を始めたときは、教材として授業で使ってもらえたり私が講演するとは思ってもいなかったし、今年は開発秘話を綴った『木のストロー』(扶桑社)も出版したんですが、私が本を書くだなんて想像すらできなかった(笑)。でも今後も私なりに伝えていけたらとも思いますし、木のストローは機械さえあれば外国でもできるので、現地の林業や雇用にも貢献できる形で海外にも広められたら、と思っています。

ーー最後に、環境問題をもっと身近に感じたり、サステナブルやエシカルなアクションを増やすために、お2人からアドバイスをいただけますか?

竹田:そうですね。日本ではまだまだ、環境保護というと森に暮らすヒッピーや意識が高い人たちだけ、さらには反原発、反自民党といった人たちがやること、というイメージが強いように思います。でも海外では日常のごくごく当たり前に、多くの人が自分のライフスタイルの中に環境への配慮を取り入れていて。ご飯を食べて歯磨きして、そんな時間に環境に良いものを取り入れています。日本でも、たとえばひと昔前は道端やお店でタバコを吸うことが当たり前でしたが、今では堂々とタバコを吸うなんてあり得ない時代。環境問題やサステイナブルについても、海外のように「環境に優しいことってクールでカッコいいよね!」くらい、もっというと「え、やってないの? ダサいね」くらいのイメージ作りが、日本でも必要だなと感じています。その波を作るのは企業やマスコミの力と責任でもありますが、消費者の皆さんも安さに走らず、商品の背景やストーリーで選んでもらえたらって思います。

西口:竹田さんがおっしゃるように、やはり価格はネックの一つで、プラスチックストローと木のストローで比べると、確かにプラスチックのほうが安価。ですが、環境負荷で比べると大きな差があります。最近よく「環境負荷が違うものを同じ土俵で比べること自体が間違い」という声ももらうんです。住宅に例えると、欧州ではAパターンの家とBパターンの家を比べるとき、当たり前に環境負荷も提示されていてそのぶん価格も違う。日本でも、完成品だけで判断するんじゃなくて、背景まで判断基準に入れて選んでもらえたら。最近は「環境に良いもの=自分にとっても良いもの」という認識が広まっているようにも感じるので、そうした目線を持ちながら楽しんでみてもらえたらと思います。

お話を伺ったのは...

竹田有里さん

竹田友里
竹田有里さん

環境ジャーナリスト。TOKYO MXでニュースキャスター、社会部・政治部記者を歴任。災害報道や環境番組を制作した後、フジテレビの環境ドキュメンタリー番組「環境クライシス」の記者として企画制作・出演。雑誌・ウェブページでも執筆。文化放送「斉藤一美ニュースワイドSAKIDORI!」でサブキャスター・記者としても活躍。

西口彩乃さん

西口彩乃
西口彩乃さん

1989年、奈良県生まれ。大学卒業後の2012年、木造注文住宅会社の株式会社アキュラホームに入社。 大阪支店での営業職を経て、2014年より新宿本社にて広報を担当。2018年から開発に携わった「木のストロー」が、ウッドデザイン賞(優秀賞 ―林野庁長官賞)、キッズデザイン賞、グッドデザイン賞(私の選んだ一品 ―2019年度グッドデザイン賞審査委員セレクション選出)、グッドライフアワード(環境アート&デザイン賞)、地球環境大賞(農林水産大臣賞)など、さまざまな賞を受賞。2020年10月には著書『木のストロー』(扶桑社)を刊行。

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Text by Ayako Minato



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