世界の長寿エリア「BLUE ZONE」と百歳人に見る、ヨガとの共通点|栗尾モカの更年期大学#13

 世界の長寿エリア「BLUE ZONE」と百歳人に見る、ヨガとの共通点|栗尾モカの更年期大学#13
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栗尾モカ
栗尾モカ
2023-03-17

「ニューヨーク・タイムズ」ベストセラー『The Blue Zones(ブルーゾーン) 2nd Edition(セカンドエディション) 世界の100歳人に学ぶ健康と長寿9つのルール』が話題です。

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タイトルの 〈Blue Zone〉とは、100歳以上の人が多く暮らす長寿地域のこと 。著者のダン・ビュイトナー氏は「ナショナル・ジオグラフィック」誌とチームを組み、世界の長寿研究者たちと協力をしながらブルーゾーンの徹底研究をスタート。 取材を重ね、健康と長寿の9つのルールを探りました。 百歳人たちはそれぞれの国で、どのような生活を送っているのでしょうか?本書では「長寿の真実」をテーマに、長寿地域であるイタリア・サルデーニャ島・日本・沖縄・アメリカ・ロマリンダ・中米コスタリカ・ニコジャ半島・ギリシャ・イカリア島・を紹介しています。そこには、ヨガに通じる世界観がありました。

地図

お話を伺ったのは…荒川雅志先生(国立大学法人琉球大学国際地域創造学部ウェルネス研究分野教授)

荒川雅志
1972年、福島県生まれ。学習院大学卒業、福岡大学大学院医学研究科社会医学系疫学専修修了。医学博士。1999年に沖縄に移住、長寿者のライフスタイル研究、沖縄健康長寿素材の研究、海洋療法の研究を行なう一方、地域資源を活かしたニューツーリズム、ウェルネスツーリズムのモデルを産学官連携で多数開発する。旅の起源、健康と観光とを結ぶ「ヘルスツーリズム論」を日本で初めて開講。ウェルネス研究、ウェルネスツーリズム研究の第一人者でもある。長寿やウェルネスに関する寄稿や国際講演多数。官連携で多数開発する。旅の起源、健康と観光とを結ぶ「ヘルスツーリズム論」を日本で初めて開講。ウェルネス研究、ウェルネスツーリズム研究の第一人者でもある。長寿やウェルネスに関する寄稿や国際講演多数。

世界の百歳人(センテナリアン) に学ぶ健康と長寿の9つのルールの中身とは

以下のルールは、距離の離れたさまざまな長寿エリアから最良のライフスタイルを導き出したもの。ひとつひとつを見ると、ヨガを実践するヨギーの生活に重なるところがあるのではないでしょうか。
サークル

ルール1:適度な運動を続ける

ルール2:腹八分目で摂取カロリーを抑える

ルール3:植物性食品を食べる

ルール4:適度に赤ワインを飲む

ルール5:はっきりした目的意識を持つ

ルール6:人生をスローダウンする

ルール7:信仰心を持つ

ルール8 : 家族を最優先にする

ルール9 :人とつながる

筆者はシンガポールでインド人講師が指導をするヨガスクールに通っていますが、ヨギーのライフスタイルとして、ルールの中にある「適度な運動」「腹八分目」「植物性の食事」「目的意識」「人生をスローダウン」は、取り入れるべきだと以前から話がありました。特にルール9の「人とつながる」は、ヨガの精神ではとても大切なこと。ヨガの言葉の語源はサンスクリット語の「ユジュ」で、「くびき(馬と馬車をつなぐ道具)」という意味。ヨガは「結ぶ・つながり」と解釈されています。荒川先生は「人と人との繋がりが長寿の秘訣」という言葉とブルーゾーンの人々のライフスタイル、そしてヨガには深い繋がりがあると語っています。詳しくお話を伺いました。

長生きを目指しているわけではなく、何かに熱中したことで命が延びている

ーー荒川先生は、世界に5つあるブルーゾーンの1つである沖縄で20年以上の間、長寿者のライフスタイルの研究を行い、ウェルネス研究の第一人者として活躍されています。現在も沖縄にお住まいですか?

荒川先生:はい。沖縄在住です。2000年までは沖縄が長寿世界一だったことで長寿研究に携わるご縁を頂きました。ベストセラー作家のダン・ビュイトナーさんを沖縄の村にご案内したことが『The Blue Zones』の書籍に参加したきっかけです。私のバックグラウンドは医学研究ですが、現在は観光やウェルネス、そしてウェルネスツーリズムが専門分野となっております。 

ーー沖縄の高齢者の方々はとても元気なイメージがあります。私も仕事で沖縄に3年住みましたが「生涯現役」さながらのパワフルな方々にたくさんお会いしました。

荒川先生:そうですね。皆さんバイタリティが凄いです。アフターコロナ時代の生き方のヒントがあると思っています。そこに注目して欲しいですね。長生きを目指して長寿になったわけではなく、日々生きがいを持って生活を充実させ、何かに没頭して熱中していった結果、長寿に繋がっているのではないかと思います。沖縄では、高齢者の方は「おじい」「おばあ」と親しみのある愛称で呼ばれ、周りから大切にされる文化があります。

沖縄の高齢の方たちは、戦争があった激動の時代を経験しています。その間もしなやかに、あるいは時にしたたかに生き抜いてきた世代の人たちですから。そこにも生き方のヒントがあるのではないかと思います。大いに学ぶべき方々です。

しなやかに、したたかに生きるためのヒントのひとつが沖縄文化です。例えば、沖縄では「カチャーシー」という頭上で手を回す踊りがあります。カチャーシーは、かき混ぜるという意味ですね。これは地理的な特異性による文化ですね。アメリカの時代があり、中国の時代、そして大和という日本の時代があって、琉球王国というキングダムもあった。そこをまかき混ぜるというか、それがむしろアイデンティティ。「いろんな文化のかき混ぜ」が、沖縄のアイデンティティだと言われています。

沖縄では97歳を迎えた人を地域全体で盛大に祝う。「支えられている」と安心する気持ちが長寿に繋がる

荒川先生:僕が沖縄に移住した時、 沖縄生まれの妻のおばあちゃんは97歳でした。僕がマスオさんとしてお家に転がり込んだのですが、そこにはそのおばあちゃんがおりまして。ただ、お年寄りという扱いでは全くないです。 むしろ、おばあちゃんが家族の中の主役の座をキープしています。

沖縄の風習で「カジマヤー」 と呼ばれる97歳のお祝いがあります。カジマヤーとはかざぐるまのことで、「童心に帰る」という意味があります。そこでは、100歳を迎える時のお祝いよりもさらに盛大に、地域ぐるみでお祝いをします。

一般的には、長寿のお祝いは家族や親族がお祝いしますが、沖縄の場合、家族や親族はもちろん、近所の人々、あるいは村や市で盛大にお祝いをします。本人の人生は家族のための人生であり、さらに地域の宝にもなっています。

長生きをして学んだことを周りに伝える。役割を得て、使命さえも感じる。盛大なお祝いには、その機能があります。自分を支えてくれる地域の人たちがいるということを感じることができるのです。それは、長寿の要因の1つだと思います。

医食同源。よもぎ酒は、おばあのカンフル剤。体に良いハーブを日常使いする

荒川先生:Blue Zones の著者、ビュイトナー氏を沖縄に案内した時、104歳のおばあさんのお家に連れていったのですが、そこで、昼間に彼女がヨモギ酒をヒュッとひっかけたんですね。それを見て彼は驚いていました(笑)。

ヨモギ酒はおばあさんの手作りです。沖縄にはヨモギがあちこちに雑草のように生えています。それを摘んで少し乾燥させて色々な食材に混ぜます。お米に入れて炊いたりもしていましたね。

沖縄の料理は、中国文化の影響が強いです。中国ではなんでも食べる。そして、食べるものは全部薬だという意識があります。医食同源という言葉が根づいているのです。古くから中国にある体によい食材を日常的に食べて健康を保てば、特に薬は必要ないという考え方です。 

ーーハーブを生活に取り入れることは、インドのアーユルヴェーダにも通じる生活習慣ですね。本の中で、庭仕事も良いというくだりがありました。植物に触れることで、生命を直に感じることができつつ、淡々と作業に没頭することも出来るので、瞑想に近いのではないかと思いましたが……。

荒木先生:そうですね。生命が育っていくところを見ることは良いと思います。ヨガの世界観では、自然と土が繋がり、そして地球と繋がりますね。これも生命です。「地球と自分との一体感」ですね。普通はそこまで夢想しながら庭仕事をしていないと思いますが。とはいえ、無意識に感じているとは思います。

瞑想、あるいはマインドフルネスは、一般的には手法も大事ですが、ある決まった方法に従わないと瞑想じゃない、というわけではないですよね。自分の意識をそぎ落としていくうちに無に近くなる。そういった状態を作り出せれば。たとえば、コーヒータイムもそうですね。コーヒーをハンドドリップで落とす1分間も瞑想といえるかもしれません。忙しいビジネスパーソンであっても瞑想の時間は日常の中にありますね。

ヨガで地域のコミュニティを作るのが理想

荒川先生:長寿の秘訣の中で最も大事なことは、人との繋がりだということを『The Blue Zones』の中にも書きました。実際にコミュニティをつくりたいと思ったとき、ヨガを取り入れることは最適だと思います。

ヨガを活かせる場は、無限にあります。自然との繋がり、人との繋がり、そして地域との繋がりを作り、関係性を強くしていきたいときに、 ヨガは導入に最適だと思うので期待しています。ヨガスタジオも、地元の人たちが新しい繋がりを作れるきっかけにすることができれば、素晴らしい価値を提供できると思います。

ーーヨガというと、まだまだスポーティなイメージがありますが、ウェアに着替えなくても気軽に出来るヨガもありますし、ヨガマットがなくても立ったままだったり、椅子に座ったままできるアーサナもあります。

荒川先生:ヨガが持っているポテンシャルは、まだまだ色々あります。高齢者施設への出張ヨガも、もっと広がると良いですね。ヨガは精神性が大事で、究極の瞑想にたどり着くためのメソッドでもありますね。

「仲間と支え合う仲間」を意識的に増やすことが必要な時代に

ーー高齢者施設で外との接触をしなくなっていく人々も多い中、沖縄の高齢者の方々の外向きな過ごし方は理想的です。

荒川先生:日本やアジアの人々は、昔からお互いを支え合う文化があったわけですが、それが徐々になくなっていき、今、唯一支え合いが残っているエリアは沖縄といった社会学者の方もいます。とはいえ、元々私たちが持っていた文化でもあり、それが薄れていく時代の中でも、カバーしていくものはあります。ソーシャルネットワークとして、ITを駆使した繋がりも作ることができます。時代はどうしても変遷して、対面のネットワークが希薄になっていく時代になったのは仕方ないと言えます。でも、そこを乗り越えていかなくてはなりませんね。

ーーコロナ禍の影響は、悪いことだけではなくオンラインのコミュニケーションツールが短期間に発達した点は良かったと思います。先日、インドのヨガコミュニティが開催したオンラインのラフターヨガ(笑いヨガ)に参加しました。インドの高齢者の方々がzoomに100人以上集まっていましたが、画面に向かって参加者が同時にゲラゲラ笑うという開放的な場になりました。このイベントの告知をキャッチしてアクセスをしているインドの高齢者の方々が大勢いることに驚きました。

荒川先生:ラフターヨガですか、いいですね。高齢者の方も、ネットに詳しい方々が増えてきていて、スマホも使いこなしていらっしゃいます。オンラインで繋がるのも良い方法だと思います。

「生命が育つところを間近に見る」ことに意味がある。老人ホームと幼稚園を近くに建てるメリットとは

荒川先生:老人ホームのサービスも進化してきています。閉じこもるのではなく、外部との交流を持つのが理想的です。プログラムの中では、幼稚園児がお遊戯をしてくれる例もあります。『The Blue Zones』の中でも3世代で暮らす長寿者の様子がルポルタージュされていますが、こういう繋がりも大切です。 

ーー素晴らしいですね。日本も昔は3世代で住むような生活スタイルだったわけですが、子供と老人は、とても相性がいいんじゃないかなと自分の親と娘が話しているのを見ていると感じます。子供と話すことで高齢者は刺激や活力をもらい、子供は高齢者から知恵をもらったり、人を敬う機会を得られます。 

荒川先生:保育園と老人ホームを一緒に経営している例はいくつかありますね。 子供たちを見守ってくれる老人の存在があり、老人は子供たちと話す機会から刺激を貰う場です。これからも、こういった取り組みを進められたら良いですね。

ーー高齢者のポテンシャルを活かす活動は、これからも国内のいたるところで進めていけたら良いですね。高齢者施設では安全が守られていますから、そこで頻繁に子供たちとコミュニケーションをとることが出来るのはとても良いアイデアだと思います。 

【更年期大学今回の学び】 

パレード
イラスト・栗尾モカ

荒川先生の「人と人とのつながりが長寿の秘訣」という言葉について、考えさせられるお話でした。また、ヨガはスタジオや自宅で行うだけではなく、社会とのつながりを作る上で大きなポテンシャルがあることも、ヨガを学ぶ私たちにとって希望が持てる話だと思います。

幼老複合施設が増えていることは今回初めて知りましたが、とても素晴らしいアイデア!さらに全国に広がっていくことが出来ればお年寄りも子供もお互いに心のパワーチャージができるのではないかと思います。
「長生きしたい」と思える環境とは?『The Blue Zones』を読んで改めて考えさせられました。

高齢者に対する対応は国によって様々ですが、日本は医療費が安いことに関してはとても恵まれています。ただ、人や地域とつながりを持ち続けながら幸せに暮らすことに関しては改善の余地がありそうです。沖縄に高齢者を大切にする文化が生き続けていることは、全国の子供たちにも伝えていくべきことではないでしょうか。

荒川先生のお話をオンラインで聞くことができる機会や、様々なイベントもありますので、ご興味がある方はチェックしてみてください。 

荒川先生の授業を学べる「NIPPON SPA ASSOCIATION」
国際ウェルネスツーリズムEXPO 2023年5月10~12日開催(第一回)
*荒川先生は本展覧会のアドバイザーを務め、初日に講演をおこないます

BLUEZONE
ダン・ビュイトナー(著)荒川雅志(訳・監修)仙名紀(訳)
出版社:祥伝社
〝The Blue Zones, Second Edition: 9 Lessons for Living Longer From the People Who’ve Lived the Longest〟(2012年)の邦訳。「ナショナル・ジオグラフィック」誌とチームを組んだ著者のダン・ビュイトナー氏は、世界の長寿研究者たちを巻き込み、ブルーゾーンの徹底研究をスタート。ブルーゾーンを訪ね、滞在し、そこに暮らす百歳人にインタビューをし、長寿の理由を探求したルポルタージュ。

参考:
厚生労働省 託幼老所の取組 

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栗尾モカ

栗尾モカ

記者・漫画家。新卒で航空会社に就職。退社後、出版社に入り多くの企画に携わる。「ダ・ヴィンチ」で漫画家デビュー後、朝日新聞の社会見学連載、「TVタックル」モバイルサイトインタビュー、女性誌「STORY」の海外・美容取材など数多くの連載を担当。女性のウェルネスをテーマにしたコミックエッセイは、取材の経験がニュースソースになっている。シンガポールのメディアに再就職した際、締切と子育てに追われる中でインド・バンガロールにあるヨガ研究大学(Swami Vivekananda Yoga Anusandhana Samsthana / S-VYASA)により考案されたヨガインストラクター認定プログラムに出逢い、資格を取得。伝統的なヨガ哲学や、心身を癒すメソッドを学び始める。著書に「サロン・ド・勝負」「おしゃれレスキュー帳」(KADOKAWA)「女のネタ帖」(学研)などがある。



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