トラウマ・セラピストが解説|ヨガが遺伝に与える驚くべき影響

 トラウマ・セラピストが解説|ヨガが遺伝に与える驚くべき影響

私たちの身体的、感情的、行動の傾向(良いものも悪いものも)は、私たちだけのものではありません。それらは、世代から世代へと受け継がれていくことが多いのです。

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若い頃のある時期、私は公選弁護人になりたいと思ったことがあります。初めて受けた刑法の授業で、教授が 「公平と正義は同じものでしょうか」と質問したんです。私は興奮で思わず弾みそうになりながら、高々と手を挙げました。21歳の私は、なぜそれが同じものだと信じているのか、その理由を述べた後、教室の前に来るように言われました。教授は、ゆっくりと、じっくりと、南部風の深い語り口で皆に聞こえるように私に語りかけました。「君はこの国で最も悲しい弁護士になってしまうな!学校の向かいにあるソーシャルワーカーの学校に行きなさい。そこなら、アメリカの裁判制度の元ではなく、公正と正義が隣り合わせにあるという信念が貫かれているよ」。

これは、私にとって永遠に感謝すべき、辛くも有難い瞬間でした。それ以来、私は人間の心、精神、魂に関わる仕事をするようになり、公正と正義が必ずしも同じテーブルにつくとは限らない世界に生きています。

私の仕事は、悲しみ、トラウマ、そして喜びに満ちています。この3つの組み合わせはあまり想像できないかもしれませんが、実は深く絡み合っていて、私たちが世界をどのように見ているかという人生の瞬間をとらえ、網の目のようにつながっているのです。トラウマ・セラピストである私にとって、心の悲しみ、心の混乱、意味や精神から切り離された感情への対処を熟知していることは非常に重要です。

心を失っていく

1999年、父はアルツハイマー病が進行していました。父と散歩に出かけると、父は私にこう言ったものです。「君を愛してるのはわかってるんだ…。ただ、君の名前がわからないんだ」。私たちは笑い合い、微笑み合ったものです。

私は父に、「大丈夫よ、お父さん、船員はみんなそう言うよ、心配ないわ」と言うと、また、私たちは笑い合うのです。

アルツハイマー病は、そういう病気なのです。影響や感覚はまだそこにあるのに、それを言葉にする能力が低下したり消えたりするのです。父が壊れていくのを見るのは、心が痛みました。

彼は、ニューヨークタイムズ紙のクロスワードパズルを解くような聡明な人でした。1992年から2001年にかけて、父は "正気を失う"ということがどういうことなのか、私に話してくれました。父は、自分の心は砂のようなもので、その砂を手に取ると、自分の記憶が指の間に落ち、捕らえられないことを感じると語っていました。

父が亡くなったとき、皆、そこに集まっていました。私はホスピスルームで一晩を過ごし、彼の呼吸パターンに合わせるようにしました。私はそれを1980年代、大学院時代の実習期間にエイズ・ホスピスで働いた時に学びました。死期が近づくと、息を吸うときと吐くときの間に長い間を置く「チェーン・ストーキング」と呼ばれる呼吸をすることが多いと教わりました。このパターンに合わせるのは難しく、また合わせようとすると感情が湧き上がってくることがよくあります。しかし、誰かと呼吸を合わせることは、親密な合わせ鏡のようです。もし誰かが無意識のとき、その相手の呼吸に自分の呼吸を合わせることで、相手は支えられていると感じるかもしれないという理論に基づいています。その時、私たちの共通点はそれだけでした。そうして、私は父の死に際に寄り添うことができたのです。

世代間のサムスカーラをどう体験するか

父が亡くなってから、私はすっかり呼吸に夢中になりました。呼吸法に関する情報を探し始めたのです。そして、ヨガにたどり着いたのです。呼吸法から始めて、アーサナ(ポーズ)をとり、最後に瞑想をしました。

呼吸法とヨガを学ぶうちに、ヨガの精神的な修行法の医学的な部分であるアーユルヴェーダを学ぶようになりました。すると、西洋の心理学とアーユルヴェーダ医学の共通点に衝撃を受けたのです。

アーユルヴェーダでは、肉体、感情、経験が意識下に刷り込まれること(サムスカーラ)は世代を超えて受け継がれるとされています。西洋医学では、これらの刷り込みは“連鎖神経回路”と呼ばれ、長期にわたる行動の繰り返しや、行動や出来事の強さから作られます。

行動傾向も、先祖代々の食生活や環境要因、文化的トラウマなど、長年の習慣的な行動がDNAに何世代にもわたって受け継がれてきた無意識の体験の一例と言えるでしょう。すべてのサムスカーラに問題があるわけではなく、むしろ健康的で有用なものが多いのです。例えば、様々な病気に対する私たち固有の免疫力は、DNAやRNA、行動傾向からくるものです。

私の真ん中の息子、ジャック(当時6歳)が、片手を腰に当て、もう片方の手を頭の後ろに回し、腰を振るのをふと見かけました。これは、父が部屋で緊張を解きほぐしたいときにすることと同じでした。父はそれを "ビッグ・ジェイ・フラダンス"と呼んでいました。ジャックは父がこれをするのを見たことはありません。父はジャックがまだ4歳のときに亡くなっていたからです。ジャックが生まれたとき、父はアルツハイマー病による深い悲しみを抱えていました。しかし、6歳の息子は小学校のカフェテリアで、父のフラダンスを踊っていたのです。校長先生から電話があり、ジャックはカフェテリアでも教室でも体育館でも、誰かが問題を起こして緊張すると「バービーダンス」を踊っていた、と聞きました。校長先生も「彼のパフォーマンスは可笑しくて、笑わずにはいらない」と同意してくれましたが、先生や職員にとっては、気が散って管理しにくい状況になっていたのです。私の父の対処法であるバカ踊りは、ユーモラスな気晴らしで緊張を和らげるという効果があり、ジャックのDNAにも深く刻み込まれていたのです。

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By KATHRYN TEMPLETON
Translated by Hanae Yamaguchi

AUTHOR

ヨガジャーナルアメリカ版

ヨガジャーナルアメリカ版

全米で発行部数35万部を超える世界No.1のヨガ&ライフスタイル誌。「ヨガの歴史と伝統に敬意を払い、最新の科学的知識に基づいた上質な記事を提供する」という理念のもと、1975年にサンフランシスコで創刊。以来一貫してヨガによる心身の健康と幸せな生き方を提案し続けている。



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