【ためになる解剖学】ストレスに対応&ポーズを深める「腰筋」の役割
ヨガジャーナルアメリカ版の人気記事を厳選紹介!『Science of Yoga』の著書であるアン・スワンソンから、恐れやストレスに反応する腰筋の機能について学んでみよう。
心に恐怖を感じるとき、体にはどんな感覚があるだろう。喉にしこりを感じることもあれば、背筋に寒気をおぼえたり、あごがこわばったりすることもある。しかし、体では私たちが自覚していない別の反応が起きている。股関節屈筋群の周辺がこわばるのだ。股関節屈筋群を代表するのが、体幹の深い部分に隠れている繊細な筋肉、大腰筋である。腰筋は膝を抱えて胴体のほうに引き寄せたり、坂道や階段を上ったりする動きを支えている。ヨガでは、適切なアライメント、関節の正常な回転、十分な可動域を可能にしている重要な筋肉となっている。また、私たちが恐怖を感じると、腰筋が活性化することによって、体が素早く行動を起こせるようになっている。
長時間座っていると、大腰筋をはじめとする股関節屈筋群がこわばってくる。ハイランジや、椅子にふくらはぎをのせて(壁に脚を上げるポーズのバリエーション)行うと、腰筋が十分に解放された感じを味わえるだろう。
ストレス下の腰筋
腰筋はストレス反応において重要な役割を果たしている。私たちが恐怖を覚えるとき(それが感じたものでも現実のものでも)、体には主に3つの選択肢がある。闘争するか、逃走するか、凍りつくかである。闘争反応では、腰筋によって蹴る殴るといった動的な動きが始まる。逃走反応では、腰筋が反射的に活性化されて、私たちが逃げ出すのを可能にしている。凍りつく反応では、腰筋が即座に収縮して、体は安全な胎児のような姿勢をとる。
腰筋は人間の進化の過程で人間が捕食者から逃げるのを助けてきたため、今でも私たちの恐怖に対する反応と複雑に関係している。これは良いことである。21世紀の今でも私たちは危険から走って逃げる必要があるからだ。脅威を引き起こすものが鋭い歯を持った虎ではなく、こちらに接近してくるバスに変わっているだけのことだ。過密なスケジュールや家計の問題があってストレスを受けているときも、腰筋はこわばって、緊張を抱え込む。しかも、腰筋の収縮は、脅威が過ぎ去ったあとも長い間持続してしまう。
長時間座っていたり、(ランニングやサイクリングのような)楽しくて体に良い運動であっても過度に行ったりすると、慢性的な腰筋のこわばりが引き起こされることがある。ただ、腰筋そのものが硬くなっていることは感じないはずだ。それは姿勢の悪さや腰痛、あるいは不安という形で表れる可能性がある。
腰筋の強化、ストレッチ、弛緩につながるヨガのポーズを意識的に行うことによって、腰筋のこわばりを解消して姿勢を改善し、恐れとストレスにうまく対処できるようになる。
このポーズの解剖学的特徴
腰筋は腰椎と股関節を結んでいる唯一の筋肉であり、胴体と下肢をつなぐ筋肉の橋のような働きをしている。一番下の胸椎(第12胸椎、T12)から第4腰椎までに付着しており、そこから骨盤の羽状の部分(腸骨)をまたいで、腸骨筋につながり(このためこの筋肉は腸腰筋と呼ばれることも多い)、最終的に大腿骨の小転子(骨盤の近くにある突起部)で停止している。
腰筋の働きを理解し活性化させよう
生理学的特徴
この扇のような形をした、らせん状の筋肉には、主に3つの機能がある。
1. 姿勢を維持する
人間は地球上で唯一、完全に二足歩行をしている霊長類である。腰椎が自然に前弯していることもあって(これが動きの衝撃を吸収するのに役立っている)、私たちは直立して、支えなしに長距離を歩くことができる。この直立の姿勢を維持するのを助けているのが腰筋である。腰筋は体の両側にある。両側にあるこの柱のような筋肉と仙骨が力強い三角形の土台となって、体幹を支えている。この支えがなければ、背骨は丸くなり、膝は曲がって前傾姿勢になってしまう。
2. 動きを起こす
腰筋は股関節屈筋のひとつである。このことは、この筋肉が収縮すると、 太腿と脊柱が引き寄せられることを意味している。腰筋は歩いたり走ったりする動きのほか、前屈、後屈、ランジなどの多くのヨガの動きに関わる。
3. 恐怖に反応する
腰筋は腰神経と仙骨神経叢(せんこつしんけいそう)に沿って走っているため、少なからず神経に支配されている。このことは、腰筋が反応性に優れた筋肉であることを物語っている。また、このことから腰筋は神経系によって危険が察知されたときに真っ先に反応する大型の骨格筋のひとつであることがわかる。また、腰筋は横隔膜の近くに位置するため、深くても浅くても呼吸をするたびにマッサージされている。呼吸が深くなると腰筋は弛緩するが、呼吸が浅くなると腰筋の緊張とこわばりが引き起こされる。
腰筋の強化とストレッチ
ハイランジ(下の図)をすると腰筋を動的に目覚めさせることができる。ハイランジでは、太腿の前面が腰筋を収縮させて強化し、太腿の背面が腰筋を伸ばしている。脚を前後に開くことによって、ストレッチが深まる。
どの筋肉もそうだが、腰筋は負荷がかかると強化される。ポーズに入ったあと、前の脚をゆっくり伸ばしてから再び曲げる動きを数回繰り返そう。次に、ポーズを終えようと思った時点でさらに数回呼吸する間ホールドしてみよう。
HOW TO
足を腰幅に開いてバランスをとる。前の膝が足首の真上か足首の少し後ろにくるようにして体を安定させる。
POINT
・あごを軽く上げる
・背骨を軽く伸ばす
・膝を足首の真上に
・左右の太腿をはさみのように内側に絞る
・両足でしっかり床を踏んで体幹が働いているのを感じる
・足を左右に腰幅に開く
・足の指の付け根で立つ
ハイランジでは左右の腰筋が異なる働き方をしている。右側の腰筋は体を安定させることを通じて強化され、左側の腰筋はストレッチされる。
腰筋の緊張をほぐす
腰筋の緊張をほぐすために、壁に脚を上げるポーズを少し修正して、椅子かソファにふくらはぎをのせてみよう。この仰向けの姿勢では、腰筋がゆるむ形になって、腰筋の緊張が十分和らぐ余地ができる。この姿勢で腰を少し丸めて、全身の骨を重力に任せてみよう。
脚の付け根に深い解放感があるのを感じてみよう。このポーズを5~20分間行うだけで腰筋の周辺がゆるんで心の緊張も和らぐのを感じるだろう。
アン・スワンソン●ヨガセラピーの研究で修士号を取得。ベストセラーとなっている「Science of Yoga」の著者。ヨガのポーズを安全に無理なくできるように修正して、世界中の人、特にヨガができないと思っていた人々の痛みを和らげている。無料動画と「サイエンス・オブ・ヨガ オンライン講座」で練習したい人はannswansonwellness.comにアクセスしよう。
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