妊娠中に避けるべきポーズ&呼吸のルールとは?【理学療法士によるマタニティヨガの注意点】
避けるべきヨガポーズはない?
先述したヨガポーズをマタニティヨガでは避けることが一般的ですが、一方で「避けるべきヨガポーズはない」という考え方もあります。産婦人科医でヨガ指導者の高尾美穂先生もそのように仰っていますし、私も必ずしも避けるべきではないと思っています。
というのも、妊婦さんが可能なヨガポーズは、それぞれの妊娠数週や妊娠経過、そしてヨガ経験によると思っているからです。毎日積極的にヨガを実践していた人が、妊娠して初めてマタニティヨガを受けた際「全然物足りない」と感じたという話を時々耳にします。
また、壁や椅子、ブロックやボルスターなど、補助アイテムを使うことで、上体を反らすポーズも、うつ伏せのポーズも、仰向けのポーズも、バランスのポーズも、全てのポーズを妊婦さん向けに安全かつ効果的にアレンジすることがヨガではいくらでも可能です。
腹部を圧迫してしまうとしてNGと考えられている、うつ伏せやねじりのポーズも、母体が体勢を変えても胎児は常に快適なスペースを見つけて過ごすことができるから心配ないという産科医もいます。
腹筋を使うポーズも、インナーマッスルの腹横筋から順にアウターマッスルの腹直筋を使うという正確なコントロールが可能なら安全です。
逆転のポーズも、後ほどお話する骨盤底筋群へかかる圧力を下げて弛緩させる効果があります。
やり過ぎは危険なストレッチポーズも、強度に注意して行うなら、妊娠期のみに分泌されるリラキシンの恩恵によって、分娩に必要な柔軟性をうまく高めることができるはずです。
ただ、やはり母体と胎児の安全が第一です。もしマタニティヨガの指導者としての立場の場合は、様々な背景を持った妊婦さんが参加しているため細心の注意が必要です。
マタニティヨガの呼吸のルール
さて、今回はマタニティヨガの呼吸のルールについて少しお話します。
「骨盤底筋群」を聞いたことありますか?
骨盤底筋群とは、恥骨と肛門と左右の坐骨を結ぶ、菱形の領域にある会陰部の筋肉のことです。会陰部のことをフランス語では「ペリネ」といいます。ここでは骨盤底筋群を含めた会陰部全体を「ペリネ」と呼ぶことにします。
妊娠期・分娩期・産褥期を通して、ペリネは大きなダメージを受ける部分です。たとえ帝王切開だったとしても、会陰切開をしなかったとしても、10ヶ月間も子宮の重みを支えてきたペリネのダメージは相当なものです。
大切なペリネを妊娠期から保護するために、呼吸のルールを今回ひとつだけ紹介します。
キーワードは、
「まずペリネを収縮させてから、息を吐く」です。これはデリケートなペリネに下方向への圧力をかけないためです。ペリネには尿管・腟・肛門の3つの穴が開いています。
なのでペリネを収縮させるとは、
・尿意を我慢する感覚
・腟から水を吸い上げる感覚
・肛門を締める感覚
このどちらか感覚を掴みやすい方法で、ペリネを収縮させてみましょう。
「まずペリネを収縮させてから、息を吐く」
これはヨガの時の場合には、ヨガのポーズの開始時、例えば両手をバンザイしたり、片足を前に踏み出したりなどの時や、ポーズをキープする際の呼吸に使います。
日常動作では、寝返る時、椅子から立ち上がる時、物を持ち上げる時などにペリネを収縮させてから息を吐いて動作に移るようにすると安全です。
クシャミや咳をする際も、まずペリネを収縮させてから「クシュン」とできれば、ペリネへの下方向の圧力がかからず済みます。そこまでの余裕はなかなかないかもしれませんが、もしそのレベルまでペリネのコントロールが可能になれば素晴らしいです。
まとめ
マタニティヨガは母子ともに様々な恩恵を受けることができるものです。一般的にマタニティヨガで避けるべきポーズを知った上で、妊婦さん一人一人にとっての安全で快適なマタニティヨガが本来存在することを理解していただけたと思います。
そして、ペリネを保護するための呼吸も、分娩期と産褥期を快適に過ごすために妊娠期からぜひ練習してみてください。キーワードは、「まずペリネを収縮させてから、息を吐く」です。コツを掴めば決して難しくないですし、実際ペリネへの負担が軽減している自覚も感じられることと思います。
参考:
川西康之 他,妊娠中のヨガ(マタニティ・ヨガ)の有効性に関する文献的考察(システマティック・レビュー), 日本公衆衛生雑誌 62(5), 221-231, 201
Bernadette de Gasquet「女性の美と健康を支えるGasquetアプローチ 妊娠・出産でもっと輝く女性のからだのケアガイド」メディカ出版,2018
AUTHOR
堀川ゆき
理学療法士。ヨガ・ピラティス講師。抗加齢指導士。2006年に渡米し全米ヨガアライアンス200を取得。その後ヨガの枠をこえた健康や予防医療に関心を持ち、理学療法士資格を取得。スポーツ整形外科クリニックでの勤務を経て、現在大学病院にて慢性疼痛に対するリハビリに従事する。ポールスターピラティスマットコース修了。慶應義塾大学大学院医学部博士課程退学。公認心理師と保育士の資格も持つ二児の母。
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