【40代前後、突然やってくる肩の痛みの原因と予防法】前鋸筋を覚醒する「かんたんエクササイズ」
40歳を超えると、ある日突然やってくる肩の痛み。そのうち肩が上がらなくなり、髪を結んだり、手を腰に回せなくなることも。簡単エクササイズで予防しましょう。
肩の痛みの原因は?
普段からヨガやピラティス、あるいはテニスや水泳などオーバヘッドスポーツと呼ばれる肩より上に手を上げる動作の多いスポーツを行っている人の中にも突然の肩の痛みに襲われる人が多くいます。
肩の痛みの原因は様々で、代表的なものとしてはインピンジメント症候群や腱板断裂といったインナーマッスルが傷ついているものや、肩周辺の軟骨を傷める関節唇損傷、首や胸で神経が圧迫される胸郭出口症候群などが挙げられます。
そして、いわゆる四十肩、五十肩とは、原因不明で自分でも、人に持ち上げてもらっても手が上がらなくなってしまう症状のことを言い、関節包などの肩の軟部組織が炎症を起こした後、癒着したり、肥厚したりして固まっている状態であるため、医療従事者の間では肩関節周囲炎、凍結肩(拘縮肩)などと呼ばれています。
この肩関節周囲炎が文献に出てきて150年近く、なぜ関節包に炎症や癒着・肥厚を起こして拘縮してしまうのか不明と言われていましたが、近年の研究(関節外科Vol.36 No.10「特発性凍結肩の3種類のタイプと治療的アプローチの違い」立原、浜田著)で実際に症状が出ている肩甲上腕関節(いわゆる皆さんがイメージする肩関節)だけでなく、それ以外の部位の問題にいくつかのパターンがあることが分かってきています。
立原らは大胸筋付着部に圧痛・硬結があり胸鎖関節、胸肋関節に運動痛があるもの、胸椎棘突起(胸の背骨の後ろの突起)に圧痛があり肋骨の可動域制限があるもの、そして震災などの精神的なストレスにより胸椎の過剰な後弯(猫背)などへの姿勢変化が起き、肩甲骨の運動が過剰になっているものの3タイプに分類しています。
この研究は私たち臨床家が以前から指摘しアプローチしてきたことを支持する内容でした。
いずれにしても肩の痛みの根本の原因として、普段の肩の動かし方に問題を抱えていることがほとんどで、私のところにヨガやピラティスのレッスンを受けに来る方たちは、トップアスリートを含めて、自覚する肩の痛みがなくても正常に肩を動かせている人の方が少ないと感じます。
肩が正常に動いていない人を大きく分けると、肩甲骨の動きに問題がある人と、インナーマッスルの働きが悪い人に分けられます。
今回は肩甲骨の動きに問題を抱えている人のためのエクササイズを紹介します。
前鋸筋、凝り固まってない? 原因とチェック方法
腕を横から(外転)、あるいは前から(屈曲)バンザイしようとする時、肩甲骨は自動的に上方回旋(写真)という動きをして上腕骨(二の腕の骨)の土台となってくれます。
上方回旋は円い肋骨の上で起きるので、肩甲骨の下角は斜め上方に向かって動くだけでなく、斜め前に向かって動きます。
斜め前に肩甲骨下角を引っ張るのに活躍するのが前鋸筋(図)という筋肉なのですが、この前鋸筋、凝り固まったり、弱化してサボり癖のある筋肉の代表格なのです。
前鋸筋がうまく働いていれば、肩甲骨下角は脇の下の中央から真下に下ろした線まで(写真)動きます。
ウォーリアⅠやダウンドッグなどで手を挙げたときに、ここまで肩甲骨が動いてこない人や極端に耳と肩が近づいてしまう人、肩に詰まり感や痛みを感じて180°バンザイをできない人は次のエクササイズを行って、前鋸筋の目を覚ましてあげましょう。
前鋸筋を覚醒する簡単エクササイズ
やり方
①脇の下から少し下がったところの肋骨(前鋸筋)を、反対の手で触ります。少し強めに擦ると痛い場所があるので、その場所に軽く触れておきます。
②肘を曲げて中指で肩を触ります。
③肩甲骨が重力で落ちるように肩はリラックスさせておきます。
④肘が体の正面に向くようにして肩の上に上げます。
⑤前鋸筋が収縮していることや、肩甲骨が脇の下のラインまで動いてくることを反対の手で感じましょう。
⑥8回繰り返します。
⑦次に斜め45度外に肘が向くようにして、8回繰り返します。
ヨガでは柔軟性を求めがちですが、筋が正常に働いていない状況で無理にストレッチをすると関節やその周辺の靭帯などに大きな負荷をかけてしまいます。
過剰でコントロールできない柔軟性は逆にケガの元になります。憧れのポーズの完成形にだけ目を奪われるのではなく、そこに行くまでの過程を重視してヨガライフを楽しみましょう。
AUTHOR
杉山匡人
高校時代の度重なるケガをきっかけに、ケガをしない体を作る方法を学ぶため早稲田大学に入学。卒業後、フィットネスクラブインストラクター、接骨院スタッフ、プロ野球選手のパーソナルトレーナーなどを経験する。 より多くの人を体の悩みから解放するために後進を育てることを決意し、専門学校のアスレティックトレーナーコース長として9年間勤務。解剖学、アスレティックリハビリテーション、ボディワークなどの講義を行う傍ら、あらゆる種目のスポーツ現場でアスレティックトレーナーとして活躍する。 現在、のべ2,500名以上のインストラクターを養成している日本最大級のピラティス団体「PHIピラティスジャパン」「YOGA MOVE」の本部スタジオ「EXECUTIVE7」において日本代表プロ野球選手、元スペイン代表Jリーガーなどのトップアスリートから、モデル、高齢者まで動作指導をする一方で、ピラティス・ヨガインストラクター養成講師をつとめ、多数のトレーナー養成専門学校において非常勤講師として活動。 資格:PHIピラティスマスタートレーナー、YOGA MOVEマスタートレーナー、鍼灸師、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー、日本赤十字社救急法救急員、栄養コンシェルジュ二つ星 他 講師歴:履正社医療スポーツ専門学校、三幸学園リゾート&スポーツ専門学校、東洋医療専門学校、YMCメディカルトレーナーズスクール 他 メディア:関西電力発行マガジン『withはぴe』「毎日続ける からだメンテナンス」連載 他
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