無理なポジティブ思考が仇に【慢性化する心の疲れ】どう対処すべきか|精神科医・川野泰周さんに聞いた
自分を客観的に見つめる、俯瞰の目を持つこと
――自分を肯定する、幸せを感じるために、他人と比べてしまう人も少なくありません。加えて、日本人ならではの美徳、謙遜というものもありますね。
川野さん:人前では謙遜していても、自分の心のなかでは「いや、私にはこんな能力がある」「私は努力しているんだ」「このことはしっかりやれてるぞ」という感覚を持っているかどうかが大切です。もっと言えば「自分の存在自体に価値がある」と思えているか。これはある意味仏教的なんですが、あらゆる存在は単独では存在しえない(仏教でいう「諸法無我」)、人との縁のなかで自分が存在している(仏教でいう「縁起の法則」)という考えがあると、自然と自意識や自己愛への執着を手放せるようになるんです。
でも、それは自分なんて小さいものだから死んでもいいんだといった投げやりな考え方ではなく、自分に対する「こうでなくてはならない」といったこだわりがなくなっていく。世の中にこうして命を与えられたことの喜びを感じて、幸せだなと思えるようになってくることを意味します。
そうなると誰かに批判されても「批判された」という主観的な感情ではなく、「あの人が私を批判している」という客観的な状況を把握できるようになるんです。大きな違いですよね。心理学的には「メタ認知」と呼ばれる能力、言い換えれば「俯瞰の目」です。これも、マインドフルネスによって期待される変化です。
実は本来のところ、マインドフルネスも瞑想も、あまり効果を求めてやるものではありません。効果、効能を求める心が執着を生み出し、あるがままの自分を受容することを難しくしてしまうからです。ですから、その有効性を強く紹介するというのも考えものなのですが、私はあえてそれをお伝えすることで、多くの方に「やってみようかな」という気持ちになってもらえたらという思いがあるのです。だからいざ瞑想を始めたら、そういう目的意識は手放してもらって瞑想だけに気持ちを向けるよう心がけましょう、というのがポイントです。
また、マインドフルネスと同様にヨガも、心の疲れにはとても効果的だと思います。「動きのマインドフルネス」ともいえるヨガは、自分の体と呼吸に注意を向ける実践ですから、終わったあとに自然とすっきりとした気持ちになる。注意をひとつに集めることで脳のエネルギーが回復していくんです。休日にヨガのクラスに参加することで、ただゴロゴロと寝て過ごすよりも心が回復すると感じる方も多いのではないでしょうか。大切なのは、自分に合った方法で、幸せを感じる能力を高めることです。まずは、自らを客観的に見つめる意識を持ってみること。それが、コロナ禍において心の疲れを癒すための第一歩になるでしょう。
プロフィール:川野泰周さん
1980年横浜市生まれ。臨済宗建長寺派・林香寺 住職。RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。
2011年より建長寺専門道場にて3年半にわたる禅修行、2014年末より林香寺の住職に。現在は檀務とともに、精神科医として複数のクリニックで診療にあたっている。著書・共著・監修多数。また、国内初のマインドフルネスのための通信教育講座「マインドフルネス実践講座」(キャリアカレッジ・ジャパン)の監修を務める。NHKラジオ「ラジオ深夜便」など、メディア出演を通してのマインドフルネス普及活動にも取り組んでいる。
AUTHOR
ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
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