メンタル先進国アメリカはコロナ禍の「社会的孤立」にどう対処しているのか|NYメンタルケア事情
コロナ禍による不安やストレスで、心身の健康を害している人が絶えない。それは、メンタルヘルス先進国と言われるアメリカでも同様だ。
パンデミックで増える自殺
日本では、コロナ禍における自殺件数が増えている。特に7月以降、3ヵ月連続で前年同月を上回っているという。自殺対策の調査研究機関「いのち支える自殺対策推進センター」の発表によると、無職や同居人がいる女性の自殺が増えているそうだ。コロナ禍により失業、DV、産後うつ、育児や介護問題など、経済面や家庭の悩みが影響している可能性が指摘されている。
感染拡大が深刻なアメリカはどうだろうか。CDC(米疾病対策センター)の発表では、2018年のアメリカ国内の自殺件数は4万8344人で、死因の10位となっている。また同年ニューヨーク州内の自殺件数は1723人で、これは5時間に1人が命を断った計算となる。
今年の自殺件数はまだ明らかになっていないが、パンデミックにより自殺件数が増えているという専門家による指摘もある。ハーバード大学のマシュー・ノック教授が今年の5月にニューヨークタイムズ紙に語った内容によると、パンデミックという誰もがこれまで体験したことがない危機下において、「社会的孤立」が自殺の原因につながっているという。またニューヨークのメンタルヘルス・サポート機関である「コンタクト・コミュニティ・サービスズ」では、これまで電話による相談件数が1日あたり200~350件数だったのが、パンデミックになり450件に増加したという。
一方ニューヨーク市の発表によると、今年上半期に市内で確認された自殺件数は261人。昨年の同時期は270人だったため、パンデミックによる増加は見られないものの、市は「これらのデータは暫定的なものであり、今後変更される可能性がある」としている。
自殺を防ぐ心の相談室
自殺を防ぐためには、ウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)やメンタルヘルス(心の健康)の充実を図ることがとても重要だ。メンタルヘルス先進国と言われるアメリカには、各自治体ごとにさまざまな相談機関が設けられてあり、人々は日頃から気軽に利用する傾向がある。
ニューヨーク市にも、市民のメンタルヘルスの充実を保つために、無料で提供している「心の相談室」がいくつかある。
代表的なものは、ビル・デブラシオ市長の夫人、チャーレーン・マクレイ氏が2015年に立ち上げた、心の病気のケアをする精神衛生プログラム「スライヴNYC」(ThriveNYC)だ。
スライヴNYCの一環で、24時間365日、いつでも電話、テキストメッセージ、チャットで心の相談に乗ってくれる「NYCウェル」(NYC WELL)というものもあり、コスモポリタン都市らしく、200以上の言語で対応している。どのくらいの人々がこのサービスを利用しているかは発表されていないが、市の発表では市内の5人に1人が何らかの心の病気を訴えているといい、今年はパンデミックにより3〜5月は外出制限になり、社会的孤立感やストレスレベルが高まったのは明らかなので、利用している人は少なくないのではなかろうか。深刻な精神疾患に適切な治療を施すことで、犯罪を事前に防いで治安を保とうとするのがプログラム誕生の背景にあるが、市民からはうまく機能していないという声も聞こえているのも、また事実だ。
また、コーヒーショップに行くようにカウンセラーに気軽に会いに行く文化が根付いていて、筆者の周りでも症状が悪化する前に、1人で、またはカップルや夫婦、時には子連れで「カウンセリングに行ってきた」なんていう話は日常的によく聞く。ニューヨークには「ハミルトン- マディソン・ハウス 日米カウンセリングセンター」など、日本人カウンセラーが常駐するカウンセリング・クリニックもあり、人々の心のケアにあたっている。
ライター/安部かすみ
ニューヨークを拠点とする執筆家、写真家。Yahoo! Japan News、 Newsweek のコラムニスト、CROSS FM レポーターとして知られる。著書に「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ 旅のヒントBOOK」(イカロス出版)がある。
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