精神科医・臨床心理士が語るヨガの話・後編|資格ジプシーに陥る前に大事にしたいこと
資格ジプシー…「今のあなた」で十分なのでは?
陽子:ヨガの先生を目指す人全員が、例えばマタニティの資格を取り、それに加えてメンタルも深く学んでって、ぶっちゃけ大変ですよね。だってそれぞれにバックグラウンドがあるし、ヨガの先生でいるためには、『あれもこれも取らなきゃいけない、これも勉強しなきゃいけないよ』っていう風になるのも苦しいよね。
南:今自分の中にあるもの、生きてきた背景の中にあるものでヨガを伝えるっていうだけでも十分なんじゃないかなって個人的には思うんです。あれもこれも知ってないと、ヨガの先生として足りてないとか、そういう風潮があるんですかね。
太田千瑞さん(以下、太田):そういうのを資格ジプシーっていうと思うんですが、結局それっては誰のためなんでしょうね。
南:千瑞さんがおっしゃる通り、資格ジプシーになってる方、多いんじゃないでしょうか。私も実際、ヨガの先生の資格をとる時に、あれもこれも知ってた方がいいっていう、無言の圧力みたいなものを感じたというか(笑)。資格が生徒さんのためになっているかといえば、そうでもないかなと。
陽子:いろんな資格を取っておくと安心!みたいなお守りみたいな感じなのかな。
中野輝基さん(以下、輝基):インストラクターが自己研鑽として資格を取ったり、学ぶのはいいことだけど、その先には生徒さんがいることを忘れないでほしいですね。あくまで先生として大切なのは、自分の知識やスキルを肥やすことよりも、生徒さんを見ることだからね。その辺のバランスが大切なのかな?
陽子:あと、何のために学んでいるのかっていう目標をクリアにしておくといいのかもしれないですね。何が目標なのかはその人によっても違うし、途中で修正されるかもしれないけれど、なぜヨガインストラクターになろうと思ったのかって、一度立ち返るのも必要なことかもしれないですね。資格を取ることや知識を得ることばかりじゃなくてね。
南:大切なのは知識に飲み込まれずに、目の前の人と関ろうとする姿勢を持つこと。
輝基:僕も最初の頃は「知識をいっぱい教えなきゃ!」って思っていたけど、現場で使えないと意味がないと思い直して。例えば、老人ホームで働く職員さんっていうのは、ナースやドクターに比べれば症状の知識は少ないかもしれないけど、利用者さんへのケアのレベルが低いかというと、それは全く関係ない話。ケアはケアの技術がある。ヨガの先生も同じ。メンタルなどの症状や詳細に関して伝えることが難しくても、接し方とか話の聴き方を知っておくことで、生徒さんの悩みに寄り添えるんじゃないかと思います。
南:先生向けではないですが、ヨガスタジオでコミュニケーションを学ぶための心理学講座をやったことがあります。その中でどんなことが喜ばれたか振り返ると、知識よりも実践だったんですよね。例えば、上司と部下になりきってもらい、その場で感じたことをシェアしあうみたいな。
太田:コミュニケーションを学ぶ機会は素敵ですよね。ヨガの先生が身につけてほしい話の聞き方講座とかね。
輝基:知識の詰め込みじゃなく、相手への接し方、距離の取り方を知っていれば、それはきっと生徒さんのためにもなるよね。
メンタルヘルスの知識を得ることも大切ですが、それを何のために、どういう目的で学ぶのかという原点に立ち返ると、この先メンタルヘルスをどうヨガに生かしたいのか方向性が見えてくるかも。そして忘れてはいけないのが、『目の前の生徒さんの話を聞き、寄り添う』ということなのかもしれませんね。次回の対談もお楽しみに!
中野 輝基 精神科医・MBA・RYT200・ Accessible Yoga Teacher
2018年よりMEDCAREYOGAを設立し、共同代表に就任。超高齢社会におけるコミュニティー造り・ヨガをよりアクセシブルにすることがライフワーク。フレイルヨガ®を様々な場所で提供し、地域のソーシャルキャピタルを造成している。
中野 陽子 日本麻酔科学会専門医/産業医・E-RYT200/YACEP・ Accessible Yoga Teacher
2018年にMEDCAREYOGA(メドケアヨガ)を設立、代表に就任。医療とケアとヨガの概念を融合し、人種、性別、障がい、社会的背景に関わらずコミュニティーを作り健康格差を改善する活動を国内外問わず行っている。
太田 千瑞 臨床心理士・RYT200/RPRT85/RYCT95 Yoga.Ed チェアヨガトレーナー
教育行政・小中高のスクールカウンセラーとして、いじめ・不登校・発達障害などの相談に応じる。自分の価値に気づくツールとして、ヨガを予防的アプローチを提唱し、教員研修・保護者向け講演を行う。2019年初の著書「イラスト版子どもの発達サポートヨガ」を刊行。オンラインスクール「発達支援プロモーター」を運営し、キッズヨガインストラクターや先生・保護者向けに講座を開講する。2020年1月より悪性リンパ腫のため、入院加療後、完全寛解。がんサバイバーとして、どのような状況でも心を整える方法を発信中。学校教育にヨガ・マインドフルネスを教育課程として取り入れることをミッションとして活動している。
ライター/南 舞
臨床心理士。岩手県出身。多感な思春期時代に臨床心理学の存在を知り、カウンセラーになることを決意。大学と大学院にて臨床心理学を専攻し、卒業後「臨床心理士」を取得。学生時代に趣味で始めたヨガだったが、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングと近いものを感じ、ヨガ講師になることを決意。現在は臨床心理士としてカウンセリングをする傍ら、ヨガ講師としても活動している。
Instagram: @maiminami831
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