「タバコをやめることに焦点を当てない」禁煙・節煙方法とは#やめられない理由
2020年4月1日から全面施行となった改正健康増進法を受け、喫煙所の設置や廃止を決めた企業や飲食店が増えています。一方で、コロナウイルス感染防止対策として自宅に滞在する時間が増えて喫煙時間が増えたという人もいるようです。「やめるということに焦点を当てない」禁煙・節煙方法とはどんなものなのでしょうか?
減少している喫煙率
2018年に制定された「健康増進法の一部を改正する法律」が2020年4月1日から全面施行となり、飲食店やオフィスなどの様々な施設が原則屋内禁煙になりました。技術的な基準を満たし、標識の提示がある場合は喫煙専用室での喫煙が可能になりますが、企業における健康経営や、顧客・社員へのWellbeingへの配慮などから、この機会に喫煙室を屋外に移したり廃止して全面禁煙にする企業や飲食店もあるようです。
2018年に実施されたJT全国喫煙者率調査によると、日本における成人喫煙率は男女全世代で10年前と比べて減少しており、2019年のWHOによる報告でも世界的に減少が見られます。
これまでは「依存症と言われても別にいい」「自分の人生は自分で決める」と開き直っていた喫煙者も、他者への受動喫煙への配慮や、タバコが吸いにくい環境の変化、一人、二人とタバコをやめていく周囲の人からの影響などによって「この際自分もやめようかな」と思っているかもしれません。しかし、喫煙本数を減らしたい・やめたいと思ったものの、いざ始めてみたらやめられない・やめても再喫煙してしまうという場合はどうすればいいでしょうか。
節煙・禁煙が進まない理由
節煙や禁煙が進まない理由は主に3つあると言われています。
1. ニコチン依存
喫煙がやめられない一つの理由に、ニコチンによる薬理作用があります。
ニコチンは脳の中枢神経を興奮させると言われており、血中に直接ニコチンを注入するラットを使った実験では、脳の報酬系物質であるドーパミンのレベルが25%〜40%増加したという結果が出ています。一方で、摂取本数が増えると鎮静作用が表れてくることもあり、「興奮」と「鎮静」の二相性の作用を持つ側面もあります。また、作用が消失するスピードが早く、かつ体への耐性ができるため、以前感じたような効果を維持しようとすると本数が増えてしまう傾向があります。
他の薬物依存と同様に、体内のニコチンが減ってきた際にはイライラや集中力の欠如などの様々な離脱症状が表れます。喫煙者の中には「イライラする時にタバコを吸うと落ち着く」と言う人がいますが、ニコチンの離脱症状であることが多いため、それをニコチンで埋めようとしても悪循環で、耐性によって本数は増えるばかりです。
また、コーヒーを片手に喫煙をする人も多いようですが、ここにも巧妙なメカニズムがあります。カフェインにはニコチンを体内から排出させる作用があり、カフェインによって体内ニコチン濃度を減らした上で、再度喫煙でニコチンを補うということをしていると考えられます。
「タバコを吸いたい」と渇望する報酬系や「快感や興奮を得た」という記憶を司る海馬などの働きが強くなると、「タバコをやめたい」と計画したり意思を固める時に活性化する脳の前頭前野部分がハイジャックされてしまい、計画を立てたり誓いを立ててもうまくいきません。個人差はありますが、ニコチン依存は意思の力だけではどうにもならない病気なのです。
日本呼吸器学会が提供しているファーガストロームニコチン依存度テストでチェックしてみましょう。ニコチンの薬理作用への依存度が高い場合、禁煙外来で禁煙補助薬を処方してもらい、少しずつ喫煙によるニコチン濃度を落としていく方法があります。
2. 習慣
「休憩時間になればいつも吸っている」「起きた時に必ず一本吸う」「車の中では必ず吸いたくなる」など、これまでの習慣から離れられないという人もいます。
依存症の分野でよく使われる「HALT」という法則があり、下記のような状態のときには渇望が高まりやすいと言われています。HALTには英語やドイツ語で「やめる」「停止する」という意味があります。こういう状態の時には思い出して少し立ち止まってみるといいですね。
Hungry:空腹
Angry:怒り
Lonely:孤独
Tired:疲労
3. 心理的依存
「1. ニコチン依存」とも関連しますが、「喫煙しないと仕事に集中できない」「喫煙をしているから人に優しくできる」などの思い込みから、「〜だからやめられない」という理由を形成していることがありますが、誤解です。
「眠くなるのを防ぐため」「喫煙室で大事なことが決まるから自分も行かないといけない」「みんな吸ってるから仲間はずれになりたくない」などもよく挙げられます。眠いのはどうしてでしょうか?どうして会議ではなく喫煙室で大事なことが決まってしまうのでしょうか?根本に立ち戻って解決したり、喫煙でない方法で目的が達成できないか考えてみましょう。また、経営者や人事の方には、喫煙室ではない場所にも憩いの場を作れないか、ぜひ検討していただきたいと思います。
CRA(コミュニティ強化アプローチ)とは
薬物依存へのアプローチにはいろいろなものがありますが、今回はCRA(コミュニティ強化アプローチ)を紹介したいと思います。これはオペラント強化アプローチを基礎とした認知行動療法で、オランダなどの国では保険診療として認められているエビデンスの高い薬物依存の治療法です。
このアプローチは薬物を減らすことそのものに直面化させるのではなく、薬物を使用していない時間や環境などを増やすような働きかけや環境調整に焦点を当てます。節煙や禁煙をしたい患者がいる場合、セラピスト(注)は患者の目標や環境に合わせてテーラーメードのプログラムをつくり、支援します。
CRAでは必ずしも全てやめてしまう(禁煙・禁酒・断薬)ことを念頭に置いておらず、患者が目標として望めば、減らして安全に使っていくという考え方があります。また、依存してきた物質は患者にとって良い面もある(あった)と捉えて治療していくため、当然どのようなポジティブな面があるかも見ていき、その効果を得るためにできる代替行動はないか?を患者さんと一緒に考えていきます。
CRAの実践手法の中には様々なツールがありますが、その一つに機能分析と呼ばれるものがあります。意識・無意識にかかわらず、物質(この場合はニコチン)を「摂取する前に自分がどのような状態になっているか」「摂取している際はどうか」「摂取後にはどんな(良い・悪い)結果が表れているか」を見ていくためのもので、そこからわかった強化子(強化刺激)を使って治療に活用します。
また、依存症治療の中では「スリップ」と呼ばれる、再発(再喫煙)への対応や防止策があります。CRAにおいてもスリップはありうるものとして認識されており、それをマネジメントする方法(「リラプスマネジメント」)を考え、仲間に喫煙を誘われた時の対応や、どうしようもなく吸いたくなった時にはどうすれば良いかなどについて、コミュニケーショントレーニングやロールプレイなどをしながら予め行動を検討していきます。
禁煙・節煙をしようとする際には、禁煙外来やカウンセリングをはじめ、いろいろなアプローチがあります。独力ではうまくいかないときにはぜひ試してみてください。
(注)現在日本にはCRAセラピストはいませんが、少しずつ増えていくことが見込まれています。また、CRAの認定ワークショップに参加した方や、書籍を読んだ方が自分の実践に活かすということができます。
ライター/佐藤彩有里
国家資格キャリアコンサルタント/バルーン・コンサルティング代表/高輪こころのクリニックカウンセラー/MBTI®認定ユーザー/龍村ヨガホリスティックヘルスコンサルタント/ASK依存症予防教育アドバイザー/A/CRA/FT ASIA事務局
企業での社内・社外相談や個人向けキャリアコンサルティングで多くの方の悩みに寄り添っており、嗜癖行動や依存に関するカウンセリング実績も多数。
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