占い依存と恋愛中毒に共通するもの|人生のエッセンスと盲従の境界とは#やめられない理由
依存症予防教育アドバイザーの資格をもつ佐藤彩有里さんによる不定期シリーズ「#やめられない理由」では、依存とその背景にある原因について具体的な事例を交えてご紹介します。前回のSNS依存に続き、今回は、占い、ヒーリング、カウンセリング、パートナーなどに<重要な決断を頼ってしまうことがやめられない!>という依存について考えてみましょう。
人生のエッセンスと盲従の境界
占いやヒーリングといったものに興味を持ったり、体験したことがある人は多いのではないでしょうか。人智を超えたものに対する好奇心や信心はいつの世にもあり、「科学的でない」という理由で一刀両断するのは味気ないものです。ただ、エンターテインメントや人生のエッセンスとして生活に取り入れるにとどめていれば問題ありませんが、相手の言うことを神格化してそれだけを盲従することは危険です。
また、深い心情をやりとりする相手とは依存関係になりやすく、だからこそプロのヒーラーやカウンセラーは相手に共感的であろうとしつつも、相手を依存させないように気をつけます。時たまアドバイスすることがあっても、そうする理由と、理論や知識に基づく内容があるはずです。
ですから、「〜しないと〜になる」と脅したり、「私の言う通りにしておけば間違いない」と自分のいいなりにしようとする相手には注意が必要ですし、相手の存在や言動などが自分の一部でなく「大部分」あるいは「全部」になっていないか?のチェックは恋愛依存にも当てはまります。
「選択の自由」の放棄欲求
一方で、複雑な選択や決断が迫られることの多い時代においては「<何でも自分で決めなくてはいけないということ>を放棄したい」という甘美な誘惑があるのも事実です。何から何まで自分で選択するのは疲れます。また、自分で決めたらその結果について自分で責任をとらなければならなくなりますが、人が決めたことに従えば、その結果がたとえネガティブだったとしても、心のどこかで相手のせいにできるという甘えもあるでしょう。
とは言え、なんでも自分でコントロールする・できると考えるのも極端で、状況や他人に委ねるという態度が必要なこともあります。しかし、自分にとって重要なことを誰かに決めてもらおうとすることが行き過ぎると人生をコントロールする力が弱まるばかりか、相手と主従関係になり、人間関係やお金など、人生において大事なものが奪われるということも考えられます。
*事例には複数のケースを組み合わせており、特定の個人のものではありません。
事例1. 週に3回、占いに通うAさん
社会人になった後、職場にうまく馴染めずにいた時に、仕事帰りに駅ビルの中の占いコーナーがふと目に入って冷やかし半分で入ってみた。「辛抱していたら来年から運勢が良くなる」と言われて気持ちが晴れた。その後も何度か通ううちに、占い師に「あなたは大丈夫」と言われることで安心感を得られることが快感になり、週に2〜3回通っている。しばらく通えない日が続くと「自分はダメになってしまうのではないか」と不安になり落ち着かない。
Aさんは、就職とともに地元から都市に出てきたため周りにあまり友人がおらず、職場で気楽に話せる同僚もいないため、孤独な日常を占い師による励ましの言葉で埋めていたようです。一回5,000円ほどの鑑定料で、一ヶ月あたりに換算すると出費は少なくありませんでした。
「占い師に会えないと不安になる」という状態から抜け出すまでに時間がかかりましたが、最終的には「占い師がいるから大丈夫」という安心感が、逆説的に新しい友人を作ったり同僚と打ち解ける努力から自分を遠ざけていたと気づき、家族や地元の友人にコンタクトすることから始めました。これまで話したことのなかった同僚と話せるようになったり、終業後に前からやってみたかった趣味にチャレンジするなどしているうちに徐々に占いに行く回数が減っています。
事例2. 強引な男性のいいなりになるBさん
5年付き合っているパートナーがいる。優しい面もあるが、重要なことは相手がほとんど勝手に決めてしまい束縛も激しい。昔は自分の友人もそれなりにいたが、付き合い始めた頃に全ての友人・知人の連絡先を消すように言われたため、他に一緒に出かける相手もいない。当初はパートナーから束縛されることが嬉しく、優柔不断な自分に代わっていろいろと面倒なことを決めて実行してくれて頼もしいとさえ思っていた。そろそろ結婚の話も出ているが、結婚後の生活スタイルや生活費の内訳など、既に細かく決められており、自分の裁量や選択の余地がなく窮屈そうなのが気になる。このままでいいのだろうかと迷っている。
こういったケースにおいては養育者から自分の意思を尊重されなかったり、人に合わせることを推奨され、あるいは人を不快にさせないように言われて育ったなどの背景があることがあります。話を聴くうちに、Bさんの母親も、Bさんの気持ちよりも世間体を重視するタイプだったということが語られました。おとなしいBさんはそれに従ってきたため、自分の意見を話すことや決断を下すことが苦手になり、大人になってからはそんな自分を補ってくれる決断力のある人に惹かれ、そういう人と一緒にいると楽だと思っていたことがわかりました。
自分自身の存在や気持ちを否定されたり無視されて育った場合、パートナーに束縛されることで強く関心を持たれているような錯覚を覚えたり安心した気持ちになることがありますが、それは信頼関係などではなく、依存状態です。Bさんは結局大人になってからも、自分の母親と同じく自分の意思や気持ちを尊重してくれない相手を選んでしまっていたことに気づきました。
自己決定権を取り戻すための3つの方法
1. 少数の対象に依存するのではなく、多くの対象に少しずつ依存しましょう。
2. 自分の日常の些細な欲求に耳を傾け、それを自分で満たせるようになりましょう。
(例1)ランチの時間になったからと言って自動的に食べるのではなく、自分に問いかけてみましょう。
「今、どれぐらいお腹が空いてる?」
「今、本当に食べたいものは何?」
「今、どれぐらいの量を食べたい?」
感じてみて、なるべく自分のタイミングで自分の欲しいものに近いものを探してみましょう。
(例2)両足で立ち、自分の体に問いかけてみましょう。
「今、どこをどんな風に動かしたい?」
感じてみて、なるべく動かしたい場所を動かしたいようにしてみましょう。
自分の欲求を把握できるようになってきたらそれを実行に移し、他の人にもそれを伝えられるようになると良いでしょう。また、人間関係に関することや、他の人にも影響するような行動の選択や決断にも、無理のない範囲で少しずつチャレンジしてみましょう。
3. 「不安や恐れから逃げ出したい」「孤独が怖い」「他の人に決めてほしい」「現実から目を背けたい」「誰かに『大丈夫』と言ってもらいたい」など、どんな気持ちにもOKを出しましょう。ネガティブな気持ちだからと抑えつけず、解放してみてください。そして誰か、その気持ちを聞いてくれる人を探して話してみましょう。1. で書いたように、できれば一人ではなく複数の人に話してみましょう。
自分の人生という名のハンドルを他人に委ねず、自分で運転する、という喩えがあります。たまに車を降りて誰かとおしゃべりしたり、道を聞いたり、給油を助けてもらったりするのは構いません。どんどん頼ってみましょう。ただ、最終的にやはり運転するのは自分です。たまに誰かに運転を交代してもらいたい時があるのも確かですが、任せっきりにして知らない道に迷い込んでしまう前に、ハンドルを握りなおして再出発しましょう。
ライター/佐藤彩有里
国家資格キャリアコンサルタント/バルーン・コンサルティング代表/高輪こころのクリニックカウンセラー/MBTI®認定ユーザー/龍村ヨガホリスティックヘルスコンサルタント/ASK依存症予防教育アドバイザー/A/CRA/FT ASIA事務局
企業での社内・社外相談や個人向けキャリアコンサルティングで多くの方の悩みに寄り添っており、嗜癖行動や依存に関するカウンセリング実績も多数。
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