誰かのいいことを願う言葉が、自分の心地よさにつながる【パリで学んだ生きやすさのヒント】
極度の人見知りだった私の人生を180度ひっくり返してくれたのが、20代後半からのパリ暮らしでした。東京でPR会社を起業して全国で仕事をする「今」につながる出会いの数々。本連載「パリで見つけた生きやすさのヒント」では、パリでたくさんの人や出来事から教わった、気持ちが少し楽になる生きやすさのヒントをご紹介します。
パリで学んだ、「誰かのいいことを願う」心地よい言葉
フランス語を始めたばかりの頃、ほとんど聞き取れない中でも気になる音がありました。それが「Bon(ボン)」。ボンジュール(こんにちは)だけではなく、あらゆるシーンにボン(「良い」という意味の形容詞)がつくフレーズが出てくるのです。
フランス人が愛する休暇シーズンに飛び交う定番の挨拶といえば「Bonnes vacances(ボンヌ・ヴァカンス / 良い休暇を)」と「Bon voyage(ボン・ヴォワイヤージュ / 良い旅を)」。そして、金曜日に会った人とはこんな風に挨拶を交わします。「Bon week-end(ボン・ウィーケンド / 良い週末を)」。長くても短くても、休みの前は皆どこか嬉しそう。週末を前にしたカフェは食前酒を片手におしゃべりを楽しむ人で賑わい、ヴァカンスの計画について話したり質問したりする様子はとにかく幸せそうです。ボンがつくフレーズは他にも。学生時代のテスト前は友達同士で「Bon courage(ボン・クラージュ / 頑張って)」「Bonne chance(ボンヌ・ションス / 幸運を)」と励ましあうのが定番でした。どれも短くてシンプルなのに、なんだか前向きな気持ちになれるから不思議です。
思えば、パリで住宅トラブルに巻き込まれ、住む家がなくなるかもしれないという不安から救いあげてくれたのも毎日の「Bon」でした。なかでも、耳にするたび小さな幸せを感じられたのが「Bonne journée(ボンヌ・ジュルネ / 良い1日を)」。友人とわかれる時はもちろん、初めてのお店でも買い物をして出る時には必ずといっていいほど声をかけてもらえるのが嬉しくて、私も自然と笑顔で同じ言葉を返すようになっていました。海外生活の心細さもあったかもしれませんが、たった一言でも、誰かに良いことを願ってもらえる、自分も相手のために願うことって気持ちがいいなとしみじみしたものです。
その後どうにか引っ越し先を見つけ、友人に報告をした時、「辛かった時、パリでもらった数えきれないBonに救われた」と言ったら、なんか変なのと笑われましたが(習慣で言っているんだよと)、それでも確かに前向きな言葉をかけてもらうこと、自分でも毎日のように口にすることの効果はあったと感じています。日本語のメールやメッセージの最後にも「良い週末をお過ごしください」「素晴らしい旅行になりますように!」と一言添えることが多いのは、あの時のBonマインドが心の中にあるからかもしれません。皆さまにとって、今日が良い1日でありますように。
AUTHOR
MIKI
古美術商の家に生まれる。極度の人見知りだったが、20代後半からのパリ暮らしで人生観が変化。フランス語を学び、社会人研修生として過ごした国際学園都市での出会いを通して、コミュニケーションの大切さに目覚める。帰国後PRの世界に入り、世界最大級の水族館や地球温暖化防止プロジェクトなどに携わった後、2011年に起業。PRコンサルティングやブランディング、執筆を行う。現在地は、東京、沖縄、ときどきパリ。
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