「恩返しすることで多くを学べる」非営利団体Yoga Gives Back創設者が目指す世界とは

 「恩返しすることで多くを学べる」非営利団体Yoga Gives Back創設者が目指す世界とは
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「ヨガで受けた恩恵に感謝して、ヨガの生まれたインドに恩返しがしたい」そう語るのは、非営利組織『Yoga Gives Back』の代表を務める、三松佳代子さんです。NHKで30年以上ドキュメンタリー番組のプロデューサーをされてきた彼女が、「1回のヨガの費用で、誰かの未来を応援する」をスローガンにはじめた活動についてお伺いしました。

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「ヨガでギブバックしませんか?」

– ご自身も熱心なヨガの生徒さんだとお伺いしました。長年、ヨガは練習されてきたんですか?

三松さん: 私は、もともと運動をすることが好きだったんですが、ヨガをはじめたのは47歳の時です。その時には、もうアメリカのロサンゼルスに移住していたのですが、アメリカの中でもLAは、特にヨガカルチャーがとても盛んな地域です。例えば、インドからヨガ哲学をアメリカに持ち込んでくれたヴィヴェカナンダ、ヨガナンダさんを筆頭に、ヨガの大先生たちが皆さんLAに根付かれたんですね。そういうスピリチュアルなコミュニティーもあるし、ロヨラ・メリーマウント大学でもヨガのマスターコースがあったり。なので、私も色々なヨガのクラスを受けていって、その中でアシュタンガヨガにハマりました。アシュタンガヨガは毎日練習しますが、毎日の練習で良い汗をかいて心身リフレッシュしていくのが気持ち良かったんです。

– そうなんですね!Yoga Gives Back(以下 YGB)の掲げる、「1回のヨガの費用で、誰かの未来を応援できる」というスローガンがとても素敵だなと思いました。やはりご自身がヨガの生徒さんだったからこうした活動を始められたのでしょうか?

三松さん: ヨガにハマりはじめた頃に、NHKの仕事で社会起業家の方に取材する機会がありました。それで、2006年にノーベル平和賞を受賞されたバングラデシュの実業家 モハメド・ユヌスさんが提唱されていたマイクロファイナンス(貧困層や低所得者を対象にした小規模金融サービス)を取材しました。2006年当時って、LAでもヨガがメインストリームになりはじめた頃で、色々な場所にヨガのコミュニティがあったんですよね。ヨガのコミュニティーでは昔からチャリティ活動が盛んですが、当時だとHIVや乳がん、動物の権利を守るといったものがよくありました。私もなるべくそういったイベントには出るようにしていたんですけど、ある時、ふと気付いたんです。ヨガ発祥の地・インドの貧困層や女性たちを救う活動がないということに。毎日のヨガの練習で心身ともにこんなにもヨガの恩恵を受けていて、ハッピーな中年期を過ごしていているのに、何か恩返しできないかなと思ったところがスタートでした。

– 確かに私たちがヨガの恩恵を受けている一方で、ヨガの生まれたインドでは貧困問題で苦しんでいる人がいるというのはチグハグな感じがしますね。

三松さん: 最初に私が習った先生が、私にヨガ哲学をとてもよく教えてくれたんです。その教えの中で印象的だったのが「人生の最初の半分は経験して勉強することだ。次の半分は、最初の半分で学んだことを活かして、そして他の人のために役立つようにするべきだ」ということです。その時私は47歳で仕事もさんざんやってきましたし、そのメッセージがすごく自分に響きました。こんなにもヨガの恩恵を受けているのであれば、これからはこれまでやってきたことを世の中のためにお返しすることができたらいいなと思ったんです。

それで、ヨガの先生に「ヨガでギブバックしませんか?」と提案したところ、皆さんとても賛同してくださったんです。それがはじまりです。

– なるほど。先生たちは、すぐに賛同してくださったんですか?

三松さん: 先程も言ったように、LAには昔からヨガの立派な先生がたくさんいらっしゃいます。皆さんインドに行ったことのある人ばかりだったので、インドの貧困を目の当たりにしていました。だから、自分でも何かしたいと思っていたけれど、そのチャンスがなかった…というか、どこに寄付していいかも分からなかったし、お金だけをただ送ることに抵抗を感じていた方も多かったようです。そういった土壌だったので、どなたに話しても「それ良いね」と言っていただけました。

インドに恩返しするということに焦点を絞っているのはYGBだけだったのも、皆さんが賛同してくださった理由だと思います。ヨガは運動的な側面だけではなくて、哲学的な側面もあります。「自分を(ヨガを通して)お世話することで、どのように世の中に役立てていくか・世界を良くしていくか」ということを、私はヨガから教えてもらいました。これまでの活動の中で、先生方がそういったところに共鳴してくださることがとても嬉しいです。

– 同じ思いの方が周りにたくさんいらっしゃったんですね。それから、どのような活動をはじめたんですか?

三松さん: 私も非営利組織を運営した経験がなかったですし、本当に発想だけではじめたことだったので、どうすればいいか分からなくて…そこで、ワシントンDCにあるグラミーファウンデーションという財団に話を持っていくことにしました。この財団は、先ほども話に上がったバングラディッシュの社会起業家のパイオニアであるモハメド・ユヌスさんを中心として始められた財団です。そうしたら協力するって言っていただけて。最初は細々と、ヨガクラスで集めた寄付金をグラミーファウンデーションに送って、そこからインドのマイクロファイナンスに送るようにしていました。

– なるほど!

三松さん: 数年やっていくうちにその輪も広がり、だんだんと寄付が集まるようになりました。それで、寄付がどこにいっているのか、またどのように、インドの人々の人生に活かされているのかというのを知りたいと思うようになりました。私も、ずっとドキュメンタリー映像を撮ってきたので、ヨガの恩恵を受けている私たちと、その御礼の形でお金を受け取って人生に活かしてくださっている女性の方たちや、子どもたち、または非営利組織の方々たちと直接つながりたいという気持ちがあったんですね。

– 現地の人々と直接関わりたかったんですね。

三松さん: 2-3年かかって、たまたま良いNGO(非政府組織)の方を紹介してくださる方に出会いました。それもヨガのクラスを通して知り合った方々のおかげです。西ベンガル州の女性の権利のために活動されている「Nishtha(二シュタ)」という団体と、マイソールの郊外の貧しい地域で孤児院や小学校、高校まで作って貧困層の青少年を応援している「Deenabandhu(デイーナバンドウ)」という団体です。それが2010年のことで、それ以来13年間ずっと一緒に活動しています。私は、毎年必ずそちらに訪れるようにしていて、プログラムを一緒に開発したり、ビデオを撮って活動を広げるようにしています。

このようにして、皆さんの支えのおかげでインドの非営利組織と活動してきましたが、2400人以上のお母さんや子どもたちに小額ローンを支援したり、10年前には青少年に5年間の高等奨学金の提供をはじめました。

– 一緒に活動をされている非営利組織はどういった団体なのでしょうか?

三松さん: 「二シュタ」という団体は、私たちが出会った時にちょうどマイクロファイナンスをはじめたばかりの団体でした。実は、2010年という年は、マイクロファイナンスが世界的にも注目されるようになって、インドでものすごい勢いで増えていた時期です。途中、それが貧困層を搾取する商売になってしまったこともあって、自殺者が出たり、70%利率をあげたり大変なこともあったんですけど、私たちはあくまでも利益目的ではなく、NGO団体として少額ローンをやってくれるパートナーを探していました。二シュタと私たちは一緒にマイクロファイナンスを作り出したという感じです。利用者には利率はチャージしないけれど、毎月必ず50ルピーを銀行に預金していただくことを約束にしています。そのお金は、緊急の時に使うこともあるかもしれないけど、基本的には子供の将来の教育費に当ててくださいという約束をしています。

もう一つのパートナーの「ディーナバンドウ」も、本当に素晴らしい団体です。現在はマイソール郊外の孤児院で100人くらいの孤児を受け入れていますが、その地域もとても貧しい場所なので、質の高い小学校から高校までを作りました。最初は孤児院に入っていた5人の孤児だけ応援することから始めて、10年前からは高等教育奨学金を提供するようにしています。

– 活動に賛同してくださる方の輪はどのように広がっていったのでしょうか?

三松さん: 最初のうちは、香港のアジアヨガコンファレンスや、ロンドンオームヨガショウがYGBを誘ってくださってチャリティーとして参加したり、サンディエゴで開かれるアシュタンガヨガコンフェレンスにも呼んでいただきました。私も出稼ぎのようにたくさんの荷物を抱えてあちこちに行っては参加しました。そんな風に、地元のヨガの先生と繋がって、アンバサダーになって欲しいとお願いしていきました。16年間走り続けてきて、今は世界32カ国以上、150人以上の世界中の先生たちにまで活動の輪が広がるようになりました。アンバサダーの方々には、最低年1回YGBのPRをして寄付金を募るようにお願いしています。アンバサダーの方々が自分のヨガコミュニティーに声をかけてくださっているということが、私たちの草の根の活動のすごく大きな力になっています。

– 活動をはじめて、周りからはどのような反響がありましたか?

三松さん: なぜ「インドの人たちを助けようとしているのか」ということを言われたことが何回かあります。例えば、アメリカであれば、ホームレス問題や児童虐待の問題とかがあります。身近なところでも問題があるのに、なぜインドなのかと疑問を持たれるようです。それについて私の答えは明確で、それは「ヨガのコミュニティーで恩恵を受けている人たちが、その恩返しをする活動なので、だからインドに恩返しする」というものです。アメリカのホームレスや児童虐待の問題は、それには専門の組織がいくつもある。だから、それはそちらにお任せしますというスタンスです。それまでYGBのような活動をしている団体がなかったので、これは絶対にやらないといけないという使命感があります。それに今も、ますますヨガが広がれば広がるほど、こうした活動を続けていく意味があると思っています。ありがたいことに、ヨガの先生や生徒さん、皆さんが応援してくれて、本当に素晴らしい人達が応援してくださっているので、感謝しています。

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photo by Kayoko Mitsumatsu

「ただの寄付」ではなく社会的な自立を支援する

– 少し話しが戻ってしまうのですが、YGBが取り組んでいるマイクロファイナンスについて詳しく教えていただいてもよろしいでしょうか?

三松さん: 従来の銀行というのは、信頼できるお客さんにしかお金は貸さないもの。だからビジネスを始めたいと言っても、どんな人か分からない人にお金は貸せません。だから、貧しい人にお金が回らないようなシステムになっていたわけです。また、一般的な商売のシステムを見ても、貧しい人はピラミッドの一番下にいて、最低賃金の労働で働くということが大前提になっています。ですので、彼らが中間層以上を乗り越えて、自分が起業することが、できない構造になっているわけです。

– ピラミッドの底辺にいる人々は、一生そこから抜け出せないようになっているわけですね。

三松さん:マイクロファイナンスを始めた モハメド・ユヌスさんは、最初は大学の経済学者でした。バングラデシュが70年代に大飢饉を迎えた頃、当時の彼は大学で経済論理を教えていて、授業を終えて教室の外に出ると人がそこら中で死んでいるのを目の当たりにして、そのギャップを感じたのだそうです。そこで、自分の40ドルを、竹の椅子を作っている貧しい男性と女性にあげたのだと。仲介業者の人から竹を買えば、椅子を作って売れたとしても、その人たちに利益がほとんど持ってかれてしまうので、お金が貯まらないわけです。ユヌスさんは40ドルを与えて「自分で竹を買って自分で売りなさい。そうしたら100%自分の利益にできるから。そして、お金を貯めて、ビジネスを大きくしていくことができる」と。それが、マイクロファイナンスの始まりです。

– とてもシンプルなシステムですね。

三松さん: このシステムを知って一番感じたのが、自分が幸せになるためにヨガレッスンに例えば1回10ドルを使うんだったら、そのお金を大きなポットで集めて、それをローンにして本当に困っている貧しい女性たちに与えられたらいいんじゃないかということでした。私たちのマントラは「For the cost of one class,  you can change the life(ヨガ1回の費用で、誰かの未来を応援できる)」。つまり「ヨガで何かの恩恵を受けているんだったら、1回分くらい寄付しませんか」というメッセージで、少額ローンをはじめました。インドは今経済力がどんどん上がっていますけど、10ドル差し上げればインドだとすごく大金になるわけですし。

– ローンということは、いつか返してもらうというのが前提になるんですよね?

三松さん: それはすごくよい質問です。そうです。ローンなので返してもらいます。厳しいんですが、ユヌスさんのシステムでは、もし返却できなければ2回目は借りれなくなります。ただし貧しい人にとっては、それこそ、人生を変える大チャンスになるわけなんですよね。だから、みんなすごく頑張るわけです。なので、通常は98%とかの確率で返金されています。

ちなみに、ユヌスさんの例で言うと、お金を貸すことを10年やってみたら、女性と男性だと、なぜか女性は貯まったお金や利益は子供たちの教育や家族の栄養のために使うんです。ところが、男性はお酒やギャンブルに使ってしまうんですよ。女性は約98%、借りたお金を返すそうです。

– ただの寄付ではないというところの狙いは、返却するから社会的に自立を促すことができるということでしょうか?

三松さん: そうですね。加えて、精神的な自立も目指しています。というのも、少額ローンは、10人の貧しい女性を一つのグループにします。10人で一緒に仕事をしてもいいし、別々に仕事をしてもいい。グループにすることで、もし一人の人が病気で倒れてしまったり、ビジネスが上手くいかずローンが返せなくなってしまった場合、他の9人がカバーするというシステムになっているんです。私たちが、そのグループにするという仕組みがとても重要だと思うのは、経済的にだけではなくて、精神的な自立につながるから。女性として今まで家の中にこもっていた人で、DVなどさんざん被害を受けても誰にも相談できなかった人たちが、家を出て女性の仲間たちと経済活動をしていくと、本当に信頼できる仲間になっていける。例えば誰かの家庭でDVが起こったとしたら、他の仲間たちが全員その夫に文句を言いに行くとか、そういったエンパワーメントにつながっているんです。これは経済的なエンパワーメントだけではなくて、自分の価値を掴みだす大きなツールになっていると感じています。

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photo by Kayoko Mitsumatsu

– すごいですね!

三松さん: 例えば、西インドのベンガル州の農村の貧しい地域では、ビジネスと言っても、野菜を売る時の袋を古い新聞紙で作ったりとか、サリーの刺繍をしたりとか、ドロで作ったアクセサリーを売ったり、線香を作ったりとか地道な商売です。ですが、もともと収入がなかった人たちだから、最初の1年で収入が600%プラスになったりします。今は毎年550人くらいの女性たちにマイクロファイナンスを提供していますが、お金の管理は私たちではできないし、どんなビジネスをしたらいいのかということに関しては私たちの専門外なので、それらは信頼できるNGOのパートナー・二シュタお願いしています。私たちは、NGOから提案された予算を役員会で検討して、皆さんの寄付から集めて送るというシステムです。

「私のような人生を送って欲しくない」と語るインドの母親たち

– 少額ローンに加えて、高等教育奨学金制度をはじめたのはどうしてですか?

三松さん: 毎年インドを訪れて勉強しているうちに分かってきたのが、現地の女性たちにとっての「夢」とは、若い人たちに教育のチャンスを与えたいということです。現地のお母さんたちが私に言うのが「私のような人生を、私の子どもたちには絶対に送ってほしくない」と。それをはじめに聞いた時にはすごく悲しい話だとも思ったのですが、悲しいけれどそれが現実なんです。ほとんどの女性は小学校までしか行っていないし、14歳、15歳で強制的に結婚させられています。何も家事を知らないのに、召使いのようになって暮らしてきた。だから子供には絶対にこういう人生を送ってほしくないと願っているんです。それを変えるのは、やっぱり教育じゃないですか。教育がなかったら人生は変えられません。そのことをすごく感じたので、高等教育奨学金制度をはじめました。最初はこれもチャンスをあげたということで、生徒さんが本当に喜んでくれたんです。最初は50人ずつからはじめたのですが、今は毎年400人の子どもたちに奨学金を与えるようになりました。だから寄付を一生懸命集めているんです。

– 高等教育奨学金制度のお子さんたちの様子について教えて下さい。

三松さん: この制度を10年間やって、今では200人以上の生徒さんが大学卒業をしています。そんな彼らが社会に出ていい仕事をしているのも嬉しいです。先生になったり、自分でデジタルラボを起こしたり、ソーシャルワーカーになった方もいます。その上、それぞれ自分で収入を得て貧しい家族を応援したりとか、コミュニティーのリーダーになっている方もいて…自分のためだけではなくて、コミュニティーに恩返ししたいと思っている大人に成長していて、それが本当に嬉しいです。

私たちが提供しているだけではなく、こちらが勉強させて頂いていることも大きいです。みんな「ファミリー」でつながっている。青少年から私たちはすごくエネルギーをもらいます。彼らは物質的に豊かではなくても、精神的に豊かですし、他の人をケアするという気持ちがすごく強い。それは、自分たちが奨学金をもらったとか他の人から力をもらったことで自分たちの人生がこれだけ変わった、だから恩返ししたいという気持ちに繋がっています。この子たちが、ただ教育を受けただけではなく、社会に出てリーダーになっていく姿をみていると、こうやって社会は変わっていくんだなということが分かります。

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– それはすごい素敵ですね!インドの女性たちについての現状について教えていただけますか?

三松さん:  インドはジェンダー・ギャップ指数として146カ国中127位の国で、18歳未満で結婚する「児童婚」の数が世界一多い国です。また、インドには、少女は教育はいらないという根深い差別があるんですよね。貧困になればなるほど、根深いジェンダー差別があります。DVもたくさんありますし。そんな社会をどのようにして変えていくのかは、彼女たちが立ち上がるしかないんですよね。パンデミックの間に経済がすごく悪化したので、DVや性的虐待の件数がすごく増えました。結果的に自殺数も増えました。

– 悲しいですね。

三松さん: けれど、その時に私たちの奨学金制度を利用している少女たちが立ち上がり「プロテクションサークル」というアイディアを出してくれたんです。これは、例えば村の中で誰かが暴力を振るわれていたら、一人の子がものすごい大きな声で叫ぶんです。誰かの叫び声を聞いたら、隣の家の女の子がまた叫ぶわけです。そうやって輪になって、助け合って、電気もないからもちろん警報機もない村でのDVのケースを防いだんです。また、西ベンガル州はインドの中でも特に人身売買がとても多い地域で、結婚詐欺のような形で人身売買が頻繁に行われています。この先は、きちんとした教育を受けた少女たちが大人になって政治家や裁判官になり、社会のシステムをかえていく。あるいは、今まで黙って何もできなかった女性たちの声を聞いてあげるためのシェルターを作ったり、カウンセリングシステムを整えたり、そうやって社会を変えていく力になってほしいと思います。けれど、現状は本当にまだまだあまり知られていないですけど…厳しいです。

– 時間はかかるかもしれませんが、着実に前に進んでいきたいところですね。そのためにも、YGBの活動がもっと広がるようにしていきたいですね。

三松さん: ヨガをして美しくなるとかキレイになるとか、それが全面に出ていると、ヨガの最終的な目的には達しないと思うんですよね。だから、ヨガが教えてくれていることを実践できる、そして世界でシェアできるようになったら、世の中はもっとよくなるなと思います。ヨガを実践している人は、それができるチャンスがあるわけですよね。社会を変えるにはあなたがそのチェンジにならなければいけないので、そういうことを体現できる輪になれたらいいなと思っています。

– YGBに賛同されている方は、ヨガをしている方が多いんですか?

三松さん:  最初はアーサナの練習をされている方が多かったです。わたしがアシュタンガヨガをしているのでその影響は多いと思いますが、パンデミックになった時、キルタン(音楽を使った集中瞑想のひとつ)のコミュニティーの方がたくさん入ってくださって、少しずつ輪が広がっていきました。本当はヨガだけではなく、一般的に輪が広がればいいとは思いますが、まずはヨガをしている人からぜひ参加してほしいと思っています。私たちの目標は、100万人のヨギの方たちが1ドルずつだけでも寄付してくだされば、100万ドルになるわけなので!

– 16年前に、こんな風になっていると想像はしていましたか?

三松さん: 全く想像していませんでした。起業家は5年・10年の戦略プランを立てて投資家を集めるみたいですけど、私はドキュメンタリーを作る仕事しかしたことがなくて、非営利組織にそういった戦略計画を立てるものだということすら知らなかった。今になって、コーチングしてもらったりして知ったくらいです。全く何も考えていませんでしたね。

– 原動力になったのは何だと思いますか?

三松さん: ただ恩返ししたいという気持ちだけで走り続けてきましたが、ロサンゼルスの力というのは大きかったと思います。ヴィヴェカナンダやヨガナンダさんたちが土壌を作ってくれたことに加え、カリフォルニアの精神というかパイオニアの精神じゃないですけど、何か提案した時に誰も「40半ばの未経験の女性がそんなの無理だ」と言わないんです。みんな「それはグッドアイディアだ。絶対にやったほうがいいよ」と言ってくれたのにはすごくありがたかったなと思います。 

– これまでの活動で、最も印象に残っていることや思い出深いエピソードなどはありますか?

三松さん: 最初にインドに行ってから毎回、インドから帰ってくる度に必ず思うのは、セントフランシスが言った「in giving we receive」という言葉ですね。「私たちは差し上げることで、学べることが多い」ということです。毎回インドに行く度に、感謝の気持ちとともにそれを感じます。本当に貧しい地域で、ご家庭に行って苦労話や希望の話、生徒さんの話を聞いたり、孤児院で子どもたちと一緒に泊まったりして、そこで学ぶことというのは、みんなが繋がっているということと、ヨガのおかげでこういった活動ができているという感謝ですね。あと、私自身の人生がすごく豊かなものになっているということに対しても感謝の気持ちでいっぱいです。その思いが強いので、訪れる度に必ずビデオを撮って、皆さんの声をシェアしたいと思っています。それは貧しくて悲しいというのではなく、そこに解決する方法を私たちでも提供できるということを映像を通して知ってもらいたい。それもヨガ1回だけのお金でいい、という話なんです。私たちがいただいているヨガの恩恵を、小さい形でもいいから、みんなでお返しすれば、たくさんの人の人生に役立つし、それがヨガの輪だと思っているんです。

– 今、望む世界ってどんなものでしょうか。

三松さん: ヨガをやっている世界中の皆さん全員が、この活動に賛同してくださったら嬉しいですね。これからは、もっと世界に輪を広げていきたいんです。今まではLAで全部発信していたんですが、こちらでできることはやはり限られていて、世界中のヨギーの方の力を借りて、各国で誰もが「恩返しのイベント」を年間いつでも主催いただければ嬉しい。また地域ごとにYGBチャリテイー・リトリートをするなど、いろいろな可能性を探っていきたいです。

– ヨガの先生はアンバサダーとして参加して、生徒の方々はチャリティイベントに参加されるというのが、活動に賛同する方法でしょうか?

三松さん: そうですね。そのほかにもボランティアはいつでも募集しています。ご興味のある方は、メールを送っていただければと思います。いつも探しているのはバイリンガルの方。英語を日本語にするっていうのはすごく作業が大変で、あとは、例えば生徒さん同士でお茶会などを開いて募金することもできると思うんですよね。考えれば、なんでもできるんですよ。私も生徒でしたし、今も先生ではないです。

この活動で素晴らしいなと思うのは、みんなお金持ちになりたいとか、有名になりたい人が集まってこないこと。恩返ししたい、社会奉仕したいという人が集まってくるので、そこでできるコミュニティーは本当に素敵です。差し上げることで学べることが多いというのは、どういうことなのかを、この活動を通して体現していただけたらヨガがもっと深まるんじゃないかと思います。

取材協力: Yoga Gives Back 創設者 三松佳代子

1991年渡米以来、フリーランスとしてNHKスペシャル番組などドキュメンタリー番組制作に従事する傍ら、2007年に趣味で始めたアシュタンガ・ヨガに深く影響受け、その恩返しをする活動としてヨガの発祥地インドの貧困層を支援する非営利組織Yoga Gives Bak

をロサンゼルスで設立。2007年以来、定期的にインドを訪問し、YGBが支援する子供たち、青少年、母親たちの苦悩と希望をYGBフィルムとして制作、世界中のヨガコミュニテイーに向けて紹介する他、YGB代表としてアジアヨガ大会、ロンドンオームヨガショー、アシュタンガヨガコンフルエンス他、このキャンペーンの代表としてYGBの30カ国以上にに渡る国際的な活動普及とインド支援プログラムの発展に専念している。  

Yoga GIves Back: https://yogagivesback.org/

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AUTHOR

桑子麻衣子

桑子麻衣子

1986年横浜生まれの物書き。2013年よりシンガポール在住。日本、シンガポールで教育業界営業職、人材紹介コンサルタント、ヨガインストラクター、アーユルヴェーダアドバイザーをする傍、自主運営でwebマガジンを立ち上げたのち物書きとして独立。趣味は、森林浴。



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