五月病と新型うつも「適応障害」|発症しやすい3つのタイプと打開策は?精神科医が解説

 五月病と新型うつも「適応障害」|発症しやすい3つのタイプと打開策は?精神科医が解説
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前回は、適応障害の発端となる「とらわれ」の状況に陥りやすい、職場でよくある4パターンをご紹介しました。今回も『「とらわれ」「適応障害」から自由になる本』(さくら舎 勝久寿著)より、軽く思われがちな精神的なモヤモヤと憂鬱の代表格「五月病」、そして「新型うつ」について解説します。また、これまでご紹介してきた「とらわれ」の状況を打開するための方法も書籍より抜粋していきます。

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「五月病」と「新型うつ」は適応障害である

五月病は医学的に正式な病名ではないにも関わらず、「心の病」というカテゴリーで世間に広く知られています。日本では年度替わりの節目にあたる4月から、進級・進学、就職・転勤など、環境の変化によるストレスが生じやすくなります。それに加え、ゴールデンウィーク明けにストレス原因となる場所へ戻らなくてはいけない不安、抑うつや無気力感が高まる状態が「五月病」です。この流れについて、「医学的な見地からすれば、まさに適応障害である」と勝さんはいいます。

また、「新型うつ」も正式な診断名ではなく、一種のマスコミ用語です。その病像については、専門家の間でも一致した見解が得られておらず、世間でも理解が得られにくくなっています。これは、「症状が緩和されるタイミング」に原因があると考えられています。

従来のうつは、何をしても楽しめず、疲労感や倦怠感といった症状が長く続きます。それに対して、新型うつは嫌な状況(ストレス)から離れると、症状が緩和されることがしばしば。「会社にはいけないけれど、自分の行きたいところには行ける」といった状況が、人々の誤解を深めてしまっているのです。

ですが、これも医学的に考えれば、ストレスに直面したときに症状が現れることから、うつ病などの気分障害よりも、ストレス障害である「適応障害の慢性化」と考える方が適当という見方もあります。

適応障害を発症しやすい3タイプ

適応障害は「精神的に弱い人がなる」と考える人もいますが、「臨床場面では必ずしもそうでない」と勝さんはいいます。というのも、適応障害が発病する原因となったストレスに出会うまでは何の問題もなく、むしろ適応的に活躍していた人が少なくありません。

適応障害は、どのようなストレスに対しても発病するわけではなく、その人にとってある特定のストレスを引き金に「とらわれ」が生じたときに発症するからです。「適応障害になりやすい人」=「とらわれやすい人」といえるでしょう。とはいえ、大まかなとらわれやすい人の傾向は存在しており、以下の3タイプに該当する人は注意が必要です。

適応障害
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内向しやすい人

「真面目な人」や「完璧主義な人」に多くみられる状態が、内向タイプです。また、昨今では以下のような性質を持つ人もとらわれやすい傾向があります。

・プライドが高い人(自分が一番できる)

・自己評価が低い人(どうせ私にはできない)

・悲観的に考えがちな人(自分が悪い、また失敗するかも)

上記のようなタイプは、ストレスに敏感で物事をより深刻に捉えてしまうために内向しやすく、結果ストレスにとらわれてしまう傾向にあります。

サポートが受けにくい人

環境的にサポートが受けにくい人は、とらわれやすいといわれています。重い荷物は一人で持つよりも誰かと運んだ方が軽くなって楽に感じます。同様に、ストレスに対しても精神的あるいは業務的なサポートがあることで、ストレスは弱まります。

普段は手を差し伸べてくれる人が周りにいたけれど、リモートワークで孤立状態が続き、人間関係が希薄になったことでストレスに拍車がかかっている人も増えています。

生活面が乱れている人

食事や睡眠など、生活リズムが乱れている人は心身に余裕がないことから、ストレスの影響を受けやすいといわれており、それだけ適応障害にもなりやすいといわれています。

またストレス解消につながる趣味がない人、ギャンブルやアルコールへの依存傾向が高い人も注意が必要です。

とらわれ打開策のポイントは「心のバネ」の強化

これまで、とらわれの原因や発症するまでの経緯、適応障害になりやすいタイプなどについて解説してきました。適応障害の発症や慢性化の大きなポイントとなるのは、「ストレス状況の回避」です。最後に、とらわれを少しでも遠ざけてストレス体験に対処するための準備方法について少し触れていきたいと思います。

適応障害の原因は「ストレス」です。ストレスを取り除いたり、問題から離れたりできれば症状自体はおさまります。実際、適応障害を発病した人で、「転職したら良くなった」というケースも少なくありません。しかし、その一方で「そんな簡単に環境を変えられないから困っている」という人がいるのも事実。さらに、適応障害やとらわれの状態を打破するには、ストレスから距離をおいて症状がおさまっただけでは、根本的な解決にはなりません。

そういった人に試して欲しいのは、少しずつ成功体験を積み重ねて心のバネを強くする方法です。例えば、仕事に不安を感じたり、上司に恐怖を感じたりしても、我慢して仕事や上司とのコミュニケーションを続けていけば、次の仕事が成功する、上司から褒めてもらえるという成功体験を経験する可能性もあります。そういう成功体験を繰り返すことで、仕事や上司に対する不安や恐怖心が次第に薄れ、やがて気にならなくなってきます。つまり、つらいストレス体験を成功体験によって上書きしていくのです。

ストレス体験が成功体験によって上書きされると、ストレス状況に対する不安や恐怖が克服され、「心のバネ」が強くなります。次第に心のバネが強くなってくると、その後はストレスを感じる状況にも自信をもって対応できるようになります。

とはいえ、つらい思いをしている人が、いきなり「乗り越えましょう」「向き合ってみましょう」と言われても無理があります。

まずは、身近な人に相談してみてください。周囲の人は、本人の話をよく聞いて、つらい気持ちによりそってあげてください。そのうえで仕事量の調節や、業務のサポートがうけられれば、つらさはやわらいでいきます。

症状の進行具合によっては、心療内科や精神科での治療が必要な場合もあります。本人を含め、周囲の人が症状や病気を安易に判断することがないよう、適切な診察を受け、医師の判断を仰ぐようにしてください。この記事が、「とらわれ」に苦しむ人、困っている人、またはサポートしたいけど方法が分からない人の手助けに、少しでもなることができれば幸いです。

とらわれ
『「とらわれ」「適応障害」から自由になる本』勝 久寿・著(さくら舎)

教えてくれたのは…勝久寿(かつ・ひさとし)先生
人形町メンタルクリニック院長。医学博士。精神科医。もっとも身近でもっとも手ごわい心理現象として「とらわれ」という言葉を提唱し、それらに悩む人々へ、本書を「とらわれ」から抜け出るための手引きとして、対処法やメッセージを発信。行政機関や企業のストレス対策についての研修、メンタルヘルスに尽力している。

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Text by Aya Iwamoto

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ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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