「とらわれ」からはじまる適応障害|職場でよくみられる4つのパターン|精神科医が解説
誰もが陥る可能性のある、心の「とらわれ」。とらわれた状態が放置され、症状が進行してしまうと起こるのが「適応障害」と呼ばれる精神疾患です。近年では、芸能人の活動休止理由としてメディアを通して目にする機会も増えてきましたが、発症する経緯や症状については、まだまだ世間の理解が足りていません。今回は『「とらわれ」「適応障害」から自由になる本』(さくら舎 勝久寿著)より、適応障害に陥りやすい4つのパターンについてまとめました。
「とらわれ」に陥りやすい環境とは?
家庭・学校・職場など、対人間だけでなく、自分自身の「身体的問題」や「経済的問題」でも「とらわれ」の原因になることがあります。適応障害にかかる人とかからない人の差は、その時にストレスを跳ね返すことができる「心のバネ」に強さがあるかどうか。
ストレスにとらわれて心のバネが弱っている人は、ストレスに対してうまく対応することができなくなってしまい、ストレスの原因(特定の場面や人物)に対峙することで、次第に心身の不調を感じるようになっていきます。
職場で起こりがちな「とらわれ」のパターンとは?
ここでは、皆さんが日々働くなかで経験する可能性の高い4つのパターンをご紹介します。パターンごとのストレス原因と「とらわれ」に陥っていく過程や特徴にも注目してみてください。
※なお、これらは必ずしも厳密に分類できるものではなく、実際に適応障害を発症している人はパターンが混在することも多くなっています。おおよその目安としてご覧ください。
パターン1「恐怖症型」
恐怖症型では、以下のような恐怖体験がストレスとなり、そのことにとらわれていくケースが多くみられます。
・上司に叱責される
・顧客からクレームを受ける
・仕事でミスや失敗をする
例えば、同僚や客の前で激しく怒鳴られたり、誰も気づかないような小さなミスをいちいち指摘されたり。こういった体験がストレスとなり、「またあんなことになったらどうしよう」「あの時のように怒鳴られるかもしれない」など、将来起こるかもしれない恐怖に対する過度の心配、苦痛な思考を反復的にしてしまうといった不安症状が現れるようになります。
恐怖症型で注意したいのは、ストレス強度が弱い場合でも、本人の痛いところをつかれたことによってとらわれに陥る可能性があること。そして、逆にストレスが強すぎる場合には、精神的な弱さがない人でも陥る可能性がある点です。
パターン2「喪失体験型」
喪失体験とは、簡単にいうと「自分にとって大切なものを失うこと」です。例えば、職場で置き換えると、以下のようなケースが喪失体験と結びつきやすくなっています。
・人事異動や転勤によって、慣れた環境や人間関係を失う
・環境の変化などにより、地位・役割・目的などを失う
これら喪失体験がストレスとなり、次第に失ったものにとらわれるようになります。
例えば、会社で昇進することは一見いいことのように思えます。ですが、新しい部署や担当の仕事が苦痛であったり、以前のように頼れる仲間がいない環境だったりすると、「あのとき昇進を断っていれば……」という思考になってきます。
しばしば過去を思い出してはくよくよと考えてしまい、辛い思いを絶え間なく反芻し、苦痛な思考を反復的にしてしまった結果、抑うつ症状が現れはじめます。
パターン3「回避型」
ストレスに対して回避する行動が増えるパターンが、「回避型」です。
ストレス体験を通して生じた過度の心配、苦痛な思考の反復など、精神的にとらわれた結果ストレスの原因を回避するようになります。
「とらわれ」に陥るきっかけとなりやすいのが、以下のようなケースです。
・いざ入社してみたら、想像と違う環境だった
・人間関係が厳しく、自分に合わない気がする
・自分の選択(就職先や配属先など)に後悔する
上記のひとつ一つの出来事は、誰かにいじめられたり叱責されたりした訳ではなく、大した問題ではないように感じられるかもしれません。また、本人もこれらのモヤモヤに対して、さほど問題意識を持っていないことも多いのが、回避型の特徴です。
しかし、「出勤時に憂鬱になる」程度で……と本人も周りも対処しないでいると、徐々に回避行動が増幅(仕事を遅刻・欠勤するなど)するようになり、社会生活に支障をきたすこともあります。
パターン4「強制型」
誰かに攻撃されるわけでなく、過重労働など時間や物理的な問題で仕事にとらわれるようになっていくことで陥りやすいのが、「強制型」です。
他パターンと少し違うのは、本人が無理を強いられているにも関わらず、やりがいをもって仕事にのぞんでいるケースも多いという点。ですが次第に、常に緊張感が抜けない時間が長くなっていき、心身が消耗してくると、強い倦怠感や無力感が現れるようになります。
・休日も顧客からの問い合わせに応じなければならず、気が休まらない状態が続く
・過労で疲れているはずなのに、寝つきが悪い(または眠れない)
上記のような症状が出はじめていたら、本人も気づかないうちに仕事にとらわれている可能性があります。こういった状態を放置すると、さらに症状は進行し、出勤時に吐き気や腹痛を起こす・判断力がなくなる・仕事の質が落ちて残業時間が増えるなど、生活に支障をきたすようになります。
4つ目にご紹介した強制型は、仕事に「マインドコントロール」されてしまうとイメージすると分かりやすいでしょう。会社の価値観にどっぷりとつかってしまい、自分は仕事にもやりがいを感じている。そんな場合でも、心と身体が休まらない時間が増え続けていけば、いずれ不調をきたす可能性は高くなります。
とくに、日本は長時間労働を良しとする風潮がいまだに強く残っています。たとえ仕事や職場環境にとらわれていても、本人すらその危険な状況に気づかない。しかし、いざ心身に不調をきたしてしまうと、あたたかいサポートを受けることができない(ひどい時は解雇されるなど)。
そうなると適応障害を発症した本人は、努力してきたにも関わらず心に大きなダメージを受けてしまいます。
教えてくれたのは…勝久寿(かつ・ひさとし)先生
人形町メンタルクリニック院長。医学博士。精神科医。もっとも身近でもっとも手ごわい心理現象として「とらわれ」という言葉を提唱し、それらに悩む人々へ、本書を「とらわれ」から抜け出るための手引きとして、対処法やメッセージを発信。行政機関や企業のストレス対策についての研修、メンタルヘルスに尽力している。
AUTHOR
ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く