【救命士が自身の心のケアのために実践】うつ病、PTSD…などの症状を和らげる「癒しのヨガ」
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それはニューヨークのある春の午後、初デートでのことだった。2番街のビルの上にある屋外レストランでテーブルにつくと、ブライアンは混み合うバーカウンターに目を走らせながら驚いたように口をあけた。ハンサムな消防士の横顔がみるみる曇った。「クリスタル、混んでいる場所に入ったら、まず最初に非常口以外でいちばん簡単に脱出できる方法を探すんだ」と彼は言った。そして深刻そうな顔をしながら、私が思いつきもしなかったバルコニー(非常階段ではない)の一角を指差した。そこから隣のビルの足場を利用すれば歩道まで降りられる、と彼は言った。
関係が進むにつれ、ブライアンは大きな音に驚きやすかったり、突然激怒したり、37歳でリタイアを余儀なくされるなどさまざまな困難を抱えていることがわかった。その大きな原因は、消防士や9.11(アメリカ同時多発テロ)でのファーストレスポンダーとしての経験にあった。私は彼との恋愛、別離、他の救急隊員たちとの友情を通じて、これらの職業の人々が、ヨガで育む静けさと集中にどれほど癒されているかを知った。
ファーストレスポンダーは、うつ病、ストレス、PTSD、薬物乱用、自殺などの危機的な精神状態に陥るリスクが高いことが複数の研究で明らかになっている。しかも9.11の現場にいた人たちは、さらに多くの健康問題に直面している。ニューヨーク市消防局の世界貿易センターヘルスプログラムによると、グラウンド・ゼロにいた消防士と救急救命士15,661人のうち13,427人が、世界貿易センターでの任務が原因で発生した疾患(がん1,100人、呼吸器系疾患10,600人など)の治療を受けていると報告されている。イェシーバ大学アルバート・アインシュタイン医科大学とモンテフィオーレ医療センターの研究者がニューヨーク市消防局と共同で行った約13,000人の9.11救助隊員に対する調査によると、テロ攻撃後の1年に全員の肺機能が平均して約10%低下し、5,000人に咳、喘ぎ、息切れなどの症状が残っていることがわかった。
これらの英雄たちを助けたい一心で、私は2015年にニューヨーク市の現役・退役消防士とその家族に無償でメンタルヘルスとウェルネスのサービスを提供する非営利団体「Friends of Firefighters」に連絡を取り、まもなくマンハッタンの消防局で毎週ヨガクラスを担当するようになった。
マインドフル呼吸法
誰にとっても呼吸法は、交感・副交感神経を調整し、健康な免疫系と最適な呼吸機能を維持するために欠かせないものだ。ファーストレスポンダーの場合、ストレスホルモンはほんの数秒で一気に増加する。呼吸に集中すれば、体と心が落ち着き、緊急招集時に急激に変動する神経系の回復を早めることができる。
また、呼吸への意識が消防士の生死を分けることもある。火災現場で消防士が装着する自給式呼吸器(SCBA)には30分から1時間分の空気しか入っていないが、作業での激務を考慮すると実際の時間はその半分程度だ。つまり消防士たちが燃えさかる建物に突入して脱出するまでに、ほんの15分から20分の猶予しかない。だが救急隊員が呼吸を整えてコントロールできれば、ストレスによる激しい呼吸で酸素を浪費せずに節約できる。
丁寧にストレッチをする
ファーストレスポンダーには、股関節や胸を開くポーズが有効だ。ストレスで硬くなりがちなこれらの部位の滞りを解消し、スペースをもたらしてくれる。また背骨をねじり、背中や気道、肩をストレッチすることで緊張が和らぎ、呼吸が楽になる。今回紹介するシークエンスは、私自身や生徒であるファーストレスポンダーたちの癒しと安らぎに役立っている。
プラクティス
1.マルジャリャーサナ&ビティラーサナ(キャット&カウポーズ)
四つん這いになり、息を吐きながら背骨を天井に向かって丸める。目線を太腿の間に移し、あごを胸のほうに軽く引く。息を吸いながら背骨を反らせ、頭と胸を天井に向かって引き上げる。交互に5回繰り返す。
2.ダウンドッグのバリエーション(3本足のダウンドッグ)
四つん這いの姿勢から、腰を後方に持ち上げて、おへそを背骨に引き込み、ダウンドッグ(アドームカシュヴァーナーサナ)に入る。膝を曲げて左脚を腰の高さまで上げ、可能なら左腰を外側に開く。このまま5~10回呼吸。反対側でも繰り返す。
3.アンジャネーヤーサナ(ローランジ)
ダウンドッグから、左足を両手の間に踏み出し、膝の真下に足首がくるように調整する。右脚を真っすぐに伸ばして(過伸展で膝が反る場合は、軽く曲げておく)、つま先を立てる。両腕を耳の横に沿って上に伸ばし、骨盤を前に押し出す。このまま5~10回呼吸。反対側でも繰り返す。
4.鳩のポーズのバリエーション
ダウンドッグから、左膝を前に出して、すねを地面に斜めにおろす。左腰が左の手首の真後ろにくるように調整し、右脚を後方に長く伸ばす。より楽にストレッチできるように、左のお尻の下にブロックを置いてもよい。両手をゆっくりと前に歩かせて肘を下ろし、前腕をマットにつける。このまま5~10回呼吸。反対側でも繰り返す。
5.アグニスタンバーサナのバリエーション(薪のポーズ)
楽な姿勢で足を組む。右足首を左膝にのせ、両足首を直角に曲げる。右膝の下にたたんだ毛布を敷くとストレッチしやすくなる。そのまま背筋を伸ばす。股関節からゆっくり前屈して両腕を前に伸ばしてもよい。このまま5~10回呼吸。反対側でも繰り返す。
6.ウシュトラーサナ(ラクダのポーズ)
膝立ちになり、腰の真下に膝がくるように調整する。両手を腰にあてて支えながらゆっくりと骨盤を前に押し出し、背骨を反らせて頭と首を後ろに垂らす。片手ずつ、かかと、またはかかとのそばに置いたブロックに手をついて、均等な呼吸をする。このまま5~10回呼吸。
7.セツバンダーサナ(橋のポーズ)
仰向けになって両膝を立て、足裏を地面につける。両手は腰の横に。両手と両足で均等に地面を押しながら、骨盤を天井に向かって引き上げる。背中の下で両手を組み、肩甲骨を背骨に寄せる。このまま5~10回呼吸。
8.スプタマッツェーンドラーサナ(横たわった魚の王のポーズ)
橋のポーズから背中を床に下ろし、両膝を胸に引き寄せて左側に倒す。膝の間に毛布を挟んで仙骨を水平に保ち、腰をゆるめる。このまま5~10回呼吸。反対側でも繰り返す。
指導●クリスタル・フェントンは、E-RYT200、YACEP認定ヨガインストラクター、フリージャーナリスト。ファーストレスポンダーやがん患者を含む、あらゆるレベルの生徒を指導。アライメント、マインドフルネス、呼吸と動きの統合を重視している。詳細はcrystalfenton.contently.comを参照。
モデル●エリック・ブレネマンは、消防士を引退後、ヨガ指導者、「Yoga for First Responders」(全米の救急隊員や軍人にヨガレッスンを提供する組織)の最高財務責任者を務めている。詳細はyogaforfirstresponders.orgを参照。
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