後編|発達障がいを描く漫画家ぴーちゃん「『自分を許す』作業を繰り返すことが、鬱抜けのきっかけに」

 後編|発達障がいを描く漫画家ぴーちゃん「『自分を許す』作業を繰り返すことが、鬱抜けのきっかけに」
石上友梨
石上友梨
2021-05-19
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救われる人や元気づけられる人がいるのであれば、描きたい

ーーSNSやコミックエッセイ『ぴーちゃんは人間じゃない?ADHDでうつのわたし、働きづらいけどなんとかやってます』 (イースト・プレス)などで、ご自身の発達障がいや鬱をテーマにした漫画を発信されていますが、どうしてこのテーマで漫画を描こうと思ったのでしょうか?

「元々は自分の話を人にあまりしたくないと思っていました。経験や特性について話すと、相手が同情しようと頑張っているように感じてしまって、『かわいそうだね』『よく頑張ったね』と言わなきゃいけないようなムードにさせてしまう感じが嫌でした。ただ、普通に話を聞いてほしかっただけなのに……。自分の話をした時に泣いてしまう人もいたので、あまりそういう話はしない方がいいんだとも思っていました。そんな時、編集部で自分の経験をエッセイにする機会があったのですが、その反響がものすごく大きくてびっくりしました。マイナスなリアクションを想像していたのですが、ポジティブなコメントが多く、そこではじめて自分の経験を話してもいいんだと前向きになれました。編集長から『ぴーちゃんの経験を書くことで救われる人がいると思う』と言われたことも原動力になりましたね。救われる人や元気づけられる人がいるのであれば描き続けたい、と思うことができました。」

イースト・プレス
『ぴーちゃんは人間じゃない? ADHDでうつのわたし、働きづらいけどなんとかやってます』(イースト・プレス)

ーーどのようなきっかけで、コミックエッセイを出版することになったのですか?

「Twitterで発信していた私の漫画を見た出版社イースト・プレス編集部の矢作さんが、DMで書籍化をご相談いただいたことがきっかけでした。『シリアスな内容だけど、ポップな絵柄で読みやすい、という絶妙な塩梅に惹かれた』とおっしゃっていただき、とてもうれしかったです。」

ーーシリアスな内容だけど、絵がポップというのはすごいバランス感ですよね。「人間じゃない」というタイトルもインパクトがあると思いました。どのような思いからつけたタイトルなのでしょうか?

「連載が決定してすぐに決まりました。『私は人間じゃないんだ』と長い間ずっと思っていたので、このタイトルは自然と思いついたものだったと思います。」

鬱に一度なったからこそ、いつでもなるスイッチを持っている

ーー人間とモノの違いは心、感情だと思うのですが、生き残るためにモノでいた、感情を切り離してモノになっる必要があったのでしょうか……。コミックエッセイの最後も、「また人間じゃなくなっている」と、余韻を残して終わっていますね。

「発達障がいは病気ではなく、障害なので治ることはないですよね。向き合って楽にすることはできますけど、完治することはないですし。鬱病も一度鬱抜けしたからといって金輪際ならないとは思っていなくて、一度なったからこそ、いつでもなるスイッチを持っていると思います。だからこそ、自分が人間だと思っても、また人間じゃないって思う瞬間はあると思います。実際にこの本を書いている途中もなったし、書き終えた後もなりました。結局は繰り返しなんだなと思います。この漫画で私がハッピーエンドになったからといって、他の人もハッピーエンドになるかというとそうではないと思うのです。だから、あえてそういう風に終わらせたかった。やっぱり繰り返しなんだよということを伝えたいと思いました。」

ーー会社という居場所を見つけたこともぴーちゃんさんを変えたきっかけになっていますね。ご家庭はおそらく安心できる家ではなかったのだろうなと思うのですが、ぴーちゃんさんにとって職場はどのような存在でしょうか?

「職場は、実家よりも実家と感じることが多くて、代表の合田さん自身も居場所を大切にしたいという強い気持ちがあって、皆が居心地のいい場所を作りたいという気持ちが集まっているので、居心地よくいられると思います。私の会社は、一人ひとりの存在や意見が尊重されるし、否定されないので、精神的に安心なスペースになっていると思います。」

「ただ、私の漫画を読んだ方から『良い職場に入れてよかったですね』『あなたは恵まれてよかったですね』と運が良かっただけみたいに言われてしまうことがあり、悲しく感じます。 たしかに現状では発達障がいの方に関わらず、周りの環境は、何が出るか分からない「ガチャ状態」で100%満足のいく安心した環境に出会うことは難しいです。ですが、社会全体で障害や多様性について学ぶ事でガチャ度を下げることはできるかもしれませんよね。心地よいと感じる環境を作るためには、『人は皆違うのが当たり前だよね』という考え方を知ること、伝えていくことが大切だなと思っています。」

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石上友梨

石上友梨

大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、教育機関等で発達障害や愛着障害の方を中心に認知行動療法やスキーマ療法等のカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガクラスの主催、ライターとして活動している。著書に『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)がある。



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