国家公務員だった私が今、福島でサスティナブルな化粧品を作る理由

 国家公務員だった私が今、福島でサスティナブルな化粧品を作る理由
Miai Kobayashi
SAKURA
SAKURA
2021-04-11
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持続可能な社会のために、福島に根付いて、活動を続けたい

実はブランドデビューまでの間に、小林さんは出産も経験している。

「東京で働いていたとき、妊娠した先輩にみんなが『おめでとう』と表では言いながら、裏では『一人減って大変』とか言っているのを聞いて、当時は妊娠が怖いと思っていたんです。だから、今後手伝えなくなると思うと、最初は妊娠したことを町の人に言えなくて、しばらく黙っていたんです。そうしたら、農家のじいちゃんに『わかっぺ~』と言われて、それからは『俺がやるから』と重いものを持ってくれたり、仕事を手伝ってくれたり。子供を産むことが歓迎されて、助けてもらえて、すごく幸せでした。それは農家の人だけでなく、あらゆる人がいろいろ助けてくださって」

明日わたしは柿の木にのぼる

1歳の誕生日には農家の人たちが一生餅を用意してくれ、子供に背負わせる行事もしてくれ、その後も畑に連れていくと一緒に遊んでくれたり、収穫した野菜を分けてくれたりと、「こんなに子供が歓迎されるなんて、考えてもみませんでした」と小林さん。個人として受け入れられただけでなく、少しずつではあるが、事業者としても受け入れられている。

「福島県の中通りで若者がやりがいをもって働けるところは少なく、限られているのが現実です。東京の大学を卒業し、地域のために働きたいと思っても、その知見を生かせる仕事がないんですね。でも、そういう人が働きたいと問い合わせをくれるようになったんです。まだまだそういう人を全員雇えるわけではありませんが、戻ってきたいと思う人を受け入れられる会社になりたいです」。

会社は今年、5期目に入った。国見町で収穫されながらも出荷できなかった果物を未利用資源として購入し、コンテナで出荷する事業では生産農家の収入を助けている。また、コスメの植物原料である柿の皮を購入することでも生産農家の収入につながっている。最初は「そんなことではビジネスにならない」と言われたこともあったが、小林さんには揺るがない思いがあった。

「地道に人との信頼関係を積み上げていくなかで事業がしたかったし、目の前の人が少しでも喜んでくれることを毎日積み重ねて、ここまできたと思います。これからもそこは譲らず、ちゃんと福島の産業の一つとして利益を出していけるようにしたい。そして、若い人たちを受け入れて、これまで頑張ってきた農家さんの世代交代ができるようにして、持続可能な活動にしていきたいですね」。

自分の意志で人生を歩む、すべての女性に寄り添っていきたい

時代が小林さんの思いに追いついたかのように、『明日 わたしは柿の木にのぼる』の商品の売り場が増えている。百貨店でのフェムテックをテーマにしたポップアップストア、フェムテック専門店での展開、さらにはユニークなイベントを実施している東京都の銭湯でも購入できる。助産院での取り扱いも始まった。最近は全国の下着ショップ、コスメのセレクトショップなどからの問い合わせも多い。

この背景には、世界的な動きを受けて、日本でもようやくフェムテック市場が注目されてきたためと思われる。欧米ではさまざまな企業がフェムテック市場に参入し、世界レベルでは2025年にこの市場は5兆円規模になるとも言われている。

と同時に、雑誌、ウェブサイトなどで、これまで語られてこなかったデリケートゾーン関係の記事が増え、ヨガジャーナルオンラインでも「更年期を境に乾燥が気になる理由」という記事が多くの人に読まれた。

「それでもまだ、フェムテックと言われても自分のヘルスケアの問題ではないと思っている人は多いのではないでしょうか? フェムテックに限らずSDGsについても、まだ自分とは遠いところの事のように感じている人も多いのでは? サスティナブルなコスメは原料の調達などの関係で大量生産ができません。ボトルなども環境に配慮したものを選んだりして、こだわって作っていくと、どうしても価格が上がってしまいます。それでも買ってくださる人たちと、これからも出会いたいですね」。

5月には『明日 わたしは柿の木にのぼる』の新製品、フェミニン セラムが発売される。年齢を問わずデリケートゾーンのケアで、大切なのは保湿。フェミニンセラムは特に気温が上がる春夏に、オイルよりも軽い使い心地ながら、しっかり保湿してくれるアイテムである。

明日 私は柿の木に登る
「明日 わたしは柿の木にのぼる」イメージビジュアル

最後に、このユニークなブランド名『明日 わたしは柿の木にのぼる』の意味を小林さんに聞いた。

「私たちの世代って、『いつやるの? 今でしょ!』と、今、今、今をずっと繰り返してきた世代なんですよね。でも、それをしていたら自分を大事にする時間なんて、なくなっちゃうんです。私もずっとそれをやってきて、自分を大事にできていなかったし。強がっていたけど、あのとき、誰かに『明日でもいいよ』と言われていたら、自分がどんなに救われていただろうと思うんですよね。だから、使ってくださる人に『明日でもいいんじゃない?』ということを伝えたいと思って『明日』という言葉を入れたんです。そして、『明日』の後に半角、ちょっとスペースを入れたんです。これは、心のゆとりとか時間のゆとりとか、一人一人が息つぎする間、一呼吸する間をイメージして」

その後の『柿の木にのぼる』にも小林さんの思いが込められている。

「子育てをしていると、ダメな私って思う瞬間が誰にでもあると思うんです。でも、そんな自分を卑下したりせず、上を向いていたいというニュアンスを込めたんです。ほら、木に登るときって、上を向いて登るから。登るのも一歩だし、休むのも一歩だし、それを選ぶ意志の大切さも込めたかったんです。女性が自分の意志で、自分の人生を歩んでいく、そういう女性たちに寄り添うブランドであり続けたいと思っています」。

小林味愛
小林味愛さん

プロフィール:小林味愛(こばやし・みあい)

株式会社陽と人、代表。東京都生まれ。大学卒業後、国家公務員として衆議院調査局、経済産業省などで勤務後、民間のコンサルタント会社に転職し、地域活性化、地方創生関連を担当。2017年、福島県国見町に株式会社陽と人を設立。出産後、福島県と東京都の二拠点生活を送りながら、『明日 わたしは柿の木にのぼる』ブランドの商品開発など、地域の農産物の価値を広く伝える事業に取り組む。2021年3月、復興庁「復興推進委員会」委員に就任。
※2021年4月19日(月)21:00〜ヨガジャーナルオンラインのインスタライブ「忙しい女性にこそフェミニンケアが必要な理由 トーク」に出演。新作の紹介、実施中のフェミニンセラムのクラウドファンディングについても説明。

協力:サスティナブルコスメアワード

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