補助具(プロップ)を使ってポーズを安全に深めよう｜体の仕組みを学ぼう

サルヴァーンガーサナ（肩立ちのポーズ）は古典的なポーズだが、私はヨガを始めてから2年間は楽しむことができなかった。体の面では喉が詰まるように感じ、心の面では何度試してもくつろぐことができなかったのだ。ただありがたいことに、数年のうちにブランケットで肩を上げる方法を知って、間違いなく楽にできるようになった。ところが、椅子を使い始めたとたん、天にも昇る心持ちになった。はるかに長い時間ポーズに留まれるようにもなった。これは重要な点だ。私たちの体は姿勢によって、脳の生化学的機能と神経学的機能に変化が生じる。睡眠時の姿勢を考えてみよう。私たちは横たわるのが最もよいことを本能的に知っている。横たわっているとき、体内では睡眠を円滑にする一連の事象が引き起こされる。逆転のポーズを数分間以上保持すれば、脳に影響が及ぶだけでなく、血行力学的状態（血流）が変化し、腹部臓器が刺激され、脚からリンパ液が排出されるのが促され、心が静まる。さらに、物の見え方も変わってくる。

安全なサルヴァーンガーサナへのプロセス

解剖学的に考えよう

サルヴァーンガーサナを安全に行うためには、首の解剖学的特徴を理解しておく必要がある。頸椎は最大55度しか屈曲しない（あごを胸部に向けて動かすときである）。床に直に寝てこのポーズを行えば、可動域を超える動きを頸椎に強いることになり、頸椎に体重が重なるようにかかる。さらに上部胸椎も圧迫される。肩が体重の大部分を支えているため、プロップで肩を高くすれば首を保護することができる（ポーズの名前に忠実な姿勢を保てることにもなる）。さらに、脊椎の残りの部分が固定されなくなり、肺や心臓、腹部臓器が圧迫されることもなくなる。こうして心地よく感じられるだけでなく、横隔膜の移動の自由度が高まるため呼吸も改善される。椅子を使った場合、頸椎にとってはさらによいことがある。頭と首の代わりに、（立位と座位で腕と胴体を支えるようにできている）骨盤が体の重さを支えるようになるからだ。

エネルギー

ヨガのポーズは単なる身体的運動ではない。それぞれのポーズが異なる形で体内のかすかなエネルギーに作用している。肩立ちのポーズは共感、養育、好意といった典型的な母親のエネルギーを象徴するポーズで、視線は自分自身に向けられる。これと対照的なのが、たとえばシールシャーサナ（三点倒立）で、視線は外側を向く。肩立ちのポーズをすれば内省的になることができる。椅子を使う場合は特にそうだ。椅子のおかげで必死に努力する必要がなくなり、補助を受け入れることによって野心を手放すことができる。こうして身体的にも、精神的にも、感情的にも、気持ち的にも深い休息を取れるようになる。

肩立ちのポーズの準備

● 補助をお願いしよう
ポーズに安全に入るためには、経験の多少に関わらず、最初は正式な資格のある指導者に導いてもらおう。椅子を使うのは少し難しいからだ。これは初心者向きのポーズではない。あらゆる形の肩立ちのポーズの禁忌は、神経の圧迫をはじめ頸椎に問題のある人、片腕または両腕に神経痛のある人、椎間板疾患のある人、むち打ち損傷のある人、慢性的な頸部痛または機能障害のある人のほか、高血圧、胃食道逆流症、副鼻腔炎または鼻詰まりがある人、脊椎分離症または脊椎すべり症の診断を受けている人である。さらに、妊娠中や生理中の人、閉経後3カ月未満の人、14歳未満の子供もこのポーズを行ってはならない。
● プロップを用意する
● 背面が空いているヨガチェア　前脚と前脚の間の補強材と背もたれがなく、4本の脚がしっかり開いて安定性が確保される椅子。
● ブランケット最低3枚　腰が痛くないように座面にのせてもかまわないが、ポーズ自体は難しくなる。いずれにしてもアライメントを崩さないようにすること。首の下に十分な高さのブランケットを敷くことによって、首の角度が約55度になり、体重が骨盤と肩で支えられて（骨盤で大部分を支え、肩で適度に支える）、頸椎にいっさい負荷がかからないようにする。
● 粘着性の高いマット　椅子を固定できるマットが必要。また、マットが傷つかないように、椅子の脚の先にはゴム製のカバーがあることを確認しよう。

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