日常生活に活かせるヨガ哲学の教えとは?|ふたりのヨガマスターに学ぼう
ケン・ハラクマ先生×佐藤ゴウ先生による対談記事。日常生活に活かしたいヨガ哲学の教えとは自分を受け入れより良い方向に進む、その指針となるヨガ哲学の教え。ふたりのヨガマスターにヨガ哲学との向き合い方、生活への活かし方を聞きました。
哲学は頭で理解するより経験を通して深まる
ケン先生(以下K):ヨガ哲学は生きやすさのヒントを与えてくれますが、難しいと感じる人も多いようです。ヨガを始めた当初、ゴウ先生は哲学に対して難解なイメージがありましたか?
ゴウ先生(以下G):いいえ。僕は「ヨガ哲学を学ぼう」としなかったのがよかったと思っています。ヨガが何かもわからず受けた初レッスンでたまらない解放感に包まれ、そのとき感じたのは「呼吸に意識を向けると体がラクになる」という漠然とした気づきでした。その後、練習を深めるうちにヨガは運動ではなく、ポーズや呼吸法は悟りに至るための行法で、理想的な生き方もそこに示されていると気づいたんです。どうやらそれがヨガ哲学と呼ばれるものらしいぞと。何千年も前から幸せに生きる道筋は決まっていて、それを「学ぶ」より「確認する」感覚で哲学に触れてきました。
K:素晴らしいですね。哲学書の言葉は確かに難解で、文面を理解するつもりでページを開くと早々に壁にぶつかります。哲学が示す生きやすさを頭で理解せず、呼吸をして体を動かし自分を深く見つめていく中で、意識が体験したことに哲学の教えを当てはめると、言葉の意味が腑に落ちるもの。ただし、ヨガ哲学が生まれた時代と今では生活や価値観が違うため、現代のライフスタイルに合った生きやすさを考えないと逆に生きにくくなります。
G:確かにそうですね。同時に時代が流れても変わってはいけない根っこの部分もヨガ哲学は教えてくれます。その根っことは「愛」で、利己主義にならずみんながハッピーになるよう行動すれば、おのずと自分も幸せになると心得ています。真実を見失わなければ時代が変わっても迷いなく生きられる。根底に愛のある生き方を、僕は伝えていきたいです。
生活に活かしてこそ価値が出る教え
K:ヨガ哲学はより良く生きるための智慧。哲学書を一通り読んでおしまいではなく、人生に迷いや不都合が生じたときの道しるべにしてこそ意味がある実践的な教えです。
G:同感です。誰しも日常的にモヤモヤした感情を抱える瞬間があり、身近な例だとインスタグラムで友達のライフスタイルが眩しく見え、自分がつまらなく思えたり。でも、「他人の仕事をするより自分の仕事をしなさい」という哲学の教えを知っているとネガティブにならない。これは、「人と比べる必要はないよ。与えられたことを全うしなさい」という意味の『バガヴァッド・ギーター』の一節です。さらに突き詰めるとその体、その声、その性格、すべてが自分しかできない役割を果たすためのツールであると伝えています。人はみんな違うという本質を理解していれば、自分を責めたり相手を羨んだりすることはなくなります。でも僕だって比べちゃいます、実際は(笑)そんなときは比べてしまう自分を否定せず、受け入れて認める練習だと思っています。
K:いいですね。人間関係でも哲学の教えを実践できるとスムーズですよ。自分はこんなに尽くしたのに見返りがなく「裏切られた!」と言う人がいます。そもそもヨガのベースにあるのは利他的な「愛」なので、自然と入ってきたものには感謝しますが見返りは求めません。あなたからの愛が欲しいから私は愛を与える、という考え方はヨガの道から外れます。見返りへの欲求を手放し与える精神で生きられるとラクですし、結果としてさまざまな恩恵が返ってくるものです。
G:見返りを期待すると相手と調和しづらくなりますよね。以前に自然の景色を眺めて思ったことですが、低い木は高い木の間から差し込む木漏れ日で生きているんです。必要以上に光を求めず調和を保っている光景を見たとき、自然のしくみと調和や融合を目指すヨガ哲学の教えの共通点を感じました。
意識と思考の切り替えをヨガマスターも実践
K:私が思うヨガ哲学最大の醍醐味は、意識のコントロール法の習得です。常に実践しているのは、集中・瞑想・三昧というつの意識の使い分け。たとえば、食事中は箸で料理を口に運ぶことに集中し、咀嚼中は五感を働かせマインドフルに食べ、のみ込むときは食材のエネルギーと自分との一体感を味わいます。これはぶつからないエネルギーをクリエイトする練習。感じ取りたいのは対象物と「融合する」感覚です。この感覚をつかめると価値観の違う相手とうまく交わり、友人関係やビジネスがうまくいきますよ。ゴウ先生がヨガ哲学に助けられた経験は?
G:僕は体調を崩し自分ではどうにもできないほど辛い時期がありました。そのとき思い出したのは、「あらゆる義務を捨てただ私に服従しなさい」という、これも『バガヴァッド・ギーター』の教えです。「私」とはこの世のすべてをつくり出し管理している神様、クリシュナのこと。抗わずクリシュナに任せようと思えばラクになりました。僕らは日々を自分でクリエイトしているようで、実はカルマという宿命に動かされている。カルマだと思えば病気になった自分を許せ、人は完璧であるべきという勘違いも捨てられました。あとは、哲学のおかげでヨガをする目的が明確になりましたね。目指すゴールは「常に純粋な愛の状態で生きること」。純粋な愛に気付くと喜びや幸福が自動的にやってくるものです。
K:ヨガ哲学は自分に問いかける機会を与えてくれます。ゴウ先生のようにどんな自分も受け入れ、意識のコントロール法を実践しより良く生きてほしいですね。
G:そうですね。最後に伝えたいのは、「哲学は学ばなくていい」ということ。ヨガは哲学もあるから勉強しなくちゃと思うと義務になってしまうから。ヨガってポーズだけじゃないと気づき、もっと知りたいと思うタイミングで哲学書を開くと、ヨガ哲学は人生の素晴らしいガイドになると思います。
ヨガ哲学の醍醐味は集中・瞑想・三昧3つの意識のコントロール―ケン・ハラクマ
ヨガはポーズだけじゃないそう思ったときに学び始めるのがベスト―佐藤ゴウ
教えてくれたのは…ケン・ハラクマ先生
インターナショナルヨガセンター(IYC)代表、 アスリートヨガ事務局代表理事。日本のヨガ 界の第一人者。健全なヨガ指導と普及活動 を行う。全国各地でアシュタンガヨガを中心 に、指導者養成を行っている。
教えてくれたのは…佐藤ゴウ先生
IHTA顧問、ヨガインストラクター。日本各地でクラスを担当。ヨガ哲学を伝え、心身の繊細な感覚を見つめる「感じるヨガ」を展開。各地でヨガイベントも行っている。
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