米国心理学者に聞く「喜びを迎え入れるための瞑想法」とは

 米国心理学者に聞く「喜びを迎え入れるための瞑想法」とは
AC まぽ

どうやったらいちばん苦しい時期にも幸せを見つけられるだろう。

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見失った「喜び」を蘇らせてくれたもの

言葉を習得する能力や人を愛する能力と同じように、喜びを感じる能力はあらゆる人に生まれつき備わっている。心理学の研究では、体に強い痛みを感じるときや精神的に苦しんでいるときでも、それとは関係なく喜びを感じられることが示されているという。そうは言っても、多くの人は喜びが生まれながらに備わっている感情であるとは思えないだろう。喜びは特定の物を所有したときや、特別なことをやり遂げたときにだけ感じられると思っているのだ。

だから私たちは、さまざまな物や人間関係、特別な経験を通じて喜びを求め続けている。そのために、このきわめて重要な感情がすでに自分の中にあって、いつ見つけてもらえるのか辛抱強く待っていることを感じられないのだ。

残念ながら、喜びの感情を認めなかったり否定したりすると、人生の意味や人間関係の価値が感じられなくなる。たとえば、人生が充実していないと感じたり、ほかの人に嫉妬したりすると、生来の喜びの感情はすっかり影を潜めてしまう。私は20代前半の時にこのことを経験した。私は当時、引っ越しを終えたばかりで鬱状態にあった。仕事も見つからず、孤独感に苛まれていた。

本来持っているはずの喜びの感情を見失ってしまい、悲しみにとらわれてもがき苦しんでいた。こうして悪循環に陥って、目的意識もなくしていた。瞑想をすると、どんな状況に置かれていても生来の揺るぎない喜びの感情を発見できることを知ったのはそんな時だった。私は鬱状態のなかでようやくヨガの講座にたどりついたのだった。

最初のレッスンの終わりに瞑想をした。すると、不意に全身に喜びがあふれてきた。突然、自分自身や宇宙と再びつながる感覚を覚えて、目的意識や人生の意義を感じることができた。その夜はすっかり生まれ変わったような感覚に浸りながら、歩いて家に向かった。

私は自分に何が起きたのか猛烈に知りたいと思った。それ以来、瞑想を実践し、神経科学の研究論文も数え切れないほど読むことによって、どんなときでも瞑想によって喜びを感じられることを理解した。瞑想をすると、脳のデフォルトネットワークが停止する。脳のデフォルトネットワークが働いていると、否定的な感情や執着心にとらわれてしまう。また、瞑想をすると、脳の実行ネットワーク、思いやりネットワーク、焦点をぼかすネットワークを起動させることができる。すると、喜びを受け入れやすくなり、物事の本質を見抜くことができるようになる。

「喜び」は特効薬

古来喜びは病気の特効薬であると考えられてきた。たとえば、古代ギリシャでは円形劇場の近くに病院が建てられていた。当時は治癒を促すために喜劇の観劇が処方されていたため、患者が劇場に足を運びやすくするためだった。喜びが病気によく効くことがはっきり示されたのは、作家で平和活動家でもあったノー喜びによって免疫系が強化され、エネルギーが高まり、ストレスから守られる。

マン・カズンズが1964年に命に関わる病気にかかっていると診断されたときだった。カズンズは自らの病気を調べるうちに、否定的な感情が健康と治癒に悪影響を及ぼすことを理解した。そして、前向きな感情が健康に良いのではないかと考えた。この考えは正しかった。滑稽な物語を読んだり、おもしろい映画を見たりしているうちに、カズンズは本質的に健康に戻ることができたのだ。

1989年には、カズンズの症例の正当性を証明するように、慢性疾患を抱える患者の生活の質を改善する治療法として笑い療法を検討した先駆的な記事が、医学学術誌『American Medical Association』に掲載された。この記事によれば、笑うことによってでも幸福感を得られる活動によってでもいいので、定期的に喜びを感じていると、全身に良い変化が認められることが研究で示されているという。

喜びを感じると免疫系が強化され、エネルギーが高まり、痛み、不安、気持ちの落ち込みを感じにくくなる。また、ストレスの悪影響から守られて、夜ぐっすり眠れるようになるなど、実にさまざまな変化が起きる。何よりもうれしいことに、瞑想を行えば、いつでも喜びの感情を得られることもわかったという。

実際にやってみよう

感謝と喜びを喜んで受け入れる

喜びを感じるもうひとつの方法は、時間をかけて感謝の瞬間を経験することだ。感謝と喜びの感情を心と体の中に招き入れるのだ。この練習では、時間をかけて自分が感謝するものを思い出す。研究によって、感謝する瞬間を思い出す練習を定期的にしている人は、していない人よりも人生を楽しんでいて、抑鬱感を感じにくいことがわかっている。以下の練習は、夜寝入る前に行おう。

目は開いていても閉じていてもよい。肌に触れる空気、体に触れている物の表面の感覚、呼吸をしている体、全身の感覚など、自分を取り囲む環境と音を受け入れよう。

体の中に感謝と喜びの感情を受け入れよう。友人や動物に対する気持ちでも、住んでいる場所、誰かにしてもらったこと、衣食住が足りていること、または単に生きていることに対する感謝でもよい。感謝と喜びの感情が全身に広がっていくのを観察しよう。心の内側に微笑みがあって、心が温かくなっていることを感じよう。感謝の気持ちが全身に広がって、自分のまわりの空間を満たしていくのを感じよう。

次に、失望、悲しみ、不満のような反対の感情が起きてくるかどうか観察しよう。そのような感情が生まれてきたら、喜んで受け入れよう。そして、感謝と喜びの感情を受け入れよう。不満を感じているあらゆる部分を喜びで満たそう。大丈夫だと感じたら、反対の感情をすべて手放して、これといった理由もなく感謝と喜びだけを感じる。

用意ができたら、目を数回開け閉めしながら、毎日感謝と喜びを感じることを誓う。その後、どこにいても、何をしていても、誰と一緒にいても、感謝と喜びは常に自分と共にあることを心に刻みながら、普段の活動をいつものとおり行う。こうすることは、自分自身とも自分のまわりの世界ともつながっていると感じるのに役立つ。瞑想をしている間、眠りに入る前や目覚めたとき、そして日常生活の中で、安心して感謝と喜びの感情に頼ってほしい。少しずつでいいので毎日定期的に感謝と喜びを「服用」することが、全身の健康と幸福感を高めるのに大いに役立つ。

喜びの反対の感情を喜んで受け入れる

あらゆる感覚、感情、認識は、肯定的なものと否定的なものが表裏一体になっている。喜びも例外ではない。積極的に喜びを迎え入れようとすると、その反対のものが否定的な感情の形で現れてくる。たとえば、病気や事故、誰かとの別れに直面しているときに喜びを感じようとすると、最終的には悲しみ、嘆き、残念な気持ちなど、解消されていない感情に取り憑かれてしまうことがある。

ここで希望を失わずに、喜びの反対の感情を受け入れる練習をしよう。すると、治療や問題解決に役立つ伝達役としてこれらの感情を取り込むことができるようになる。否定的な感覚、感情、考え、出来事を経験したときにこの練習をしてみよう。この単純な練習によって、人生が変わるくらいの変化がもたらされるはずだ。

目は開いていても閉じていてもよい。肌に触れる空気、体に触れている物の表面の感覚、呼吸をしている体、全身の感覚など、自分を取り囲む環境と音を受け入れよう。次に、体の中で喜びの感覚がある場所を探そう。つながっている感覚、幸福感、安堵感など、うれしく感じられる感覚ならなんでもよい。喜びを感じさせる人や動物、場所、物にまつわる記憶を思い起こしてもかまわない。

体のどの部分でその喜びを感じているか観察してみよう。たぶん心が温かくなったり、お腹がぽかぽかしてくることだろう。ここで、喜びの感情と、その反対の神経が擦り減るような感覚、感情、認識とを組み合わせてみよう。または人生で特にストレスを感じた出来事と組み合わせてもよい。この神経が擦り減るような考えや感情や状況が心身にどんな影響を及ぼすか感じてみよう。

次に、喜びとストレスの原因となるものを交互に感じてみよう。まず体に喜びを感じて、次にストレスの原因となるものを感じてみよう。次にその逆をしよう。その後、このふたつを同時に感じて、ストレスの原因を感じながら喜びを全身に広げていこう。今なら大丈夫と思えるときに、ストレスの原因を手放して、全身に喜びだけが広がっているのを感じよう。気持ち良く感じていられるだけこの状態を保つ。

用意ができたら、目を数回開け閉めしながら、この喜びの感情に働きかけて、喜びが日常生活の中でも自分と共にあることを願おう。

前進しよう

どんな境遇にあるときでも、ヨガの瞑想をしていると、人生で経験するあらゆる出来事が記憶すべき、経験する価値のある機会であると考えられるようになり、喜びが生まれたときから常に自分と共にあることをしっかり自覚できるようになる。喜びを深いところで感じることは、人生のあらゆる側面との一体感を探るのに役立つ。

すると今度は、決して変わらない幸福感を経験し、洞察を得て、生涯を通じて自分自身との調和を感じるために必要な行動を取れるようになる。

指導…リチャード・ミラー
博士号取得者。Integrative Restoration Instituteの創設者であり代表。国際ヨガ療法士協会の共同創設者でもある。この記事は、効果的な瞑想を長期間続けられるようにするのを目的とした10回シリーズの8番目の記事。

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by Richard Miller,PhD
translation by Setsuko Mori
yoga Journal日本版Vol.67掲載



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