骨盤と膝を繋ぐ「腸脛靭帯」の仕組みを理解しよう

 骨盤と膝を繋ぐ「腸脛靭帯」の仕組みを理解しよう
Paul Miller
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なぜフォームローラーによるマッサージでは治らないのか

腸脛靭帯に問題があるならば、フォームローラーで腸脛靭帯をマッサージすれば効くだろうと考えるのは理にかなっているように思われる。また、マッサージをした後には一時的に症状が緩和することもある(マッサージの最中には強い痛みを感じる可能性が高いが)。ただ私自身は、自分の判断で腸脛靭帯をマッサージすると、効果よりも悪影響のほうが大きくなることを確信している。その理由を説明しよう。

第一に、フォームローラーによる過度のマッサージは、炎症している腸脛靭帯をさらに刺激して、すでにある微小な亀裂を悪化させる可能性がある。しかも、マッサージの後に症状が和らぐのは、一部には、腸脛靭帯の下にある大腿四頭筋の外側の筋肉(外側広筋)の張力受容体が刺激を受けるためである。このように大腿四頭筋の張りが和らぐと、腸脛靭帯の痛みが少し和らぐとしても、フォームローラーがさらに損傷を引き起こす可能性は否定できない。最後に、大臀筋と大腿筋膜筋のようなきわめて重要な筋肉を無視してフォームローラーを使っているとすれば、痛みの根本的な原因に対処していないことになる。

まず、大臀筋と大腿筋膜張筋にセラピーボールを使ってみよう。このふたつの筋肉と床の間にそれぞれボールを挟んで、ボールに体重をかけていく。ボールが筋組織に沈んでいくので、深い呼吸を繰り返そう。ひとつの筋群につき2分間行おう。また、ボールの上に横たわりながら、ふたつの筋肉の緊張と弛緩を2、3回繰り返して、筋肉自体と腸脛靭帯との接続点をさらにゆるめよう。次に、セラピーボールを太腿の外側にあてる。こうすることによって、股関節の構造が改善されて、最終的に腸脛靭帯の本来の機能を取り戻すのに役立つ。しかも新たな損傷のリスクはない。ボールを転がして腸脛靭帯を「伸ばし」たり「ゆるめ」たりしないことが重要だ。腸脛靭帯の状態を悪化させかねない。伸ばしたりゆるめたりせずに、腸脛靭帯の下にある筋肉、つまり大腿四頭筋の可動性を高めることを目指そう。

今回紹介するリリースエクササイズでは、セラピーボールをゆっくり動かすことによって、筋肉の深層部に可動性がもたらされる。ボールが腸脛靭帯にじかに触れることがあるため、特に敏感な場所にはあまり圧力をかけないようにしよう。腸脛靭帯の下にある大腿四頭筋の深部に弛緩反応を生み出せるように圧力をかけてみよう。

フォームローラーではなくボールを使ってマッサージしよう

以下の方法は、正しい場所を探し当てるのに役立つだろう。ボールを転がすと痛みを感じる場合は、1つ前の段階に戻ってみよう。耐えられるストレッチのような感じがするはずだ。その場所が温まってすっきりするはずだ。

★横向きに寝ころび、Yoga Tune Up Therapy Ballなどの小さくて柔らかいボール1組(2個)を、太腿の外側にあてる。このとき、大腿四頭筋とハムストリングの接合部分を目指して、腸脛靭帯の真下にくる部分にボールをそっと埋めよう。

★10回呼吸する間、ボールを自然に沈ませていく。ボールが大腿四頭筋とハムストリングの間に固定されるイメージをもとう。

★太腿の重さを使ってボールを横方向にゆっくり動かす(つまり、縦方向ではなく太腿を横切るように動かす)。今度は、ボールをしっかり固定した状態で、大腿骨を中心に大腿四頭筋を動かしてみよう。大腿四頭筋の側面(外側)をハムストリングから遠ざけるとともに、大腿骨と大腿四頭筋の間を伸ばそう。正しくできていれば、大きな手が太腿の筋肉を骨を軸に回しているように感じるだろう。

★セラピーボールは丸いため、自然に転がっていく。自分でボールを転がすのはできるだけ少なく抑えよう。筋肉全体をマッサージしようとして転がすと、太腿に内旋が引き起こされる。

★太腿の外側から中央に向かってゆっくり動かしながら、最大10分間続ける。反対の脚も同様に行う。

体の仕組みを学ぼう 腸脛靭帯を理解しよう
Photo by Paul Miller

健康的な腸脛靭帯につながる3 つのポーズ

腸脛靭帯の硬さを感じる場合 アナンターサナ(横向きの脚上げのバリエーション)

腸脛靭帯と股関節に硬さを感じる(つまり、チャイルドポーズがとても気持ちよく感じる)場合は、腸脛靭帯につながる筋肉の可動性を高めるとよい。すると、腸脛靭帯と股関節の強さを保ちながら可動域を高めるのが容易になる。

HOW TO
左側を下にして横たわり、左腕を床から離さずに頭上に伸ばす。左肘を曲げて手のひらで頭を支える。左右の腰を平行に保ったまま、腰を回転させずに右脚をできるだけ高く上げる。次に、右腰を引き上げたまま前に倒す(つま先を天井のほうに向けないこと)。腰を回転させずに、右足をゆっくり床に下ろす。次に、右足を再び床から上げて、30秒かけて最初の位置に戻す。1回の脚上げに約1分かける。左側で3回行ったら、反対側も同様に行う。

腸脛靭帯の硬さを感じる場合 アナンターサナ(横向きの脚上げのバリエーション)
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腸脛靭帯の可動性が過度に高い場合 ヴァシシュターサナ(サイドプランクポーズ)

体が過度に動くタイプの人には、安定性を高めるアイソメトリックポーズが、腸脛靭帯を強化して安全に保つうえで最も重要になる。このポーズは腰の側面を安定させる筋群(大臀筋、中臀筋、小臀筋など)を活性化させるほか、大腿筋膜張筋を刺激して腸脛靭帯を安定させる。どちらの脚も同じように力強く働くため、特に効果的に腰を強化して、腸脛靭帯の安定性を高めることができる。

HOW TO
左側を下にして横たわり、前腕を床につけ、肩甲骨を腰のほうに動かす。足から肩まで真っすぐにする。足の外側を働かせて足首の力を維持しながら、体を起こしてサイドプランクポーズに入る。両足が腰幅に開くまで右足を左足から引き上げる。この姿勢を1分間保ち、反対側も同様に行う。

腸脛靭帯の可動性が過度に高い場合 ヴァシシュターサナ(サイドプランクポーズ)
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腸脛靭帯を感じる場合 プラサリタパードッターナーサナ(立って両脚を伸ばすポーズのバリエーション)

このユニークなバリエーションのねじる動きは、腰の外側から膝にかけて伸びている腸脛靭帯の起始部と付着部を感じるのに役立つ。また、臀筋、太腿側面のハムストリング、ふくらはぎ側面の筋肉、足首に深いストレッチをもたらす。

HOW TO
立った姿勢から足を60~90cm開き、背筋をニュートラルに保ちながら、手が床に触れるまで上体を倒していく。手が床につきにくい場合は、ブロックか椅子に手をおく。両手を右側に歩かせる。全身を回転させるため、両足と頭は最初の位置からずれる。腰と太腿が回らなくなるところまで回転したら動きを止める。このとき右脚は左脚の前にきている。5~10回呼吸をする間保ったら、反対側も同様に行う。

腸脛靭帯を感じる場合 プラサリタパードッターナーサナ(立って両脚を伸ばすポーズのバリエーション)
Photo by Paul Miller

指導/ジル・ミラー
Yoga Tune UpとThe Roll Model Methodの考案者で、『The Roll Model: A Step-by-Step Guide to Erase Pain, Improve Mobility, and Live Betterin Your Body』の著者でもある。筋膜研究会議とヨガセラピスト国際会議で事例研究を発表している。

モデルカット・ファウラー( E-RYT500を保有)
ヨガと瞑想の指導者であり、ニューヨークでYoga Alliance Continuing Education Providerを務めている。

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Photos by Paul Miller
Model by Kat Fowler
Styling&hair&make-up by Emily Choi
Illustration by Michele Graham
Translation by Setsuko Mori
yoga Journal日本版Vol.60掲載



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