【レジェンドアームレスラー×ヨガ講師の筋肉対談】共通点は「植物性の食事」筋肉を維持する秘訣とは?
菜食主義でありながら逞しい筋肉を誇り、アームレスリングの日本チャンピオンに何度も輝く近藤忠さん。その筋肉美に憧れていたというヨガ講師の谷戸康洋先生の対談が実現!植物性の食事だけで筋肉を維持するための独自論やトレーニング法を伺いました。
「筋肉」と「菜食」がつないだ意外な縁
―谷戸先生は近藤さんのトレーニングジムに通っているそうですが、近藤さんとの出会いのきっかけを教えてください。
谷戸:僕はヨガを実践するなかで学びのために毎年インドに行きますが、インドでは「非暴力」というヨガ哲学の教えに基づいて動物性の食事を一切摂りません。日本での食事もその教えに沿って菜食を続けています。そんな僕ですが筋トレなど体を使うことが好きで、トレーニング系のYouTubeを観る機会が多く、筋トレをしているユーチューバーの方とアームレスリング対決をする動画に近藤さんがよく出演していたんです。近藤さんは自分より50㎏、60㎏も大きな人たちと対戦し、二人がかりで戦ったり、両手を使ったりしても相手は勝てない。一体どういう食事をしているのか興味がわき、食生活を紹介する動画を観たらヴィーガンと知りびっくり!その強さと体を生で見たいと思い僕からメールを送らせていただきました。
―お二人は何をきっかけに筋トレを始めたのですか?
近藤:小学校5年生のときに、以前は腕相撲で簡単に勝っていた友達と再会したんです。ところが、久しぶりに腕相撲をしたらあっさり負けてしまって。なんでそんなに強くなったのか聞いたら、「これで鍛えたんだよ」と鉄アレイを見せてくれたんです。自分もやってみようと思い、鉄アレイを買いに行ったのが始まりです。筋トレ歴は40年近くになります。
谷戸:僕は2年程前まで体がとても細くて、力も全然ありませんでした。そんな菜食主義の人が筋トレをしたら力は強くなるのか、筋量はどの程度変化するのかを実験したくて始めました。あとは菜食だと体が痩せていく、風邪をひきやすくなると言われますが、そんなことはないと思って自分の体を使って実験してみようと思ったんです。2年間筋トレをやってみた変化は、扱えるダンベルやバーベルの重さが目に見えて重くなり、毎日見ているとわかりにくいけど体もかなり変化しているんじゃないかな。調子が悪いと感じることはないですね。
―体を維持するために、普段はどんなトレーニングをしていますか?
近藤:私は体の変化を観察するために週5回、基本的に同じ内容のトレーニングを行っています。具体的にはインクラインベンチプレス(100㎏=8~10レップを3段階に高さを変えて行う)、ベンチプレス(100㎏=30レップ、120㎏=10~12レップ、140㎏=数回を週1回)、ショルダープレス(115㎏=6~15レップを3セット)、サイドレイズ(9㎏=30レップを6セット)。そして40㎏~80㎏のダンベルを持った状態でのワイドスクワットと懸垂に加えて、1カ月に1、2回は登山をしています。
谷戸:僕は山梨で運営している自分のヨガスタジオの近くにジムがあり、そこでトレーニングをしています。通える頻度が不規則なので、週1のときは全身をしっかり鍛え、週5で通えるときは胸、背中、肩、腕、脚など日によってメニューを変えてやっています。
食事の恩恵を受けるには、「思い込み」を外すのが大切!?
―植物性の食事を続けているお二人は、どのような経緯で現在の食事法に辿り着いたのでしょうか?また植物性の食事に替えて心や体に変化を感じていますか?
近藤:私は趣味で登山をやっていて、タイムアタックで3000m級の山に登ることがあり、登り切るには食事の調整が不可欠です。肉を食べていたころは途中で吐いてしまったり、疲労の回復が遅かったりしてなかなかいいタイムが出ませんでした。植物性の食事に切り替えたところタイムが良くなり、回復力も速くなりました。精神面では動物性のものを食べていた自分は攻撃的だったのに対して、植物性の食事をしている今の自分ほうが穏やかになったと思います。
谷戸:僕はヨガを学んでいくうえで、ヨガ哲学の教えに準じて自然と菜食になった感じです。気分的には重たさがなくなり軽やかになった気がします。身体的には回復力が早くなったと感じています。
―植物性の食事だと筋肉が落ちるイメージがあります。筋肉を落とさないために実践している食べ方はありますか?
近藤:植物性のたんぱく質を多めに摂り、おもに豆を原料とする植物性のピープロテインを摂取しています。たんぱく質を合成するにはアミノ酸が必要ですが、アミノ酸は野菜にもたくさん含まれているので不足する心配はありません。
谷戸:僕もピープロテインでたんぱく質を補っていますが、こうあるべきというこだわりはあまりなくて、いつも通り食事をしている感じです。
―お二人の一日の食事の流れを教えてください。
近藤:朝はバナナ、オレンジ、グレープフルーツのスムージーを飲みます。そこから午後8時くらいまで約1時間おきにバナナを1/2本ずつ食べて、インドカレーで締めるのが定番です。
谷戸:毎日決まったルーティンはなく、食べたい日は食べて、あまりお腹が空いていない日は食べないという感じです。2年程前までは基本的に朝ごはんは食べませんでした。今は朝食を食べてもすごい調子がいいと感じるので、玄米と味噌汁と漬物といった和食中心の朝食を家族で食べています。その後は昼ごはん、夜ごはんを食べて合間にプロテインを飲んでいます。
―植物性の食事を実践すると肌が乾燥する、たんぱく質、ビタミンB12、鉄分などが不足するネガティブイメージを持つ人もいると思います。誤解をしている人に伝えたいことはありますか?
近藤:植物性の食事に替えて体を壊す人は、精神性が作用していると思います。思い込みというか観念の部分が影響している可能性と、急に動物性の栄養を体に入れなくなったことで体がそれを求めてバランスを崩すことはあるかもしれません。そこは意識レベルで変えられます。もう一つ伝えたいのは、動物性の食事は、その動物がどんな環境下で育てられてエサは何を食べているのか、それらの影響で動物の心体はどのようになっているのか。自分の口に入る前段階に目を向けて、どういう経緯でこの食事が目の前にあるかを理解すると、動物性の食事への執着、思い込み、観念が変わり植物性の食事へのネガティブなイメージも変わるのではないでしょうか。
谷戸:確かに「体にとって肉が必要」という意識が残っている人が植物性の食事に替えると、不具合が生じることがあるかもしれません。逆に「肉を食べなくても全然大丈夫」と思っている人は問題ないと思います。インドに行くと生まれたときから菜食の人は珍しくなく、多分彼らは栄養学などを一切学んでいないと思うし、栄養学で必要と言われる栄養素が全部足りているかというと、貧しい人も多いからそうではない。でも、その状態が普通で疑いのない人は菜食でも大丈夫だと思うんです。逆にビタミンB12が大切といった情報を得て、これがないとダメ、あれがないとダメという観念が強いとそのせいで病気になる可能性があり、ますます必要性に囚われてしまうと感じます。
―では植物性の食事にする際、初心者がやってしまいがちな間違いや注意点はありますか?
近藤:肉を食べないと力が出ない、元気が出ないという情報による思い込みはなるべく手放せるといいですね。植物性の食事にすることで心や体が良い方向に変わるイメージを持てないと、良い変化は得られないのでは。良いイメージを持つには、食事を口から摂取して排出するまでの時間や、消化に費やす時間が肉と野菜でどのくらい差があるかなど、消化と吸収の「構造」を知るのがいいかもしれません。
谷戸:菜食とかまったく気にしない食事をしていても病気になったり、体調を壊したりする人はいると思うので、菜食にするから気をつけないといけないと考えるのはちょっと違うかもしれませんね。僕は何の知識もなく今日から動物性のものは食べないと決めて植物性の食事に切り替え、ずっと体調がいいのでこのままやっていこうという感じです。でも心配であれば一度学んで、植物性の食事にすると不足しやすいと言われる栄養素をサプリメントなどでサポートすると安心して続けられると思います。
―女性は月経、妊娠、出産、更年期などで体調が変化します。植物性の食事はどの年代の女性も問題なく始められると考えますか?
近藤:私のお客さんに関しては、動物性から植物性の食事に替えてから生理痛が楽になったと口を揃えておっしゃっています。花粉症が治った、精神が安定したという声も聞かれます。
―植物性の食事で、デメリットを感じることはありますか?
近藤:私が感じるのは外食の選択肢が減る、ということぐらいです。基本的にはプラスでしかなく、以前は動物性の食事をしていたので違いがよくわかります。
谷戸:デメリットはないですね。周りに僕の食事を理解してくれている方が多いので人づき合いでも困ることはありません。体調面のデメリットもないです。
―最後に、植物性の食事はどんな人におすすめか教えてください。
近藤:植物性の食事が気になった方、やってみたいと思った方です。それは体が求めているということなのでトライしてみていいと思います。
谷戸:本当にそうだと思います。その人の内側から欲し始めたときが、情報を得たりして変わるタイミングだと思います。不調があるなら植物性の食事にしてみなさいと周りにすすめられても、その人の中で「植物性の食事にしたら調子が悪くなる」という思い込みがあると体調は良くならないはず。その人がやってみたいと思う何らかの変化があったときが、食事を変えるタイミングだと思います。
〈プロフィール〉
近藤忠さん(写真左)
東京・代官山でパーソナルジム「Ain Tiphereth」を併設したヴィーガンスイーツ店「premium SOW」、スポーツ用健康食品を扱う「筋肉サプリ工房」を経営。アームレスリングでは全日本選手権で9回の優勝、世界大会では2位の成績を収める。呼吸、姿勢、重心の安定を基本に食事とトレーニングを研究、実践することで筋肉のバランスを整え、今もパワーアップして競技に臨んでいる。
谷戸康洋さん(写真右)
ヨガ指導者。山梨県でヨガスタジオ「fika」を運営。ロサンゼルス在住のDr.Hommaが提唱するHSKキネシオロジーを学び、心と体の繋がりを体感できるヨーガを各地で提唱している。毎年自身もインドでヴェーダの教えを学び、年に一度インドでのリトリートも開催。ヨガジャーナル日本版では「漫画で読むヨガ哲学」を監修。
AUTHOR
ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
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