心の専門家が『不用意にテレビをつける』のをやめて起きた変化とは|情報を制限して見えてきたもの

 心の専門家が『不用意にテレビをつける』のをやめて起きた変化とは|情報を制限して見えてきたもの
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南 舞
南 舞
2023-11-28

心の専門家である公認心理師・臨床心理士の筆者が、日々の生活の中で実際に行ってみた、心の健康に役立つセルフケアを紹介。今回は、『テレビをつける習慣をやめてみた』というテーマ。テレビを何気なくつけておく習慣をやめたことで、見えてきたものとは?

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心理師のセルフケア『テレビをつけるのをやめてみた』

幼少期からわりとテレビっ子だった私は、特に見たいものがなくてもテレビをつけておくというのが習慣でした。なぜそうしているのか特に深い理由はなく、あえて理由を挙げるとしたら、なんとなく社会の情報とつながっておいた方がいいんじゃないかとか、なんとなく耳寂しいからBGM感覚でつけておくとか。とにかく『なんとなく』というそんな漠然としたものだったのです。

そんな深い理由のない習慣に変化が起きたのは、2020年の春頃でした。

コロナ禍に突入し、テレビの中では毎日、「今日は○人の感染が明らかになりました」というコロナの感染者数を示す数字や、コロナによって翻弄されていく世の中の様子が流れていました。そのあたりから、私自身の気持ちがモヤモヤとするようになり、心も体もなんとも言えない重い感じになっていくのがわかりました。いつ終わりが来るのかわからない、未来に対しての不安な気持ちは募る一方。その感覚が心地よくなく、『この情報から離れたい』そう思ったことを機に、その日以来思い切ってテレビをつけるという習慣をやめました。

それからは、テレビをつけるのは自分の中で必要を感じた時のみになりました。また、Youtubeは自分の中で想定していない情報が入ってくることも多いので、あえて見ないようにしていました。でも、やはり世の中の流れを全く知らないというのはなんとなく不安だったので、ネットのニュースやニュースアプリなどにアクセスして情報を得るように。必要な時は自らアクセスする、得たい情報は自ら取りに行くというスタンスでいるよう心がけました。

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テレビを不用意につけるのをやめた結果

そんなことをきっかけに、テレビから情報を得ない生活を始めて丸3年。コロナが落ち着いてきたらまたテレビをつける習慣が復活するのかな?と思っていましたが、意外とそんなことはなく、今もこの習慣は継続中。むしろ自分にはこのスタイルが合っていると思っています。コロナ以外にも、テレビでは日々様々な出来事が取り上げられていますよね。テレビを何気なくつけていた時は気づかなかったことですが、そういった情報を見るたびに、『この人たちはどういう心境なんだろう』『なぜこんなことが起きたんだろう』など、自分が意図しなくてもいろんな思考が頭の中に自然と湧いているものだということに気づきました。またそういった思考によって、嬉しい、怒り、悲しみなど様々な感情も同時に起っていて。このテレビと距離を置く習慣を通して得た気づきは、『自分が思っている以上に、外からの情報によって考えることが増えたり、それによって感情に与えられる影響も大きい』ということでした。

テレビなどの情報でネガティブな影響が起きることも

テレビが情報をリアルタイムに伝えてくれるおかげで、世界で起きていることを正しく理解することができる。それが良い影響を与えることだってもちろんあります。一方で、ネガティブな影響を受けることも忘れてはいけないなと思うのです。日本トラウマティック・ストレス学会によると、戦争など人為災害の報道については、視聴者のメンタルヘルスに悪影響を与える可能性があるということを指摘しています。大人や子供など年齢問わず、その情報を見た様々な人に影響を与えていることが様々な研究の中でわかっていますし、特にトラウマ(心的外傷)を体験した人や、現在精神的な悩みを持つ人は、特にその影響がより強くなることも示唆されています。このコロナ禍も例外ではなく、精神的に悩む人の数はとても増えていたように思います。生活の制限を強いられることに加え、メディアでは毎日あらゆる情報が錯綜している。そういった状況の中で不安な気持ちが湧いてきたり、モヤモヤする、悩むというのはとても自然な反応なのだと思います。

情報を制限することが自分を守ることにつながる

メンタルヘルスの界隈では、テレビをはじめメディアからの情報によって人々が起きる影響を懸念して、入ってくる情報を制限するなど、情報とうまく付き合って行くことが心の健康を維持するために大切だと言われています。これは私自身の話になりますが、コロナによって今よりも制限が強かった時に、妊娠・出産・育児という大きなライフイベントがありました。コロナでなくてもこの時期は心が揺らぐもの。もちろん私自身も例外ではありませんでした。そういったこともあって、より一層、情報によって起きるメンタルヘルスへの影響を懸念しながら日々過ごしました。テレビをつけないことを習慣にしたのは妊娠などよりもう少し前のことですが、その習慣のおかげなのか、情報よって心が必要以上にかき乱されることなく、その時に必要なこと・できることを淡々として過ごして行く。そんなことができたのかもしれません。皆さんの中にも、まさに今ライフイベントの禍中に置かれている方もいるでしょうし、今後迎える可能性がある方もいるでしょう。そういう人生の転機の時は、自分が思っている以上に心身の影響を受けるものですし、今回のような、世界的に揺らぐ出来事が重なるとなおのことです。そんな時こそ、自分自身を守るという意味で情報の制限をすることを選択肢のひとつとして持つのも良いのではないでしょうか。最後に。情報の制限についてはテレビに限ったことではなく、SNSなどとの付き合い方にも共通することのように感じています。どんなに親しい人の情報であっても、自分の気持ちがざわつく時にはあえてその情報から離れることをしても良いと思いますし、もっと『自分がどうしたいか』という自分主体であってもよいのかもしれません。世の中を知ることも大切ですが、それよりも大事なのは、自分が心身ともに元気で日常を送って行くことです。自分自身が元気であるために、メディアなどからの情報とうまくお付き合いができると良いですね。

【参考文献・サイト】

一般社団法人 日本トラウマティックストレス学会 【資料】「惨事報道の視聴とメンタルヘルス」の公開について

新井陽子(訳),重村淳(監訳)『災害に関連するメディア報道の意図しない結果。災害精神医学ハンドブック』誠信書房, 2022.

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南 舞

南 舞

公認心理師 / 臨床心理士 / ヨガ講師 中学生の時に心理カウンセラーを志す。大学、大学院でカウンセリングを学び、2018年には国家資格「公認心理師」を取得。現在は学校や企業にてカウンセラーとして活動中。ヨガとの出会いは学生時代。カラダが自由になっていく感覚への心地よさ、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングの考え方と近いものを感じヨガの道へ。専門である臨床心理学(心理カウンセリング )・ヨガ・ウェルネスの3つの軸から、ウェルビーイング(幸福感)高めたり、もともと心の中に備わっているリソース(強み・できていること)を引き出していくお手伝いをしていきたいと日々活動中。



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