公認心理師・伊藤絵美さんが語る、自らの人生を振り返ることで見えたこと

 公認心理師・伊藤絵美さんが語る、自らの人生を振り返ることで見えたこと
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石上友梨
石上友梨
2023-09-09

心理療法の手法である「スキーマ療法」や「認知行動療法」の専門家として知られる洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長である臨床心理士・公認心理師の伊藤絵美先生がエッセイ本「カウンセラーはこんなセルフケアをやってきた」(晶文社)を出版。本記事ではカウンセラーを目指した経緯やエッセイを出版した理由を深掘りしました。

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カウンセラーが自己開示することで、相談者は心理療法を理解しやすくなる

ーエッセイを書くことになった経緯と心理カウンセラーがエッセイで自己開示をすることで読者に何を伝えたいと思ったか教えていただけますか?

「実は、受け身な気持ちでした。以前の著書「セルフケアの道具箱」の担当編集者が、その副読本のような位置付けで自分のことをエッセイとして書かないか提案してくれました。その時は、人はそんなに私に興味を持っているわけじゃないと思い、即座に断りました。しかし、1年ぐらいエッセイの話が頭の片隅に引っかかっていました。本書の序文でも触れたのですが、実際にカウンセリングでクライエント(相談する人)によく自己開示(※1)をしていることに気づいたのです。もちろん認知行動療法(※2)やスキーマ療法(※3)を提供する際に、自分がどのように使っているのか、どのようなスキーマを持っているのか伝え、それらをクライエントに身につけてもらうために、戦略的に行っています。自己開示をすることで、クライエントがその心理療法を理解しやすくなると感じたので、同じように副読本として自己開示を試してみることにしました。」

※1 自己開示:カウンセラーの個人的な経験の話をクライエントにすること。
※2 認知行動療法:現在の問題に対して、認知(考えや捉え方)や行動などの変えやすい部分から変えていくことで問題解決をめざす心理療法。
※3 スキーマ療法:認知行動療法では効果の出ない深いレベルの苦しみを解消するためにスキーマ(価値観や信念)に焦点を当てる心理療法。

ー本書をどのような人達に読んで欲しいですか?

「カウンセリングを受けたい人はもちろん、私の本だけでなく他の心理カウンセラーの本を読むことも良いと思いますが、特にセルフケアを身につけたいと考えている方に読んでいただきたいです。」

ー本書の中では伊藤先生の人生について赤裸々に語られています。その中でも、カウンセラーになった理由にいろいろあげられていましたが、自分の中で特に大きいと思う理由はどれでしょうか。

「元々私はカウンセラーになるつもりはありませんでしたが、心理学には興味を持って勉強したいと思っていたのです。学校で心理学の勉強を始めた後に、臨床心理士という資格が出来たという話を聞きました。それで、心理学を専門職として生かす道があると知ったことが、カウンセラーになるきっかけになったと言えるでしょう。当時私は他の人を助けたいという強いモチベーションは持っておらず、人の心の仕組みである認知や感情に対する興味・関心が元にあったと思います。」

人生を振り返ることで、今の自分がある理由を再確認できる

ー本書には臨床心理士が、女性が活躍できる仕事だから、年齢を重ねることが不利にならないから等、いろいろと書かれていましたが、それがカウンセラーになった理由でしょうか?

「そうですね、他の職種でも年齢を重ねることがマイナスにならない仕事はありますが、特に日本では女性が年齢を重ねることに対して、何かしらの減点的な見方がされることが多いように感じます。その点で、カウンセラーはそうした扱いを受けずに済む職種の一つだと思いますので、そこがいいなと思っていました。」

ーカウンセラーになりたい方へのメッセージはありますか?

「おそらくそれぞれの動機があると思います。その気持ちを大切にしてください、と言いたいです。」

ーエッセイを書くにあたってカウンセラーとしての人生を振り返ることは、伊藤先生にとってどのような体験だったのでしょうか。もし何か感じたことがあれば教えてください。

「カウンセラーとしての人生を振り返ると、何だか成り行きで生きてきたなと感じます。でも、人生はそんなものなのかもしれませんね。10年後や20年後のキャリアを見据えても、思い通りにはいかないことも多いでしょう。」

ーご自身の専門であるスキーマ療法的には振り返ることで良い変化はありましたか。

「特に家族関係を振り返ると、自分に対する理解がよりクリアになったと感じます。今の自分がある理由が腑に落ちる感覚がありました。」

ースキーマは幼少期の環境から出来上がることが多いから、家族関係は大きく影響しますね。スキーマ療法を勉強している立場としても、伊藤先生のエッセイ本から多くの学びがありました。どのような環境でどのように人生を歩むと、どのようなスキーマを持つのか、ここまで詳しく知る機会はあまりないと思います。

「そうですよね。一つの事例として参考になりますね。本書にはセルフケアの実例もたくさん書いていますが、どのような背景の心理カウンセラーが勧めているのか見えた方が、より説得力が増すなと思いました。また、クライエントもカウンセラー自身の背景が見えていた方が安心してカウンセリングを受けられる場合もあるでしょうし、読者にとってもプラスの影響があるのではないかと思っています。」

エッセイ
「カウンセラーはこんなセルフケアをやってきた」(晶文社)

お話を伺ったのは…伊藤絵美さん

公認心理師、臨床心理士、精神保健福祉士。洗足ストレスコーピング・サポートオフィス所長。千葉大学子どものこころの発達教育研究センター特任准教授。慶應義塾大学文学部人間関係学科心理学専攻卒業。同大学大学院社会学研究科博士課程修了、博士(社会学)。専門は臨床心理学、ストレス心理学、認知行動療法、スキーマ療法。大学院在籍時より精神科クリニックにてカウンセラーとして勤務。その後、民間企業でのメンタルヘルスの仕事に従事し、2004年より認知行動療法に基づくカウンセリングを提供する専門機関を開設。主な著書に、『事例で学ぶ認知行動療法』(誠信書房)、『自分でできるスキーマ療法ワークブックBook 1 & Book 2』(星和書店)、『ケアする人も楽になる認知行動療法入門 BOOK 1 & BOOK 2』『ケアする人も楽になるマインドフルネス&スキーマ療法 BOOK 1 & BOOK 2』(いずれも医学書院)、『イラスト版 子どものストレスマネジメント』(合同出版)などがある。

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石上友梨

石上友梨

大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、教育機関等で発達障害や愛着障害の方を中心に認知行動療法やスキーマ療法等のカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガクラスの主催、ライターとして活動している。著書に『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)がある。



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