イクメン推しの裏側で増える男性の産後うつ。その理由と防ぐための対処法とは|臨床心理士が解説
産後うつと言えば、産後の女性がなるものというイメージが強いと思います。ところが最近では、男性にも産後うつが増えているというのです。男性が産後うつになる原因や対処法を臨床心理士が解説します。
意外と多い、男性の産後うつ
近年、育児を積極的に行う男性が増えましたよね。育児に積極的な男性のことを【イクメン】と呼んだり、昨年からは女性だけでなく男性も育休を取れるように法が整備されるなど、社会的にも男性の育児をサポートする雰囲気も見られるように。しかしその一方で、男性が産後うつの症状を訴えるというケースが増えてきていると言われています。日本小児科学会が行った、『男性の産後うつと育児休業に関するアンケート調査』によると、産後うつの症状を訴えた男性が約2割程度いることが明らかに。これまで産後うつとは、出産後の女性に起きるものとされてきましたが、最近では性別に関係なく起きうるものとして認知されつつあります。
男性の産後うつ、特徴は?
産後うつの症状である、気持ちの落ち込み・気力の低下に加えて、男性の場合は怒りっぽくなる・過活動になる・衝動のコントロールの難しさ・対人関係上の問題が起きやすくなるといったことが挙げられます。また、産後うつ発症のピーク時期にも差が見られます。女性の場合、産後うつの発症ピークは産後6〜8週と言われていますが、男性の場合は、産後3〜6ヶ月と女性よりも遅れてやってくる傾向にあることが分かっています。
男性の産後うつが起きる理由
パートナーが産後うつである
国立成育医療研究センターの竹原健二氏によると、『パートナーが産後うつであるかどうかが、男性の産後うつ症状を引き出す要因として指摘されている』としています。パートナーが産後うつになると、家事や育児の負担を男性が引き受けざるを得ない状況になります。それが蓄積していくことで、パートナーの後に男性が産後うつになるというケースが多いようです。
環境の変化
子どもの誕生によって、女性だけでなく男性にも大きな環境の変化が訪れます。例えば、育児による慢性的な睡眠不足、自分のために使える時間などの制限、人間関係の変化、仕事と家庭を回していかなければいけないことなど。そういった環境の変化が大きなストレスとなる人は多いものです。
『男性だから』というアンコンシャス・バイアスの存在
アンコンシャス・バイアスとは、無意識に起きる思い込みや偏見のこと。男女平等の世の中になってきているとは言え、まだまだ性別におけるアンコンシャス・バイアスは根深いように思います。令和3年に内閣府が行ったアンコンシャス・バイアスについての調査によると、『男性は仕事をして家計を支えるべきだ』『男性は人前で泣くべきではない』などといった無意識の思い込みが、男女ともに存在していることが分かりました。そうした思い込みによって精神的に追い込まれてしまうということも考えられています。
社会からの孤立
育休を取ることによって、職場と距離ができ、自分だけ取り残されてしまうような感覚になるというのは、女性と共通して男性の場合も起こると言われています。また、そうした感覚を誰かと共有できないと孤独感が強くなり、産後うつにつながる可能性があります。
男性の産後うつを防ぐための対処法とは?
アンコンシャス・バイアスに気づく、見直す
アンコンシャス・バイアスは、周囲の言動や行動だけでなく、自分自身が無意識に強く思い込み、自分で自分を縛っているというケースもあるとのこと。自分の中に『男性だからこうあるべき』とか『男性だからこんなことをしてはいけない』といった思考がないか、また、その思考が行動を制限していないかを振り返ってみると、自分を縛り、ストレスになっているものに気づくことができるかもしれません。
ストレスの対処法を持っておく
自分なりの気晴らしや、ストレスの解消になるものを持っておきましょう。その際に、発散方法がひとつしかないと、うまく行かなかったときにさらにストレスになってしまうので、できれば複数持っておくことがオススメです。
家庭内で抱え込まない
パートナーと2人で家庭を回していくのにはどうしても限界があります。家族や親戚、友人など周囲の身近な人に相談したり、困っていることをサポートしてもらいましょう。とはいえ、身近な人だと相談しづらいという人もいるかもしれません。そんな時は、外部の相談機関を活用することもひとつです。例えば、子ども家庭支援センターや保健センターなど自治体で開設している相談窓口など。また、厚生労働省【まもろうよ こころ】では、電話やSNSで相談できる窓口を紹介しています。勇気を出して話してみることで気持ちがラクになったり、必要な手立てを得ることができるかもしれません。
子育てはみんなでしていこう
筆者がカウンセリングなどの場面でよく伝えることですが、『子育ては2人だけでしなければいけないものではなく、周囲のみんなで行っていく』という視点を持つことが大切なのではないかと思います。子育ての責任が自分たちだけではないと思えると、それだけで精神的にだいぶ余裕が生まれてきますよね。自分であるいは家庭内でなんとかしようとせず、ぜひ周囲の人に頼ることを考えてみてくださいね。
【参考文献】
内閣府男女共同参画局『令和3年度 性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究』
今西 洋介他『男性の産後うつと育児休業に関するアンケート調査』日本小児科学会雑誌 127巻 1 号 90~95(2023年)
竹原健二・須藤茉衣子『父親の産後うつ』小児保健研究 第71巻 第3号,2012(343~349)
Williamson MT. Sex differences in depression symptoms among adult family medicine patients. J Fam Pract. 1987 Dec;25(6):591-4./ Winkler D, Pjrek E, Kasper S. Anger attacks in depression–evidence for a male depressive syndrome. Psychother Psychosom. 2005;74(5):303-7.
AUTHOR
南 舞
公認心理師 / 臨床心理士 / ヨガ講師 中学生の時に心理カウンセラーを志す。大学、大学院でカウンセリングを学び、2018年には国家資格「公認心理師」を取得。現在は学校や企業にてカウンセラーとして活動中。ヨガとの出会いは学生時代。カラダが自由になっていく感覚への心地よさ、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングの考え方と近いものを感じヨガの道へ。専門である臨床心理学(心理カウンセリング )・ヨガ・ウェルネスの3つの軸から、ウェルビーイング(幸福感)高めたり、もともと心の中に備わっているリソース(強み・できていること)を引き出していくお手伝いをしていきたいと日々活動中。
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