「物忘れが増えた…」それ、うつ病のサインかも?注意したい、中高年の「物忘れ」とは|精神科医が解説
「物忘れが増えた」「うっかりミスが増えた」中高年で起こるこれらの現象。意外にもうつのサインかもしれません。
うつ病で物忘れが起こる!
うつ病は、ストレスを溜め込むことで発症する心の病気です。
そして、うつ病になると、「気分が落ち込む」「物事を悪い方に考えてしまう」「何もする気にならない」などの抑うつ気分や意欲低下症状が出ます。
ですが、うつ病の症状は、抑うつ気分や意欲低下症状ばかりではありません。
「覚えておかなければいけない事を覚えておくことができない」「うっかりミスが多くなる」「頻繁に物忘れするようになった」「集中力が続かない」など記憶力や集中力・注意力などの認知機能低下症状がうつ病のサインとして出ることがあります。
なぜ、うつ病になると、物忘れなどの認知機能低下が起こるのでしょうか?
うつ病で脳が萎縮する!
ストレスが加わるとコルチゾールと呼ばれるホルモンが副腎皮質から分泌されます。
コルチゾールは、糖やタンパク質、脂質の代謝や免疫に関与しているホルモンですが、慢性的にストレスが加わることで、過剰に分泌され、脳の海馬に作用し、神経細胞にダメージを与え萎縮させてしまいます。
海馬は、記憶力や学習に関与している部分です。
慢性的なストレスで海馬の神経細胞がダメージを受け、萎縮すると、すぐに忘れてしまったり、新しいことを覚えることが困難になります
実際、うつ病を発症した人の脳を調べると海馬の容積が減少していたという報告もあります。
うつ病で、物忘れしやすくなったり、新しいことがなかなか覚えることができなかったり、うっかりミスする事が多くなるのは、ストレスによって、コルチゾールが増加し、海馬の働きが低下してしまっているためです。
また、うつ病になると、脳内神経伝達物質であるセロトニンの分泌が少なくなり、感情のコントロールが効かず、イライラしやすくなったり、落ち込みから抜け出せなくなったりします。
こうした感情の不安定さは、さらなるストレス要因になり、コルチゾールの増加を促進し、脳の働きをさらに悪くさせてしまい、ひどい場合は、認知症と同じような症状が出てしまう場合もあります。
中高年のうつ病では、物忘れが起こりやすい
脳の老化(神経細胞樹状突起の退縮)は、20歳過ぎから起こります。
ですが、20代や30代は、まだ、脳神経細胞の働きが活発で、神経伝達物質の分泌が盛んです。
ですので、情報の受け手である神経細胞樹状突起が短くなっていても、情報を伝える神経伝達物質が沢山あるため、神経細胞同士の情報伝達に支障が出ることはなく、物忘れなどの認知機能低下症状は出ません。
ですが、40歳を過ぎると、神経細胞1つ1つの働きが悪くなり、神経伝達物質の分泌低下が起こってきます。
脳の老化(神経細胞樹状突起の退縮)に加えて、神経伝達物質の分泌も減るため、情報を上手く伝えることができなくなり、なかなか思い出せない記憶のアウトプット機能の低下による物忘れが起こったり、同時に2つのことができなくなったりします。
こうした年齢による脳の働きの低下に加えて、ストレスによる海馬の働きの低下や脳血流の低下が起こることで、40歳以降に発症するうつ病では、物忘れなどの認知機能低下症状が出やすくなります。
まとめ
物忘れ症状がうつ病のサインとして出ることがあることについて話をしてきましたが、この話をすると、「うつ病が治っても、脳がダメージを受けているから、物忘れは、もう治らないってことですか?認知症になりますか?」と決まって聞かれます。
確かに、脳がダメージを受けて、ひどい場合は、脳の萎縮が見られることもあります。
ですが、ストレスでダメージを受けやすい海馬は、脳で唯一再生可能な場所です。
だだ、海馬の神経細胞を再生させるには、喜怒哀楽の「喜と楽」が必要です。
うつ病になると、喜と楽を感じにくくなり、怒と哀の感情が強くなります。
その状態では、神経細胞を再生し、脳の働きを回復させることはできません。
つまり、低下してしまった脳の働きを回復させるためにも、うつ病の治療が必要です。
最近、物忘れしやすくなったと感じるなら、喜怒哀楽はどうか?振り返ってみてください。
嬉しいとか楽しいとか感じにくくなっていたら、それは、もしかしたら、単に歳のせいによる物忘れではなく、うつ病のサインとしての物忘れかもしれません。
AUTHOR
豊田早苗
鳥取大学医学部医学科卒業後、総合診療医としての研修及び実地勤務を経て、2006年に「とよだクリニック」を開業。2014年には「とよだクリニック認知症予防・リハビリセンター」を開設。「病気を診るのではなく、人を診る」を診療理念に、インフォームド・コンセントのスペシャリストと言われる総合診療医として勤務した経験を活かした問診技術で、患者さん1人1人の特性、症状を把握し、大学病院教授から絶妙と評される薬の選択、投与量の調節で、マニュアル通りではないオーダーメイド医療を行う。精神療法、とくに認知行動療法を得意とし、薬を使わない治療も行っている。
- SHARE:
- X(旧twitter)
- LINE
- noteで書く