「もの忘れ=認知症」と思い込んでいない?アルツハイマーだけじゃない認知症の種類|臨床心理士が解説
「認知症の種類を答えてください」と言われて、ぱっと答えられますか?認知症のなかでも「アルツハイマー型認知症」は比較的よく知られていますが、それ以外の認知症を問われると困ってしまう人も多いのではないでしょうか?認知症は種類ごとに症状が異なるため、単に「もの忘れ=認知症」と思っていると受診が遅れてしまうかもしれません。そこで今回は認知症の種類と、認知症に間違われやすい病気を解説します。
認知症の種類
代表的な認知症には、
・アルツハイマー型認知症
・血管性認知症
・レビー小体型認知症
・前頭側頭型認知症
の4種類があります。
アルツハイマー型認知症
認知症のなかでも最もよく見られるのが、アルツハイマー型認知症です。
特に目立つのが「記憶障害」で、症状が軽い段階でも「ついさっきの出来事が思い出せない」「数分前に言ったことを忘れている」などが見られます。
症状が進行すると、
・見当識障害:時間や場所など置かれている状況がわからなくなる
・言語障害:言葉は聞こえているが意味を理解できなかったり、自分の伝えたいことを言葉に出来なくなったりする
・視空間認知障害:物の位置や距離感を掴めない
といった症状が見られるようになります。
血管性認知症
脳梗塞・脳出血・くも膜下出血といった脳血管の障害によって引き起こされるのが、血管性認知症です。
損傷した場所によって症状が異なり、「物忘れはあるけれど、判断力はしっかりしている」「夜はできることが翌朝起きるとできなくなる」など、症状がまだらに現れる「まだら認知症」がよく見られます。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症では、
・幻視:実際にはいないものがはっきりと見える
・パーキンソン症状:手足の震えや筋肉のこわばりが生じる
・認知の変動:日や時間によって「しっかり」と「ぼんやり」が切り替わる
・気分の変動:日や時間によって気分が一気に変わる
などの症状が見られます。
アルツハイマー型認知症と比べると、記憶は保たれるケースが多いのも特徴です。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は「自分の感情や行動をコントロールできなくなる」のが大きな特徴です。例えば、
・反社会的な行動:ルールを守れない。時には万引きなどの問題を起こす
・脱抑制:他者への配慮ができず、時には暴言・暴力をぶつける
・常同行動:同じ行動を何度も繰り返したり、同じ言葉を何度も言ったりする
といった症状が見られます。
「以前と比べて性格が大きく変わった」と感じる場合、前頭側頭型認知症を疑っても良いかもしれません。
認知症と間違われやすい病気
もの忘れが増えたからと言って、必ずしも「認知症」というわけではありません。認知症と間違われやすい病気も知っておきましょう。
うつ病
うつ病になると、
・注意力・集中力の低下
・記憶力の低下
・思考がまとまらない
といった症状が現れるため、認知症と間違われてしまうことがあります。
せん妄
せん妄は、一時的に脳の機能が低下する状態のこと。発熱や脱水、ストレスや薬の副作用など様々な原因をきっかけに生じます。
せん妄の原因を特定し、適切に対処することで症状は軽減します。
特発性正常圧水頭症
本来、脳を守るための「脳脊髄液」が過剰に増え、脳が圧迫されることで起こるのが、特発性正常圧水頭症です。
特徴的な3つの症状を見てみましょう。
・歩行障害:すり足+小刻み+足先が開脚した状態で歩く
・認知障害:もの忘れや注意力の低下、思考のまとまらなさなどが見られる
・排尿障害:頻尿になり、トイレを我慢できない
これらの症状は「髄液シャント術」と呼ばれる手術によって、改善が期待できます。
おわりに
認知症は薬で進行を抑えられますし、介護者が適切な対応を知ることで、妄想・徘徊・暴言などのBPSD(行動・心理症状)が発生する可能性を軽減できます。
また、認知症ではないうつ病・せん妄・特発性正常圧水頭症などは、適切な治療を受けることで症状を改善できます。「認知症かな?」と思ったら早めに病院を受診しましょう。
参考文献
中島健二・天野直二・下濱俊・冨本秀和・三村將編集(2013)認知症ハンドブック 医学書院
AUTHOR
佐藤セイ
公認心理師・臨床心理士。小学生の頃は「学校の先生」と「小説家」になりたかったが、中学校でスクールカウンセラーと出会い、心の世界にも興味を持つ。大学・大学院では心理学を学びながら教員免許も取得。現在はスクールカウンセラーと大学非常勤講師として働きつつ、ライター業にも勤しむ。気がつけば心理の仕事も、教える仕事も、文章を書く仕事もでき、かつての夢がおおよそ叶ったため、新たな挑戦として歯列矯正を始めた。
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