ハーバード大学教授から学ぶ、人を幸せへと導く「マインドフルネス」の効果と身に付け方

 ハーバード大学教授から学ぶ、人を幸せへと導く「マインドフルネス」の効果と身に付け方
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「人生を幸せにするのは何?」ハーバード大学による史上最長の研究をベースにした書籍『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(&books/辰巳出版)より、多数の研究によって効果が実証されているマインドフルネスの重要性と、今ここへの「注意」を向けるヒントについて一部抜粋してお届けします。

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今、ここへの「注意」が人生を豊かにする

私たちが支配できる時間は、今この瞬間しかない。

──ティク・ナット・ハン(ベトナムの禅僧)

注意をめぐるジレンマは現代特有の事情に見えるかもしれないが、その本質はインターネットより数千年も前から存在している非常に古い問題だ。そして、太古からの解決策もある。

一九七九年、医学博士のジョン・カバットジンは、末期患者と慢性痛患者のストレス低減を目的とする全八回の治療セッションを行い、仏教の古い瞑想法を取り入れて「マインドフルネスに基づくストレス低減法」と名付けた。このセッションは目覚ましい効果を上げ、今では「マインドフルネス」は誰もが知る言葉になった。マインドフルネスは現在、多数の研究によって効果が実証されており、マインドフルネスのコースを受講できる医学部も増えている。

マインドフルネスの核となるのは、気づきと注意だ。カバットジンはマインドフルネスを、「今この瞬間、判断を加えることなく、あるがままの物事に意図的に注意を向けることによって生じる意識」と定義している。身体の感覚や周りで起きていることに、抽象化や判断のフィルターをかけず、意識的に注意を向けると、思考と経験は「今、ここ」とシンクロする。人の心はあてもなくさまよう傾向があるが、マインドフルネスの目標はさまよう心を、「今この瞬間」に連れ戻すことにある。

近年、マインドフルネスは社会に広く浸透したが、これを商売の種にしようとする動きもあり、不信感を抱く人もいる。しかし、核となる考えは何世紀も前からあり、さまざまな文化の伝統に見られるものだ。単純に言えば、マインドフルネスの目標とは、日常的な気づきを高めることだ。今では米軍までもがマインドフルネスを訓練に取り入れ、集中力を維持する方法を学んでいる。兵士にとっては、目の前の瞬間に集中できるかどうかが生死を分けるからだ。

同じことは、兵士以外の人にも言える。今、ここに意識を向けることが、生きている実感をもたらす。毎日、自動運転モード(例えば、漫然と通勤し、何時間もネットサーフィンし、起きてから寝るまでのルーティンを繰り返す)で生きていると、人生は駆け足で過ぎ去り、目の前で失われているように感じてしまう。

ネットサーフィン
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目の前で起こっていることに注意を向けるマインドフルネスの方法を身につけると、生きているという実感が得られるだけではない。行動力も高まる。すでに起きてしまったことや、これから起こるかもしれないこと、あとでやらなければならないことを考えないこと。すると、今この瞬間に意識が向き、どんな行動でも起こせるようになる。他の人とつながりたいと思っているのなら、同じ瞬間にともに過ごし、注意を向け合う必要がある。

厳しい瞑想修行をしなくても、マインドフルネスは達成できる。立ち止まり、注意を向け、ありのままの状態を感じ取ること。人生の中で過ぎゆく一瞬一瞬のすべてに、驚くほどたくさんの情報が詰まっている。目の前にある今この瞬間もそうだ。手にしている本書の重さ、ページ(または電子書籍やオーディオブックのデバイス)の感触、肌をかすめる空気の流れ、床の上にゆらめく光などに気づくだろう。あるいはこんな気の利いた問いを自分に投げかけてみてもいい──「ここにあるのに、私が今まで気づかなかったものは何?」と。これならいつでもどこでも実践できる。

「マインドフルネス」はある意味、不運な言葉だ。というのも、意味が正確に伝わらないことがあるからだ。「マインドフル(mindful)」という単語から、マインドフルネスとは「正しいことを考えること」だと思われてしまうようだ。つまり、頭(mind)が正しい考えで「いっぱい」(full)の状態を意味するのだと。

マインドフルネス
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しかし、マインドフルネスはもっとシンプルだ。

ギルバートとキリングスワースの研究が示すように、人の心は、いつもたいてい考えごと──自分自身のこと、未来のこと、過去のこと──でいっぱいになっている。すると、心は考えごとや心配ごとという暗い窮屈なトンネルに引っ張り込まれ、目の前の体験から切り離されてしまう。

今という瞬間は広大だ。悲しい経験や恐ろしい経験の最中でも、その瞬間の中には、心がつくりだすものよりもずっと多くのものが含まれている。身体が受け取る感覚、目に見えるもの、耳に聞こえるもの、今という時間を一緒に過ごしている相手を、五感を研ぎ澄ませてみずみずしく感じ取ろう。今ここにないものや場所のことは頭から追い出し、心がつくりだした狭苦しいトンネルのような場所を抜け出し、今という瞬間、ものごとや誰かが真に存在している広々とした瞬間の中に入っていこう。すると、生きているという深い実感がわきあがってくる。

マインドフルネスとは、スピリチュアリストのラム・ダスがシンプルに表現したように、「今、ここにいること」に他ならない。

書籍
「グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない」(辰巳出版)

この本の著者

・ロバート・ウォールディンガー Robert. J Waldinger
ハーバード大学医学大学院・精神医学教授。マサチューセッツ総合病院を拠点とするハーバード成人発達研究の現責任者であり、ライフスパン研究財団の共同設立者でもある。ハーバード大学で学士号取得後、ハーバード大学医学大学院で医学博士号を取得。臨床精神科医・精神分析医としても活動しつつ、ハーバード大学精神医学科心理療法プログラムの責任者を務める。禅の師でもあり、米国ニューイングランド地方はじめ世界中で瞑想を教えてもいる。

・マーク・シュルツ Marc Schulz
ハーバード成人発達研究の副責任者であり、ブリンマー大学の心理学教授でもある。同大学のデータサイエンスプログラムの責任者であり、以前は心理学科の学科長を務め、臨床発達心理学博士課程の責任者でもあった。アマースト大学で学士号取得後、カリフォルニア大学バークレー校で臨床心理学の博士号を取得。ハーバード大学医学大学院で博士研究員として健康心理学および臨床心理学の研鑽を積んだ後、現在は臨床心理士としても活動している。

【訳者プロフィール】
児島 修 Osamu Kojima
英日翻訳者。立命館大学文学部卒。主な訳書に、パーキンス『DIE WITH ZERO 人生が豊かになりすぎる究極のルール』、ハウセル『サイコロジー・オブ・マネー 一生お金に困らない「富」のマインドセット』(ダイヤモンド社)、リトル『自分の価値を最大にするハーバードの心理学講義』(大和書房)、ケンディ『アンチレイシストであるためには』(&books)などがある。

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ヨガジャーナルオンライン編集部

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ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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