「先生と生徒」の恋愛、その是非:ヨガスタジオでの恋愛から考える

 「先生と生徒」の恋愛、その是非:ヨガスタジオでの恋愛から考える
C.J.Burton

パワフルな教え、カリスマ性のあるインストラクター、受け入れる姿勢の生徒がスピリチュアルなコミュニティで出会うと、親密な関係へと発展することがある。だが、生徒と先生の関係が恋愛へと変わってもいいのだろうか? ヨガジャーナルが調査する。

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ヨガスタジオで始まる恋愛

ヨガや瞑想のクラスのような、情動が高まり、強い身体反応が引き出される状況では、そのリラックス感や幸福感が、特定の人によってもたらされたものだと誤解されることがある

「餓鬼は、私たちの中の決して満足しない部分の象徴です」。瞑想のインストラクターが、人でいっぱいの瞑想センターの後方の席からこう言うのが聞こえた。当時私は、日本で1年間英語を教えた後、アメリカに帰国したばかりだった。仕事はなく、辛い結末を迎えた外国での初めての恋を引きずって苦しんでいた。そんな傷つきやすい状態の中、長いこと興味があった道へと引き寄せられるのを感じた。それは仏教だった。「これからもクラスに来てください」。その夜、帰路につくとき、インストラクターは私にこう言った。3週間後にメールでお茶に誘われたとき、私は面食らった。ネットで彼について調べると、彼のソーシャル・メディアでは、少し前に「交際中」から「パートナーなし」へと更新されていた。好奇心にかられ、数日後にはお茶のつもりで彼に会ったが、結局ディナーをともにすることになった。彼はハンサムでカリスマ性があった。惹かれる気持ちはあったが、戸惑いもした。彼は私の先生だったのだ。体を寄せてキスされそうになったとき、私はそれを拒んだ。「自分に合った瞑想グループを見つけるまで、長い時間がかかったの」私は言った。「それを台無しにしたくはないわ」。この男性が主宰していたのは、若く、クリエーティブなタイプの人たちが大勢集まる、自分が落ち着ける初めてのサンガだったのだ。ところが彼は引かず、私は同意し、あっという間に交際が始まった。愛、コミュニティ、そしてスピリチュアルなプラクティスの分かち合いには、とてもわくわくした。

付き合い始めて4カ月後...彼は街角で一輪の鮮やかな色の花を持って私に会い、こう言った。「一緒に暮らしてほしいんだ」。彼は、私のためらいを感じたはずだ。「絶対にうまくいくよ」彼は、肘でそっと私をつついた。「もしうまくいかなかったら、マンションからは僕が出て行くから。君は安全だよ」 ところが、私は安全ではなかった。一緒に住み始めて1年もしないうちに、彼は距離を取り始めた。私はパニック発作を起こすようになった。「僕たちは引っ越しするべきだね」と彼が言ったとき、落胆はしたが驚きはしなかった。「僕たち」というのはもちろん、私が出て行くという意味だった。その後の数週間で、自分はこれまで彼が付き合った数人の生徒のうちのひとりだったとわかった。体中の力が抜けるのを感じた。愛を失ったこともだが、信頼を失ったことのほうが悲しかった。私がまだ自分の荷物をまとめてもいないのに、彼は別の瞑想クラスで出会った女性と付き合い始めた。その後の数年間、人間関係においても、スピリチュアルなコミュニティにおいても、心が安らぐ感覚がまったく得られなくなった。他のクラスにも参加してみたが、そのたびに、消えることのない不安に襲われた。私は行き詰まりを感じながら、自分のバルド(中陰、ひとつの生が終わり、次の生を受けるまでの間を指す仏教の言葉)の中でさまよっていた。そのうえ、さっさと「立ち直れない」自分を恥ずかしく思い、普通であれば癒しを求めて行う瞑想が、今や苦しみと結びついてしまったことに苛立ちを感じていた。

ヨガの伝統に馴染みのないインストラクターが増えることによって、リーダーシップの立場を不適切に利用するリスクも高まる

この数年間、ヨガ界はパワフルなリーダーたちによる、倫理的に疑問の残る行動に揺さぶられている。もちろん、クラスで出会った先生と生徒が恋に落ちる話がないわけではない。中にはハッピーエンドを迎えるストーリーもある。ただし、ヨガや瞑想の先生と生徒が恋愛関係を持つときには、力のインバランスがスピリチュアルなプラクティスの持つ脆弱な性質と結びつき、特に生徒にとって危険をはらんだ複雑な人間関係が生まれやすい、とベテランのヨガ指導者であり、『Restoreand Rebalance: Yoga for DeepRelaxation 』の著者、ジュディス・ハンソン・ラセーター博士は言う。「別れることは、自分の助けとなるアーサナや瞑想のクラスだけでなく、気持ちの拠りどころを失うことでもあるの」と彼女は言う。「生徒にとって癒しであり、人生の救いでさえあったプラクティスが、苦しみに染められてしまうのよ」それでも、スピリチュアルなコミュニティは人間が集まるものであり、先生と生徒が惹かれ合うことも当然あるだろう。とは言っても、そういった気持ちを行動に出すことは許されるのだろうか? もしそうであれば、ヨガのコミュニティの人たち、とりわけリーダーシップを取る立場にいる人は、先生と生徒の間に特別な関係を持つにあたり、どのような意識を育み、関わりのある人たちを守ればいいのだろうか?

愛の化学反応とヤマ・ニヤマの教え

先生と生徒、上司と部下の間の行動規範は、ほとんどの大学や業界で明確に記述されており、雇用規約に記されていることも多い。一般に、恋愛関係は禁止で、ルール違反は深刻な結果へとつながることもある。そういった関係がいっさい認められず、違反が発覚した際の厳しい規約が制定されている場合もある。たとえば、アメリカカウンセリング協会では、専門家として接した後5年間は、セラピストがクライアント本人、クライアントの恋人やその家族と親密な関係を持つことを禁じている。さらに、その後の関係も協会に知らせる義務がある。ヨガや瞑想のプラクティスにはセラピー効果と教育的性格があるが、そのスピリチュアルな性質ゆえに、先生と生徒の間の力関係は、よりいっそう緊張をはらんだものになる、とニューヨーク大学医学部の精神医学の臨床助教授である医師、ヴァトサル・タカーは言う。物質、身体的なものが、手で触れられて証明が可能であるのに対し、スピリチュアリティは、人間の精神や魂を見つめ、交わるものとして定義される。そこで求められるのは、心を開き、信頼し、無抵抗になることだ。そのうえ多くの生徒たちは、そういった脆弱なスペースに、体、感情、精神的な傷に向き合いながら入っていく。先生に導かれたプラクティスで苦しみが和らいだ生徒は、擬似的な親しみを持つようになり、専門家が「吊り橋理論」と呼ぶ結果が生まれる、とタカーは言う。ヨガや瞑想のクラスのような、情動が高まり、強い身体反応が引き出される状況では、そのリラックス感や幸福感が、特定の人によってもたらされたものだと誤解されることがある、とタカーは説明する。「同様に、アーサナ練習のようなエクササイズによる呼吸の変化やセロトニンの増加は、恋愛感情が呼び起こされるときの反応に似ていることもある。事実、ドーパミンやセロトニンという、スピリチュアリティと関連する神経伝達物質は、愛や性欲とも関わっている。つまり、そういった状況で誰かを好きになったとき、その感覚がどこから生まれたかを明確にするのは、生物学的な観点からは難しいんだ」この説明には納得だ。過去を振り返ってみると、元恋人に出会ったのは、彼が瞑想を誘導し、パワフルなダルマトークをしているときであり、いかに自分が彼との間に、深い意味とつながりを感じやすい状況にいたかがわかるのだ。スピリチュアルな道への思いと、彼に惹かれる気持ちを区別するのは難しかった。交際を始めた後、私たちの関係は、スピリチュアリティという傘の下で、意図がより明確になり、親密さが深まったように思えた。そして、彼が去ったときには、仏教そのものから拒絶されたように感じたのだ。残念なことに、元恋人と出会ったグループには、こういった形のグループからの離別を防ぐためのヘルプやガイドラインとなる倫理規定や相談窓口がなかった。ところが、古典的な書物の中には、性行為に関するアドバイスも含めた基本的な倫理規定について述べられている。ヨガの道は、ヤマとニヤマという倫理と道徳のガイドラインの上に成り立っており、ヤマの中のブラフマチャリアは、しばしば性的な節制と訳される。「ヨガのプラクティスは、倫理的なルール、ヤマを守り続けることが基盤になっている。守れないのなら、それはヨガなどではないんだ」と、ニューヨークシティのDharma Yoga Center の創設者であるシュリ・ダーマ・ミトラは言う。仏教では性の慎みは第三の戒律にある。ヨガのコミュニティでは、プラクティスと恋愛の結びつきに関するもっと率直な対話ができるのだ。

ところが、こういった原則は最近の生徒たちの間に浸透しているとは言えず、現在指導、実践されているヨガや瞑想の中での探求、説明が十分になされていない。「200時間のトレーニングを修了したヨガインストラクターの数は爆発的に増えているわ」。YogaWorks の300時間のトレーニングの中に、先生と生徒の関係についての単元を取り入れている、非営利団体オフ・ザ・マット、イントゥー・ザ・ワールド(off theMat, Into the World)の共同設立083者であるハラ・コーリは言う。 事実、2016年にヨガジャーナルと全米ヨガアライアンスが行った、アメリカにおけるヨガの調査によると、すでに現在のヨガインストラクターの倍の人数が、先生になるためのトレーニングを受けており、そのうちの三分の一がヨガ実践歴2年かそれ以下なのだという。ヨガの伝統に馴染みのないインストラクターが増えることによって、意図のあるなしにかかわらず、リーダーシップの立場を不適切に利用するリスクも高まる、とコーリは言う。倫理に関するガイドラインや、確認とバランスのためのシステムをつくることで、生徒と先生の両方を、人間関係によるダメージから守ろうと動き出しているコミュニティもある。こういった存在により、先生は自分の気持ちを整理し、生徒が先生を崇拝するようなことがないよう注意し、特にあからさまな立場の悪用がある場合には、違反を報告する詳しい方法を提供できる。たとえば、米国アイアンガーヨガ協会(IYNAUS)には、指導者は生徒と「親密な関係を持ってはいけない」と説く、ヤマとニヤマの教えをベースにした、倫理のガイドラインがある。IYNAUSのガイドラインでは、先生と生徒の関係が「失われた」ときには、先生が進んで別のアイアンガーヨガの認定インストラクターを探す手助けをするように促してもいる。同様に、スピリット・ロック・インサイト・メディテーション・センター(Spirit Rock insightMeditation Center)やアゲインスト・ザ・ストリーム・ブディスト・メディテーション・ソサイアティ(Against the Stream BuddhistMeditation Society)、上座部仏教のコミュニティでも、恋愛関係を持つのは、先生と生徒の関係でなくなった後、最低3カ月経ってからにするよう求められている。「トレーニングでは先生が生徒と交際するのを禁じ、自分の気持ちをコミュニティ内の先輩や、先生用の窓口に相談することを推奨している」とアゲインスト・ザ・ストリームのナシュビル校の創設者である瞑想指導者、デイヴ・スミスは言う。すると先生に責任が課され、(マットやクッションを離れたところで)行動に移す前にまず自分の気持ちを見つめる場所が与えられる。「スタジオを出会いの場として使ってはいけない」とスミスは言う。先生と生徒の間の不適切な関係が周囲にわかると、コミュニティのメンバー全員がその影響を受けてしまう、と『Dharma Punx』 の著者である、アゲインスト・ザ・ストリームの創設者、ノア・レヴィンは言う。「境界線を超えた関係は、目撃するだけでも不安と混乱を感じるものなんだ。次は誰?と思ったりね」とレヴィンは言う。マサチューセッツ州ケンブリッジで瞑想を学ぶ生徒は、こんな話をしてくれた。「僕自身は先生とは関わらなかったけれど、彼女が自分の生徒と付き合っていたのは知っていた。落ち着かない気分だったよ。スタジオは神聖な場所のはずなのに。何も言わなかったけれどね」

ヨガによって結ばれた愛

ヨガや瞑想のスタジオは、同じようなマインドやスピリットを持ったパートナーと出会うのに最適な場所だというのは、理にかなってはいるように思える。慎重に人間関係を築けばうまくいく、と主張する人もたくさんいる。「私がヨガの先生になるためのトレーニングを受けているとき、夫はベテラン指導者のひとりだったわ」とロサンゼルスのヨガインストラクター、サラ・シュワルツは言う。トレーニング中、スタジオでは「生徒との交際禁止」というポリシーが再確認されたが、ふたりは否定しがたいつながりを感じ、交際を始めることを話し合った。「トレーニングが終わるのを待って交際を始めたわ。夫は、私に付き合おうと言う前に、スタジオのマネージャーに相談したの。私たちはヨガに結ばれたのよ」とシュワルツは言う。

10年近く前、ミネアポリスのスタジオのオーナーで、ベテランのヨガ指導者であるデビッド・フレンクがパートナーのミガンに会ったとき、彼はアプレンティスプログラムで学ぶ彼女のメンターだった。最初からピンとくるものがあったが、初めてデートしたのはその6カ月後だった。「メンターと生徒という関係から、恋愛関係になるまでの6カ月という時間が大事だと思ったんだ」とフレンクは言う。「今では家族があり、いくつかのスタジオの共同オーナーでもある。トレーニングを受ける人たちには、生徒と気軽に付き合ってはいけないと教えているけれど、もし、本物の関係を築けると感じる人に会ったとしたら、それは別の話なんだ。生徒と先生との関係は、固定された絶対的なものだという考えが好まれるけれど、それは絶え間なく変わり続けるものなんだよ

では、恋をしたときには、どうすればいいだろう?

瞑想の先生とは付き合うべきでない、という直感からの警告にもかかわらず、私は彼を好きになってしまった。私は、自分の中の無邪気さに気づかず、彼に惹かれる気持ちと教えそのものを一緒にしてしまっていた。後にわかったことだが、身の守り方を知らなかったのは明らかだった。ふたりの関係の力のインバランスに対して、彼ができること、すべきことがあったと気づかなかったのだ。この関係によってたどった道を後悔はしていない。ただ、当時の自分にもっと多くの情報や助言があればよかったと思う。もしクラスの参加者や指導者を好きになったら、交際する相手もヨガのコミュニティそのものも含め、関係のある人すべてに敬意を持ち、守ることができるようその状況に向き合うことが大切だ。ここでその方法を説明しよう。

1. 境界線を引く

もしも若い頃の自分と話すことができるなら、瞑想の先生を好きになった彼女に、すぐに他の瞑想グループを見つけるようにと言うだろう。「先生と生徒との間に特別な感情がある時の最善策は、生徒が別のクラスへと移り、境界線をはっきりさせておくことよ」とラセーターは言う。「こうすることで、その関係が続いたとしても、パートナーとは離れたところで、自分自身のスピリチュアルな練習のスペースを持ち続けることができる」。その関係がうまくいかなくても、核となるグループの友人も、プラクティスの場所も失わないですむ。癒しやサポートとなるところがあるのだ。他のスタジオやスペースでプラクティスをするという選択肢がない場合には、先生と生徒という関係を解消することが重要だということには、たくさんの人が同意する。「こういったことを明確にするのは、先生の責任だ。力を持っているのは先生のほうなのだから」とスミスは言う。このためには、気まずく感じられても、話し合うことが大切だ。「夫には9年前、私が教えていたヨガのクラスで出会ったの」と、ロサンゼルスを拠点にするヨガインストラクターのクラウディア・フシーニャは言う。「ほとんどの時間をヨガスタジオで過ごしていて、それ以外の方法での出会いは難しかったと思うわ。私たちの関係が問題なく深まったの、カップルになったら彼は私のクラスには来ないとふたりで決めたからなの。彼は別の先生を見つけ、私は人生の愛する人を見つけたのよ」

2. 倫理の規定を設け、徹底する

パワーの乱用(そして率直に言えば訴訟)を防ぐため、スタジオのオーナーとティーチャートレーニングのスタッフは、そのスタジオの倫理規定を設け、実施することをニューヨークのYogaVidaの共同創設者、マイク・パットンは勧めている。「私たちのスタジオでは、行動規範をマニュアルに載せただけでなく、すべての先生と先生になるためのトレーニング中の人たちに、先生と生徒の間の恋愛、性的な関係を持つことを禁じる契約書にサインしてもらっているんだ」そうは言っても、規定だけでは十分ではない、とラセーターは強調する。彼女は、違反を防ぐために、規定と合わせて免職などの措置も必要だと考えている。また、生徒には違反を報告するところが、繰り返し生徒を好きになるような先生にはサポートする場所が必要になる、と彼女は言う。

3.哲学を学ぶ

ヨガが現代化するにつれて、古くからあるプラクティス(ヤマ、ニヤマなど)という基盤がより重要になるようだ、とミトラは言う。愛とスピリチュアリティが出会うときには、ヴィヴェーカ(識別する力)のような他の哲学的な概念について考えてみるのもいい。

4. 対話をする

 ヨガのコミュニティとしても、生徒と先生の関係における倫理や力の働きについて率直な対話の機会を設けることができる。たとえば、ティーチャートレーニングの中に、先生との関係が恋愛に発展した場合どうすべきかについてのディスカッションを取り入れれば、先生と生徒も同様に、プラクティスと愛の出会いについて話し合うことができる。「最悪の事態が起こるのは、秘密と沈黙があるときなのよ」スミスは言う。 話をする、という行動が非常に大切だと思う。私の場合は、交際を始めるまで先生と生徒の恋愛について十分に考えたことがなく、自分が置かれたような状況はオープンに話し合われることもなかった。瞑想の先生との恋愛が終わった後はコミュニティから追い出され、沈黙を続けた。それでも、疑問が頭から離れることがなかった。やっと人に話せるようになったら、自分と似たような(あるいはもっとひどい)経験をした人が大勢いることに驚いた。その多くがコミュニティからのサポートもなく、疑問を持ちながらひときりで生きていたのだ。私の場合は、対話をするだけで孤独感が和らぎ、もう一度、もっと明確な倫理観を持ってヨガを教え、トレーニングを指導したいと感じた。そして、思い切って仏教のクラスに行こうという気持ちになれた。「どんな意見を持っているかにかかわらず、対話をすることが重要なの」。コーリはこのように言う。「声にできないことには、向き合うこともできないのよ」

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Text by Sarah Herrington
Story by Sarah Herrington
Illustrations by C.J.Burton
Ttranslation by Yuko Altwasser
yoga Journal日本版Vol.57掲載



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