【違いを認め、理解し合うために】ヨガにおける「インターセクショナリティ」とは?なぜ重要なのか?

 【違いを認め、理解し合うために】ヨガにおける「インターセクショナリティ」とは?なぜ重要なのか?

私たちのアイデンティティと経験がどのように交差し、重なり合い、分岐しているかを理解することは、公平なヨガの空間を作るための鍵となります。

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「最愛のコミュニティは、違いを根絶することによってではなく、私たち一人ひとりが、私たちが誰であり、どのように世界で生きるかを形作るアイデンティティと文化的遺産を主張することにより、その違いを肯定することによって形成されるのである」−ベル・フックス

ヨガコミュニティとして、私たちは共通の人間性で結ばれていますが、人間としての経験の詳細は驚くほど異ります。私たちは特定のアイデンティティを共有しているかもしれませんが、私たちの経験、機会、懸念もまた異なっています。それらの違いは、特に黒人・先住民・有色人種(BIPOC)、そして特に有色人種の女性やクィアやトランスの仲間(QTBIPOC)など、社会から疎外されたグループにとっては非常に困難なものかもしれません。癒しを与えてくれる包括的で結束力のあるコミュニティ(ヨガコミュニティを含む)を持つためには、この真実を示し、肯定する歴史的、現代的な証拠を認めなければなりません。

それは、私たち一人ひとりが社会階層における位置、つまり社会学者が「社会的位置」と呼ぶものを持っていることを理解することから始まります。人種や民族、性自認、性的指向、社会経済的地位、教育水準、その他の要素が組み合わさって、その階層システムの中での私たちの位置を定義する集合体ができあがります。私たちのアイデンティティの中には、私たちを社会的報酬に近づける要素もあれば、外部に追いやる要素もあります。また、資源が乏しい社会の片隅に追いやられてしまうものもあります。教育、医療、住宅、安全、食料、財産、権力などの報酬や資源にアクセスするのが近ければ近いほど、より多くの優位性を持つことになります。これらは得難いものであり、目に見えないことが多いかもしれませんが、最終的には人生の成功に影響を与えます。

特権を把握する

構造的な抑圧や不利益を経験すると同時に、得がたい利点や特権をどのように経験するかを考えてみましょう。例えば、60年代から70年代にかけての女性運動の最盛期には、多くの白人女性が、自分たちが性差別や性差別的抑圧を経験してきたという事実に注目しました。同時に、彼女たちは自分たちが白い肌の特権を経験していることを無視したり、見落としたりしました。このように、彼女たちは自分たちの性別を中心あるいは前景化し、人種を背景化したのです。

この同じ時代に、ブラックパワー運動の男性たちも同様に、人種差別的な抑圧の経験に焦点を当てながら、自分たちの男性的な特権を把握していませんでした。どちらの例でも、性差別と人種差別は現実として存在しましたが、白人の肌と男性の特権もそれぞれ存在したのです。このように、性差別を経験しながらも、人種差別の恩恵を受けることが可能であることがおわかりいただけると思います。人種差別を経験しながら、異性愛や階級的特権を経験することは可能です。同性愛嫌悪を経験しながらも、性差別や年齢差別の恩恵を受けることは可能です。

私たちは多次元的な存在です。しかし、その事実を見落とし、自分がどのように抑圧を経験しているかを中心に考え、彼らの人生における様々な形の特権を見落とすことはよくあることです。私たちがどのように抑圧され、どのように困難に直面しているかに光を当てることは重要ですが、私たちがどのように特権を与えられているかについても把握しなければなりません。私たちは、どのような社会的立場であっても、その立場によって利用できる資源があることを認識しなければなりません。私たちは、自分が占める社会的地位のおかげで、目に見えない優位性を持っているかもしれないことを考慮しなければなりません。

インターセクショナリティとは何か?

私たちは公平なスペースを作るため(ヨガやその他のウェルネススペースを含む)、互いに交差し、重なり合い、そして乖離するありとあらゆる事を考慮しなければなりません。ブラックフェミニストは1960年代後半から、これらの多様で重なり合う差異について語ってきました。フェミニスト作家のベル・フックスは、これを「抑制のマトリックス」と呼びました。同じく黒人、フェミニスト、クィアの象徴である詩人のオードリー・ロードは、"(シスである白人キリスト教徒男性が社会の頂点である)神話的規範"について書いています。彼らは、概念と実践としての「インターセクショナリティ」を取り上げていたのです。

今では一般的に使われているこの言葉は、弁護士であり、人権活動家でもあるキンバリー・クレンショーが最初に作ったものです。彼女は、ほとんどの反人種主義や伝統的なフェミニズムの考え方が黒人女性を排除し、彼らが人種的・性別的偏見を同時に経験しているという事実を見落としていることから、黒人女性が経験する複数の形態の抑圧を探求するための比喩として「インターセクショナリティ」を使用したのです。

弁護士のクレンショーは、1989年に発表した“人種と性のインターセクションを脱却する”という論文の中で、インターセクショナリティについて説明しています。「インターセクショナリティは、裁判所が評価していない差別的な法律の中の力学を明るみに出すためのプリズムでした。特に裁判所は、人種差別はジェンダーや性差別を越えてすべての黒人に起こることだと考えているようで、もしあなたが黒人であれば、当然、黒人女性や他の有色人種の女性に起こることは見えにくくなります」と述べています。

インターセクショナリティは、私たちに目を開くことを求めています。それは、世界観や経験を形成する上で、複数の社会的立場の関係やインターセクションを考慮するよう要求しています。また、例えば性的指向や年齢など、人々が一つの社会的位置を共有していても、教育や経済などの追加的な要因によってその経験には差異があるという事実も認識しています。どの集団のメンバーも、その集団の他のすべてのメンバーと普遍的または一枚岩の経験を共有しているわけではないのです。

ヨガを実践してみる

パタンジャリヨガスートラの4番目のニヤマであるスヴァディアーヤ(自己学習)を実践すると、自分自身の偏見をより深く解き放ち、学び直すための識別ツール(サンスクリット語でヴィヴェーカ)を得ることができます。私たちは、スヴァディアーヤとヴィヴェーカを同時に活用して、有害なスピリチュアル・バイパス、文化的流用、性的対象化、能力主義、サイズ主義、年齢主義、有害な男らしさを解体していかなければなりません。私たちは、“ヨガボディ”という概念や、西洋におけるヨガの実践の商品化に対して立ち向かわなければなりません。

インターセクショナリティは、私たちが疎外されたすべての声と経験をより包括的にできるように、前進する道であり、ウェルネスの未来なのです。否定に屈することなく、現実を歪めることなく、罪悪感や恥ずかしさから会話から遠ざかることなく、全体的な方法で真実を検証することができるのです。私たちが実践しているヨガのように、インターセクショナリティによって、私たちは認識され社会的に構築された二項対立から抜け出し、経験のすべてのスペクトルを保持し、社会変革を起こすために意識的な行動に移ることができます。

このムーブメントは、私たちの違いにあるパワーと真実を弱めたり、無視したりしてはいけません。オードリー・ロードが書いたように、「私たちを分断するのは私たちの違いではありません。その違いを認識し、受け入れ、祝福することができないからです」。実際、私たちの違いは、個人と集団の両方の強さの源になり得ます。

私たちが、人種差別、性差別、ジェンダー・バイアス、階級差別、同性愛嫌悪、トランスフォビア、その他多くの要因に直面している地域社会、世界社会の多くのメンバーの明確な貢献や独自の問題や懸念を無視すると、抑圧と不平等を助長することになるのです。私たちは、疎外と体系的抑圧の真実を示し、肯定する歴史的、現代的証拠を見過ごしたり、無視したりしてはなりません。私たちは説明責任なしに団結することはできず、修復なしに治癒を経験することはできません。

私たちの違いを認めることで、私たちは自分の立場、影響力、声を利用して、力強い変化を提唱し、活性化させることができるのです。私たちの違いを尊重することは、私たちが交流し、連帯感を育み、誠実にお互いを支え合い、誠実さをもって、集団的に癒す機会を与えてくれます。

この内容は、Yoga and Body Image Coalitionの共同設立者であるメラニー・クラインさんと、Women of Color + Wellnessの共同制作者であるアヌーシャ・ウェジャヤクマールさんが考案したエッセイのシリーズの第一弾です。彼らやその他のBIPOCやQTBIPOCのヨガティーチャーたちが、ヨガの世界での体験にインターセクショナルな視点を通したエッセイを綴っています。「私たちの目標は、対話、内省、直接行動のための包括的なコミュニティを構築することです。私たちは、あなたのヨガの練習を内側から変え、意味のある、本物の、持続可能な行動へとあなたを駆り立てるために、この旅に参加するようあなたを招待します」と彼らは書いています。

教えてくれたのは・・・アヌーシャ・ウェジャヤクマールさん&メラニー・クラインさん
アヌーシャ・ウェジャヤクマールさんは、カリフォルニア州オレンジカウンティのホーグ病院(Hoag Hospital)に勤務するウェルネス・コンサルタントであり、「Meditation with Intention(意図的に行う瞑想)」の著者。
メラニー・クラインさん(M.A.(文系修士号))は、エンパワーメント・コーチ、ソート・リーダー、インフルエンサーとして、身体への自信、本物のエンパワーメント、可視性の領域で活躍している。彼女はまた、作家、講演者、社会学と女性学の教授として成功を収めている。

ヨガジャーナルアメリカ版/「What Is Intersectionality in Yoga and Why Does It Matter?

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By ANUSHA WIJEYAKUMAR AND MELANIE KLEIN
Translated by Hanae Yamaguchi

AUTHOR

ヨガジャーナルアメリカ版

ヨガジャーナルアメリカ版

全米で発行部数35万部を超える世界No.1のヨガ&ライフスタイル誌。「ヨガの歴史と伝統に敬意を払い、最新の科学的知識に基づいた上質な記事を提供する」という理念のもと、1975年にサンフランシスコで創刊。以来一貫してヨガによる心身の健康と幸せな生き方を提案し続けている。



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