今、肩こりに悩んでいる人は四十肩・五十肩になりやすい?その理由とは|整形外科医が解説
「肩こりはデフォルト」「肩こりが辛いのは当たり前」なんて思っていませんか? そう考えていいのは、実は20代までかもしれません。
年齢を重ねるほど、ツライ肩こりを放っておくと、腕が上がらなくなったり、夜眠れないほど痛みが出てくる、いわゆる四十肩や五十肩を引き起こしてしまいます。そこで、肩関節外来担当専門医であり、ご自身も過去に肩関節鏡手術体験者でもある森大祐先生に、痛みの原因と対処法について教えていただきました。
教えてくれたのは…森大祐先生
京都下鴨病院・烏丸御池整形外科クリニック院長。千葉県船橋整形外科スポーツ医学センター菅谷啓之先生のもとで肩関節疾患を学び、平成19年5月より京都医療法人財団 康生会武田病院整形外科勤務を経て、平成22年4月より順和会京都下鴨病院に赴任。肩関節外来を開設。平成25年6月よりアメリカのフィラデルフィアのトーマスジェファーソン大学の肩関節疾患チーフの Gerald Williams先生に師事し、主に肩関節の人工関節、腱板修復術、脱臼制動術の研究や最先端知識を学ぶ。また、自身のサイトで肩関節疾患への知識を医療従事者や以外の方にも知識を深めてもらうことにも力をそそいでいる。
肩こりは、四十肩・五十肩のはじまり?
肩こりも四十肩・五十肩も、両方ツライ症状には変わりありませんが、一体、なにが違うのでしょうか?
「肩こりは、首の周りのつまりや張っている感じで、痛みではないんです。一方、四十肩・五十肩は、痛みを自覚している状態ですね」(森先生)
ただ、四十肩・五十肩の痛みを訴える患者さんの約80%以上が、以前から肩こりだったそう。肩こりは、四十肩・五十肩の前駆症状と言って過言ではありません。
「一般的に、肩こりだけでは病院に行こうと思いませんよね。でもその肩こりがずっと続いていて、引かない痛み、長続きする痛みを感じて四十肩・五十肩となり、来院される方が多いんです」(森先生)
なぜ40代になると痛みが出てくるのか
そんな四十肩・五十肩ですが、森先生のところにいらっしゃる患者さんは、圧倒的に女性が多いそう。
「昔に比べると、今は女性でも仕事をする人が増えましたよね。四十肩・五十肩は、パソコン業務など同じ姿勢(猫背)で長時間過ごすことが大きな原因です。なので、特に首都圏の働く女性に多く見られます」(森先生)
上述のような座り仕事だけでなく、介護職や保育士など、かがんだり体に負担のかかる姿勢を続ける仕事の方も四十肩・五十肩になりやすいんだそう。
「例えば、保育士さんは子供の身長に合わせて屈む姿勢になっていることが多い。職業柄、体に負担のかかる姿勢にならざるを得ないですよね。このように無理な姿勢が続くと、まず肩こりになります。それは、体の節々がリズミカルに運動できておらず、筋肉に緊張が続くため。筋肉の緊張状態が続くと、徐々に体の歪みに繋がり、心理的ストレスも増加。これにより関節の靭帯や筋肉に負担が積み重なり、四十肩・五十肩の痛みにつながります」(森先生)
ですが、同じ仕事量をこなしていても、20代では問題なかったのに、なぜ40代になると痛みに直結するのでしょうか?
「それは、20代のうちは筋肉がしなやかだからです。30代以降になると体の機能の低下が始まります。代謝が悪くなり、循環に問題が出てきます。日常的な運動やストレッチなど、よほど丁寧に体の手入れをしていなければ、体の柔軟性は一気に悪くなります」(森先生)
四十肩・五十肩にやってはいけないこと
四十肩・五十肩になると「動かして治そう」という情報を多く見かけますが、これは正しいのでしょうか?
「動かして治すということ自体は間違いないのですが、痛くてもどんどん動かすのはNG。痛みが強い間は、運動は控えるべきです。また、運動する場合も、動かしてはいけない方向があります。基本的に、人間の体は前を向き、肩甲骨も背骨に対して少し前に傾斜しています。なので、自分の視界に入る範囲で腕を動かす分には、体への緊張は少なくてすみますので問題ありません」(森先生)
ですが、腕を体の後方に伸ばすなど、視界から消える範囲に腕を動かすのは危険です!
「運転席から、無理して後部座席のものを取ろうとした時や、シートベルトを取ろうとした瞬間、激痛が走ったという患者さんが多くいらっしゃいます。肩が痛い時に、自分の視界から消えるところに手を伸ばすことで、四十肩・五十肩が一気に悪化することがあるんです」(森先生)
肩甲骨や背骨を動かさず、肩だけを動かしてはいけません。もし、後ろにあるものや遠くにあるものを取りたい、つかみたい場合は、「腰を回して、視界を移動させてから!を覚えておきましょう。自分の肩の可動域についてより詳しく知りたい方は、医師や理学療法士の方にチェックしてもらうのが一番です。
「また、ヨガをするときの注意点もお伝えします。ヨガと言えば呼吸と連動させることが最大の特徴ですが、四十肩・五十肩の方も特にヨガ中の呼吸を意識してください。これは、腕を伸ばすときに呼吸を意識しないと胸郭の動きが悪くなり、肩甲骨の動きも悪くなるからです。肩甲骨の動きも悪くなると肩関節への負担が増えます。肩関節の運動をするときは呼吸を止めない、息をしっかり吐き出すことを意識してください」(森先生)
四十肩・五十肩の本当の怖さは、夜にあり……
四十肩・五十肩の症状がひどくなると、服の着脱が難しくなったりするだけでなく、夜寝る時に寝返りができず安眠できなくなったり、もっとひどくなると、夜になると痛みが増す「夜間痛」が現れるそうです。
「寝ている時は肩の内圧が高まり、痛覚神経を刺激します。例えるなら、サイズの小さい靴を履いている足のようなイメージ。痛みがあるけれど、そのまま寝られるならまだ軽症です。重症になると、寝ても痛みですぐに目が覚めてしまいます」(森先生)
眠れなくなると、最悪の場合、本人の性格によっては睡眠障害からうつ病を引き起こしてしまうことも。誰しも、睡眠が十分に取れないと、日中の生活に不安がつきまといます。
そんな怖さを秘めた、四十肩・五十肩。どういった治療法があるのでしょうか?
「夜間痛はないけど、肩を動かしたら痛いという程度であれば、腕が視界から消えない範囲の中で、できるだけ運動をしてください。もちろん、ヨガもいいと思います。すでに夜間痛を発症している方は、自己治療ではなく受診することをおすすめます」(森先生)
そんな四十肩・五十肩を防ぐために、その前兆である「体の歪み」を調べる方法があるそうです。
体の歪み簡単チェック方法
「体の歪み」を調べる方法は、とても簡単です。仰向けになって寝そべり、肩甲骨の位置をチェックしましょう。
<チェック1>
両肩甲骨が床にペタッと触れていれば、歪みの心配なし。
写真のように、もしどちらかでも肩が床から浮いているのであれば、歪みの危険サインです。歪みの兆候がでたら、続いてチェック2を!
<チェック2>
仰向けに寝たまま、肘を90度にまげて両脇を締めて身体にくっつけたまま、両腕を外側にゆっくりと限界まで開いていきます。
開きに左右差があるなら、開きの悪い方の肩まわりの体が歪んでいる危険サインです。
歪みの危険サインが出た人は、肩甲骨と骨盤、体幹を強化することを意識しましょう。とは言っても、難しい運動はしなくても大丈夫。誰にでも簡単にできる「YTW体操」(動画サイトに多数掲載)など、まずは体幹を強化して、肩周りを動かす運動を行いましょう。
予防が一番大事、運動は未来への投資です
四十肩・五十肩にならないためには、同一姿勢を30分以上続けない。視界から腕が消えるような動作を行わない。体を冷やさない、を心がけましょう。
そして、一番大切なのは日々の運動です。
「運動は習慣にして、スクワット5回だけでも毎日やることです。無理のない範囲で毎日何かやるだけで、体は絶対に違ってきますから」(森先生)
AUTHOR
ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
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