「#わたしたちの緊急避妊薬プロジェクト」が全ての若者に届けたいもの|鶴田七瀬さんインタビュー前編
一番の障壁は、「産まない権利」の軽視
ーー最終的なゴールは、緊急避妊薬を無償化し、誰にでも、手軽に薬にアクセスできる状況を作ることだということですが、そのゴールはいつ頃達成できるとお考えですか? また、ゴールを阻む一番の障壁はなんでしょうか?
鶴田さん:緊急避妊薬の無償化は正直いつになるかはわかりません。低容量ピルも認可に40年くらいかかりましたよね。署名活動であったり、私たちの活動であったり、様々な活動が後押しになり、少しでもスピードアップできればと思っています。
一番の障壁は、女性の「産まない権利」が軽視される価値観、ではないでしょうか。
鶴田さん:大前提として、「産み育てたい」という気持ちがある人が、健康に安全に産み育てられる環境にすることはとても大切である、と思っています。しかし「今のタイミングで産みたくない」「この人との子供は産みたくない」などの「産まない権利」は非常に軽視されていると感じています。
「悪用」という言葉も、女性が自分の人生を選んでいく権利が軽視されているために出てくる言葉だと思います。バイアグラや睡眠薬は、「悪用」とは言われませんよね。睡眠薬も性暴力に活用されているケースは多くあるけれど、睡眠薬は「医者の前での服薬を必須にするべき」とはなっていません。「おうちで用法要領を守って飲んでくださいね」と渡されます。客観的に考えれば、どんな薬だって「悪用」される可能性はあるわけですが、女性の性や生殖に関する薬だけ「悪用」と言われるのは、女性は自分をコントロールできない、または自分でコントロールすべきではない、という意識が働いているのだと思います。
また、「病院でもらう緊急避妊薬が高い」という理由で安い緊急避妊薬と称された偽薬が出回っており、現在売春目的でそのような薬を「悪用」している人がいます。そのような状況で「本物かわからないけれど、本物を買うお金はないし…」と偽物かもしれない薬を飲む状況の子たちは、緊急避妊薬が無償で手に入れられるようになったらそのような薬に頼る必要がそもそもなくなるのです。
知識ももちろん必要です。実際性教育は日本ではほとんど行われていないため緊急避妊薬に関する正しい知識を得る場は少ないです。そのため、まず目の前にある妊娠という不安をなくすことと、知識を届けることの両方が必要であると考えています。
―現在の中高生は、学校で避妊方法や緊急避妊薬について習っているのでしょうか?
鶴田さん:高校の教科書には一応記載があります。授業の行い方は学校の方針によります。性教育は学校に任されることが多く、校長先生の意向で決まります。校長先生は9割以上が男性で、妊娠不安への当事者意識が薄い印象です。「妊娠」という氷山の一角にたどり着いたケースを見てきた一部の男性は課題意識をもっていたりするのですが、「不安な性行為」の段階で相談される機会はやはり男性の方が少ないため、その氷山の見えない大きな部分を身近に感じる人が限られているようです。
―本プロジェクトで継続的に発信する情報とはどういったものになりますか?
鶴田さん:性的な知識と、福祉の情報の二本柱で考えています。
具体的には、緊急避妊薬以外の方法で避妊する場合の避妊の方法や、虐待を受けている場合の頼れる避難場所の紹介などになります。メルマガみたいなイメージで、定期的に情報発信を行っていく予定です。
*インタビュー後編に続きます!
鶴田七瀬さん プロフィール
一般社団法人ソウレッジ(Sowledge)代表。北欧の教育機関、医療機関、公共施設など30箇所以上を訪問し、若者を取り囲む環境が彼らの行動にどのように影響しているのか取材。帰国後の2018年に一般社団法人ソウレッジを起業。「日常に性教育を」をスローガンに、2019年から性教育トイレットペーパーの販売をスタート、「人生の中で出会う性の課題」を知るボードゲーム「ブレイクすごろく」などの教材も制作・販売。現在、若年層に緊急避妊薬を無償で提供するクラウドファンディングを実施中。
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