「肩の力を抜いて性教育に向き合うきっかけを作りたい」助産師シオリーヌが語る【性教育本】を作る理由
YouTubeを中心に性教育の発信活動を行っている助産師のシオリーヌさんに、ここ数年の性教育の盛り上がりや社会の意識の変化、新刊『やらねばならぬと思いつつ 〜超初級 性教育サポートBOOK〜』(ハガツサブックス)について伺いました。
ここ数年で性教育がテレビや雑誌で頻繁に取り上げられたり、性教育関連書籍が数々出版されるなど、“性教育ブーム”が起きており、「性教育は大事」という共通認識の広がりが見られます。
一方、「子どもに性の話をするのが恥ずかしい」「自分で性教育をすることが難しく感じる」「これ以上何かを頑張るのはしんどい」など性教育へのハードルを感じている方もいらっしゃるかもしれません。
YouTubeを中心に性教育に関する発信活動を行っている助産師のシオリーヌさんは「性教育のハードルを下げたい」と思いを語ります。シオリーヌさんはここ数年の性教育の盛り上がりや、社会の意識の変化をどのように見ているのでしょうか。
性教育が大事なのはわかっているけれども……。
——2019年2月からYouTubeでの動画投稿を始めて、まもなく丸3年を迎えます。当時と現在とで「伝えなければ」と思うことや、社会や視聴者の反応の変化を感じますか。
伝えたい内容には大きな違いはありません。「本来は生きていくなかで欠かせない性の知識や情報が届きづらい現状を変えたい」「社会で普通に暮らしているだけで必要な情報が手に入る環境にしたい」という思いは動画を始めた当初から一貫しています。
社会の変化としては性教育のコンテンツや情報、伝える人が増えたと感じます。「性教育って大事だよね」という共通認識が世の中で広まったと感じますし、親御さんで性教育に取り組もうとしている人が増えています。また、医師や助産師などの専門職だけでなく、SHELLYさんやバービーさんのように著名な方も性教育に関する発信を始めているなど、ここ数年で大きな変化がありました。
そのため、情報を手に入れようとしている方はアクセスする場所が増えて、情報を提供してくれるコンテンツもたくさんあります。一方で、自分から性教育を学ぼうとアクションを起こしていない人にどうやって出会いにいくか・見つけてもらうかは今後も力を入れていかないといけない状況です。
また、最近では保護者の方から「性教育の機運が高まっているとも、やらなくてはいけないとも思うけれども、ハードルが高くて……それってダメなことでしょうか」とご相談をいただくこともあって。「性や生理のことをオープンに話すのが素敵」という空気感が広まっている一方で、それに適応できない自分を責めてしまったり、プレッシャーになっている親御さんがいることを知りました。
ここ数年で数々の素敵な性教育の本が出版されました。その多くは「取り組もう」と思った人が手に取ったときに力になってくれるものですが、もしかしたらまだそこまで気持ちが追いついていなかったり、一歩を踏み出せない親御さんにとってはハードルが高く見えるのかもしれない。「クスクス笑いながら軽い気持ちで読めるような性教育の本を作ったら、ホッとできる親御さんもいるのではないか」——そんな思いから2021年11月『やらねばならぬと思いつつ 〜超初級 性教育サポートBOOK〜』(ハガツサブックス)を制作しました。
「代わりに決めない」「親子は対等であると忘れない」——性教育の根底は人権教育
——性教育を伝える活動のなかで、シオリーヌさんが感じる「世の中の誤解」にはどのようなものがありますか?
「性教育」と聞くと生理やセックスの話をするのだろうというイメージを持っている方が多いと思うのですが、性教育の根底は人権教育だと私は考えています。「あなたの身体はあなたのもの」「あなたの人生はあなたのもの」——この考え方が性教育の第一歩です。今までもこのお話をすると「難しい」「仰々しい」など思わなくなる親御さんが多いんです。
新刊では、「これだけできたら◎(はなまる)10 の心構え」というパートを作ったのですが、「こういうスタンスでいてほしい」「こういう思いでいたら傷つけてしまったり選択肢を狭める声かけを防げるのでは」といった大人の心構えを書いたものなんです。この心構えには「ウソをつかない」「子どもの気持ちをそのまま受け取る」といったシンプルなことが書かれているのですが、それには「肩の荷を下ろしてほしい」というメッセージを込めています。
——SNSでも、積極的に性教育に関するメッセージを発信し、悩める親たちとコミュニケーションをとっていらっしゃいますね。親御さんからの相談には、どのような内容が多いですか?
新刊を執筆する際に、YouTubeの視聴者さんやフォロワーさんから「お子さんにされて困った性の質問/シチュエーション」についてアンケートをとったのですが、特に「とっさにきた質問にどんな顔やどんな返答をしていいかわからない」という悩みが多いですね。
本のなかでは、回答が多かった意見の中から30項目を選び、「私だったらこう答えるかな」という回答アイデアを一つの選択肢としてまとめています。ただ、私の回答がたった一つの正解だとは思っていません。親御さんの価値観やお子さんとの関係性、お子さんの価値観などそれぞれ異なりますので、ベストな対応は違ってきます。あくまで一例と捉えていただき、「自分ならこうする」「こういう言い方もあるのでは」など、どう回答するか考えるきっかけにしていただけたらと思います。
極力ハードルを下げた性教育の本を
——制作にあたり特に意識したポイントはありますか。
まず読者さんのハードルを下げたいという思いがあったため、文字を大きくすることや薄い本にしたことは大事にしたポイントです。
今回一番時間を要したのはイラストに関することでした。ハードルを下げるためにはイラストが欠かせないと思ったためです。実は当初、別の出版社さんから出版予定でした。私はちょうどよくユーモアを混ぜつつ、茶化しや下ネタとして消費にならない絶妙なユニークさを表現したかったのですが、その辺りの考え方がどうしても一致せず……。改めて出版社を探し、今回のハガツサブックスさんと出会いました。
ハガツサブックスさんからの出版が決まったあとも、イラストレーターさんを決めるのに一ケ月以上かかりました。そして最終的には『せんせい、うちのコがタイヘンです。保育園児ゆまの予測不能連絡帳』(ジー・ビー)の作者で、Instagramにお子さんの日々の様子を投稿しているアートディレクターのゆまままさんに依頼しました。ゆまままさんの描くイラストの空気感が好きで、元々Instagramを拝見していました。
本作ではお手本のようなコミュニケーションができる大人だけでなく、表紙に描かれているように素直に戸惑っている大人の姿も表現されています。そんな姿を見て読者さんが共感してほっとしていただけるのではないかと思います。
——最後に望んでいる社会の変化や、今後の活動への思いについてコメントをお願いします。
社会全体で「性教育が大事」という共通認識が広まってきた実感はありつつも、政治など意思決定の場には、まだ同じようには届いていないと感じます。私としては、義務教育のカリキュラムのなかで、ユネスコで定められているような包括的な性教育が当然のように提供されることが一番実現してほしいです。社会の中で広まっていく声をどう可視化するか、実際に十分に性教育が子どもに提供されるようにするためには、今後も試行錯誤が必要だと考えています。
そのため、今まで色々な方向性で本を書いてみたり、ドラマを作ってYouTubeに投稿してみたり、歌ってみたり……まだ出会ってない方に見つけていただくための努力をしてきたのですが、今後もさまざまな形で性の知識を届けられたらという思いです。
【プロフィール】
シオリーヌ(大貫詩織)/助産師・性教育YouTuber
総合病院産婦人科および精神科児童思春期病棟にて勤務の後、2017年より性教育に関する発信活動をスタート。2019年2月より自身のYouTubeチャンネルを開設。オンラインサロン「Yottoko Lab.」運営。著書『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』(イースト・プレス)、『こどもジェンダー』(ワニブックス)、『もやもやラボ ~キミのお悩み攻略BOOK!~ 』(小学館)。本作は4冊目の著作となる。
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