「#わたしたちの緊急避妊薬プロジェクト」が実現したい未来とは|鶴田七瀬さんインタビュー後編

 「#わたしたちの緊急避妊薬プロジェクト」が実現したい未来とは|鶴田七瀬さんインタビュー後編
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予期せぬ妊娠をした際のリスクを減らすことができる緊急避妊薬。諸外国では処方箋なしで入手できたり無償で提供されている一方、日本では高額かつ医師の処方なしには入手できないなど、その普及度合いには大きな差があります。今回、一般社団法人ソウレッジ代表の鶴田七瀬さんは、「#わたしたちの緊急避妊薬プロジェクト」を立ち上げ、若者に緊急避妊薬を無償提供することや性知識を届けることを目的としたクラウドファンディングを始めました。何が「無償化」を阻んでいるのか、詳しくお話を伺いました。

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緊急避妊薬(アフターピル)は、約90カ国で薬局での購入が認められている避妊薬です。なかには無料で配布している国や、学校の保健室に常備している国もあります。

しかし日本では、病院を受診しなければ手に入らず、価格も一錠8千円〜1万5千円と非常に高価です。そのため、若年層にはとくにアクセスしづらく、結果として望まない妊娠に至ってしまうケースもあるのです。

そういった現状に一石を投じたのが、社会起業家の鶴田七瀬さんです。鶴田さんは現在、若年層の望まない妊娠を防ぐために、「若者に緊急避妊薬を無償提供する」こと及び「継続した性知識を届けること」を目的としたクラウドファンディングを実施しています。

インタビュー前編に続き、鶴田さんにお話を伺います。 

性の話をする際に必要な「きっかけ」「場」を作る

ーー本プロジェクト実施後、鶴田さんの元にどのような声が寄せられましたか?

鶴田さん:「緊急避妊薬、私も飲んだことある」とか「彼女と一緒に病院に行って緊急避妊薬をもらったことがある」とか……話す機会がないだけで、緊急避妊薬を必要としている人は多いんだなと思いました。

また、予期せぬ妊娠を経験して不安を感じたことがある方からも、応援メッセージをいただきました。

ーー日本では性にまつわる話をあまりオープンにしない文化があると思いますが、そういった面で性教育の普及に際し、難しさを感じたことはありますか?

鶴田さん:日本では場の空気を読むのはいいことであり、その場で求められていないことは話さない方がいいという空気がありますよね。だから「性について話したいけど、ここは違うかな」など他者を気遣う思いや、「相手を傷つけたくない」「他の人を嫌な気持ちにさせちゃうかも」という優しい気持ちをもつ人ほど話をすることが難しい場合もあります。

でも、逆に言うと、「そういう場」さえあれば、話せるんですよね。私が自己紹介で「性教育をしています」っていう話をすると、性にまつわる話を自らしてくれる人も多いんです。やっぱり、場の空気が大切なんだなって。

たとえば、「ブレイクすごろく(人生で直面する性にまつわる課題を学べるボードゲーム)やります!」っていう場を作ると、思いの外話が弾むんです。いかに話したい人が話したいように話せる場を作るか、が大切だと思います。

ブレイクすごろく
「ブレイクすごろく」は、人生ゲームのような形で性の知識を学び、意見を交わすきっかけを作る。

話のきっかけづくりも大切ですよね。今回、クラファンを開始して嬉しかったことのひとつに、「クラファンをシェアしたことがきっかけで、今まで話せなかった性の話をできました」と言われたことがあります。

ソウレッジの活動を通して、日本でもきっかけがあれば性について話せるし、話したいと思っている人が多いんだな、と気がつきました。

きっかけがあったら話したいけれど、誰にどう話せばいいのかわからずに足踏みしている人は少なくないと思うので、きっかけ作りは積極的に行っていきたいですね。

性教育とは、人生を納得して生きるために必要な、性にまつわる知識全般

ーー鶴田さんは性教育の普及に尽力されていますが、鶴田さんの考える性教育とはどういったものでしょうか?

鶴田さん:私の考える性教育と、世間一般の性教育の定義には、少しズレがあるかもしれません。

私は性教育を、「人生を納得して生きるために必要な、性にまつわる知識全般」だと考えています。性行為や避妊、妊娠にまつわる知識だけではなく、コミュニケーションスキルや対人スキルも含んでいます。

たとえば、性教育と聞くと、わかりやすいのは「避妊具の付け方」とかですよね。でも、「避妊具の付け方については知っているし、避妊具をつけてほしいけど、つけてほしいって言えない」という問題もありえるわけです。その場合、避妊具の付け方以前の問題で、「嫌なときは嫌だと表明する」とか、「相手とどうコミュニケーションをとるか」という点が問題になってきますよね。

日本は協調性を大切にする文化なので、個人よりも集団を優先するのが正しい、と教育されがちです。自分より社会的地位が高い人の意見の方が正しくて、優先されるべきだ、という考えも強いですよね。小学生くらいから繰り返し、個人より集団が優先され、地位が高い人、力が強い人が優先される場面を目の当たりにして育った子供は、自分が嫌なことを嫌だということすら難しいと思うんです。

性的なことをされても、相手との関係性が壊れることを恐れたり、集団や相手を優先させすぎたりして嫌だと言えない人も少なくない。そういった人に対して「はっきりNOと言え!」と言っても難しいですよね。

その場合、まずは周囲の環境を整えていくことが必要だと思うんです。ちゃんと個人の意見が尊重される環境を作ること、それ自体は性教育かといったらそうではないと思うのですが、でも、性教育と切っても切り離せない大切なことだと思うんです。

性教育は私にとって、対人コミュニケーションや、自分を大切にすることや、人権意識と繋がっているもので、性行為にまつわる知識単体で切り離されて存在しているイメージではないんです。

「やりたくないことを、伝えられる」「声を上げられる」のが理想の社会

ーー近年、ネットや動画配信などでも性教育関連の情報を発信する方が増えてきましたが、正しい情報を見分けるために気をつける点はありますか?

鶴田さん:医学的なことに関しては、医師の名前や病院名が記載されているサイトが良いと思います。

また、古い日付のサイトは、古い情報がそのまま放置されている場合もあるので要注意です。たとえば「緊急避妊薬は血栓症のリスクがある」と書かれている場合もあるかもしれませんが、それは古い情報になります。現在使われている新しい緊急避妊薬には血栓症のリスクはありません。

ーー最後に、鶴田さんが考える理想の社会とはどういったものですか?

鶴田さん:最初に申し上げた通り、まずは避妊薬無償化をひとつのゴールにしています。若者が様々な避妊方法にアクセスしやすい状況になっていたらいいですね。また、学習指導要領で性教育が取り上げられたり、すべての教員が性教育を教えられる知識を得たり、専門家じゃない大人たちが性教育の重要性を理解し、子どもたちに正しい知識を伝えられるようになっていたり……性にまつわるリテラシーの全体的な底上げがされているといいなと思います。

また、繰り返しになりますが、「自分がやりたくないことを伝えられる」ことが当たり前の社会になればいいなと思っています。

10年後には、ソウレッジがなくなっている状況が理想ですね。性教育が当たり前になって、団体としての使命を終えられると、とても嬉しいです。

とはいっても10年後になっても、まだまだ足りないなと思うことはきっとあると思います。10年後の社会は、「声をあげても無駄じゃん」と無力感に苛まれることなく、「おかしいものはおかしい」「自分たちの権利が侵害されている」と、どんな人でも声を上げられる、健全な社会であってほしいですね。

鶴田七瀬さん プロフィール

一般社団法人ソウレッジ(Sowledge)代表。北欧の教育機関、医療機関、公共施設など30箇所以上を訪問し、若者を取り囲む環境が彼らの行動にどのように影響しているのか取材。帰国後の2018年に一般社団法人ソウレッジを起業。「日常に性教育を」をスローガンに、2019年から性教育トイレットペーパーの販売をスタート、「人生の中で出会う性の課題」を知るボードゲーム「ブレイクすごろく」などの教材も制作・販売。現在、若年層に緊急避妊薬を無償で提供するクラウドファンディングを実施中。

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原宿なつき

原宿なつき

関西出身の文化系ライター。「wezzy」にてブックレビュー連載中。



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