【運動音痴の原因を探る】センスや才能を疑う前に…動きが変わる「運動イメージの構築」とは
一流アスリートは、「動きを視る達人」であり「動きを自分のものにする達人」でもあります。言葉は悪いですが、彼らは一流の盗人なのです。そして他者の優れた動きを、自分の身体を通じて実現すれば、それが「自分の動き」になることを知っています。なぜなら身体は誰もがオリジナルですから。「視る」は「動く」の基礎となること、「運動イメージ」が「動くのレベル」を上げることを知っておきましょう。
思い込みやバイアスを排して視ると運動イメージがUPする
パフォーマンスを上げるには「とにかく視ること」が重要ですが、そのとき忘れてはいけないのか「どう視るか」であり、できる限り「思い込みやバイアスを排して視る」必要があります。ここで脳とイメージの関係がわかる実験をしてみましょう。目をつぶり頭の中で「黒、黒、黒……」と念じてから目を開いてください。すると、真っ先に黒色が目に飛び込んでくると思います。これは脳でイメージしたものを優先的に認識してしまう人間の脳の性質を物語っていて、指導者が正しいお手本を見せていても、受け取る人が何を求めているかで受け取り方が違ってくることを表しています。
あるヨガ経験者からこんな体験談が寄せられました。脚を大きく開いて体を横に倒す「三角のポーズ」という定番のヨガポーズがあります。このポーズは下半身の安定を保ち、上体が前方に倒れないように脊柱起立筋群で体幹でしっかり支え、胸を大きく開くのがポイントです。
ところがある生徒さんは、目の前に先生の理想的なお手本があるにも関わらず「体をとにかく横に倒すのが三角のポーズがベスト」という思い込みを優先し、「体幹を使って胸を開く」というポーズ本来の目的を無視して、毎回バランスが崩れるほど上体を側屈していました。つまり間違った運動イメージをもとに練習を重ねているわけで、これでは何度行ってもポーズの精度は上がりません。さらには間違った負担を重ねてしまうので、関節や椎間板に過度なストレスが蓄積するリスクもあります。どんなに優れた運動を目の前にしても、思い込みありきでは伝わるものも伝わらないということです。
運動ができるかできないかは、その人の運動能力以前に、「正しい運動イメージを想起する」という視点が大事です。なかなか進歩が望めない人は今持っている運動イメージを思い切ってリセットし、高次元な動きを視覚情報として再入力してから運動イメージをレベルアップしてみましょう。偏見や思い込みを排して行えば、あなたの身体はきっとその運動イメージに沿って動いてくれるはずです。
教えてくれたのは…二重作拓也さん
挌闘技ドクター/スポーツドクター 富家病院リハビリテーション科医師 格闘技医学会代表 スポーツ安全指導推進機構代表 1973年生まれ、福岡県北九州市出身。福岡県立東筑高校、高知医科大学医学部卒業。8歳より松濤館空手を始め、高校で実戦空手養秀会2段位を取得、USAオープントーナメント高校生代表となる。研修医時代に極真空手城南大会優勝、福島県大会優勝、全日本ウェイト制大会出場。リングドクター、チームドクターの経験とスポーツ医学の臨床経験から「格闘技医学」を提唱。専門誌『Fight&Life』では10年にわたり連載を担当、「強さの根拠」を共有する「ファイトロジーツアー」は世界各国で開催されている。『Dr.Fの挌闘技医学』『Dr.F 格闘技の運動学』(DVDシリーズ)『Fightology(英語版/スペイン語版)』『プリンスの言葉』『Words Of Prince(英語版)』など著作多数。
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