医師がOM(オーム)を唱える日は近い | 米国における医療とヨガセラピーの未来

 医師がOMを唱える日は近い―米国におけるヨガと医療
CJ BURTON
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正確に言うと、ヨガセラピーとは?

多くのヨギは、単にヨガを定期的に行うだけで全体的な体調と体力が向上する。ただし、テンポの速いヴィンヤサのクラスは、誰にでも適しているわけではない。特に、健康に問題がある人やけがをしている人には不向きだ。ヨガセラピーヴィンヤサに代わる安全な方法となる。ヨガセラピーは、さまざまな健康状態の患者を指導する訓練を受けたインストラクターが行っており、病院や高齢者医療施設で行われている椅子を使ったヨガから、小規模の治療用クラスやマンツーマンのレッスンまでスタイルも方法も実にさまざまだ。
ヨガセラピーでは、健康状態ではなくて個人と向き合います」とマックコール博士は語った。かつて内科医だったマックコール博士は、今は自らが経営するサミットヨガセラピーセンターで妻のエリアナ・モレイラ・マックコールとヨガセラピストの養成を行っている。「たとえば、腰痛に働きかけても、よく眠れるようになり幸せになるのです」。ヨガセラピストの中には体の構造に注目する人もいれば、アーユルヴェーダの原則や、食事、心の健康、精神性の要素を取り入れて個人に合わせた総合的なプランを作る人もいる。
新たな専門分野としてヨガセラピーが確立されたのはつい最近のことだ。IAYTはこの1年間、ヨガを西側諸国で認められた治療法として確立するという使命をもって、論文審査のある医学専門誌への投稿から、学術研究会議への参加まで、積極的な努力を払ってきた。国立衛生研究所の助成金を利用して、ヨガセラピーの厳格な基準を作成し、現在は養成講座を認定したり、セラピストの大学院生に資格を与えているところだ。IAYTのエグセクティブディレクター、ジョン・ケプナーはこう語った「私たちのゴールは、ヨガの伝統に通じている人だけでなく、協力関係にある多くの医療現場からも認められる認定制度を作ることです」。
ヨガは従来の医療現場に次第に取り入れられてきている。ニューヨーク市のマンハッタン理学療法リハビリテーションでは、『Healing Yoga』の著者であるローレン・フィッシュマン医学博士が、脊柱側彎症や回旋腱板症候群などの神経・筋の問題を解消するのに、従来の治療法に加えて定期的にヨガを利用している。「多くの医師がヨガの効果を評価するようになりました」。
今では最も懐疑的だった患者でさえ、ヨガセラピーの効果をじかに経験している。ステイシー・ハルステッドは慢性的な不眠に苦しんでいた時に、ファミリードクターに睡眠導入剤を処方してもらおうと思った。だが医師は、ストレスの原因について話を聞いた後で、緊張をなくしストレスに対処するのに役立つかどうか、ヨガを試してみるよう勧めた。「すごく腹が立ちました。私は疲れ切っていて、すぐに役立つものが欲しかったのです」。うまくいかなかったら薬を処方してもらう約束を取り付け、ようやくステイシーは納得した。驚いたことに、ヨガは睡眠の改善に確かに効果があり、これまで薬を必要とせずにすんでいる。幾つかの研究結果から、ステイシーやヨガセラピーを受けた多くの患者が実感した効果が特別なことではないことがわかる。最新の科学的研究では、ゲノム発現や脳画像を利用して、ヨガが細胞や分子レベルでどのような影響を及ぼすか明らかにしようとしている。カルサ博士は言う。「ヨガを行う前と後に血液サンプルを採取して、どの遺伝子のスイッチが入り、どの遺伝子のスイッチが切れるか確認します。また、ヨガと瞑想をすることによって、脳のどの部分の構造とサイズが変化するか確認できます」。このような研究が、ヨガのプラクティスによって心理的生理的機能がどう変化するかを示したことにより、ヨガは「本当の科学」の領域に入ることができるようになったのだ。

アメリカにおけるヨガセラピーの未来

医療費が高騰する中、専門家たちはヨガが安全で比較的安価に利用できる補完医療であることを認めている。しかし、ヨガを利用しにくい人が利用できるようにすることが重要だ。「医療関係者とヨガのコミュニティが、引き続き有色人種や社会経済的に低い人たちに手を差し伸べていかなければなりません。ストレスが大きく、生活習慣病にかかる率が高いのです」とマックコール博士は語った。フィッシュマンは「そのための重要なステップが、保険適用範囲を変えることでしょう。医療機関と保険会社が、特定の症状に関してヨガを払い戻しの対象にすることを望んでいます」と述べた。ヨガに対する医師と患者の姿勢が変化するには時間がかかるだろう。医師も患者も未だに、ヨガを主要な治療ではなく、従来の医療を補完するものだと見ているが、ヨガセラピーの利用者は増えており、ヨガの効果を示す科学的証拠も増えている。ヨガセラピストたちは楽観的な見方をしている。「明るい将来を思い描いています。アメリカの医療制度が、限定的な病気のモデルからもっと見識のある健康のウェルネスモデルに移行し始めているので、ヨガをはじめとする心と体のプラクティスが、標準医療にもっと受け入れられると思います」とMDアンダーソン癌センター統合医学の教授でありディレクーターであると同時に、西側諸国の初期のヨガ指導者ヴァンダ・スカラヴェッリの孫でもあるロレンツォ・コーエン博士は語った。最も力強い変化は、私たち一人ひとりに見られる変化だろう。自分の健康に責任を取る時に、ヨガを行って、変化とヒーリングを経験してほしい。
退役軍人のデイビッドは、ヨガの指導者となり、勤務先の出版社でヨガのクラスをもっている。また、地域のクラスでも指導をしている。デイビッドは語った。「私たちは痛みやけがをすぐ治したいと思いがちで、西洋医学は処方や手術には大変適しています。しかし、ヨガは違います。スリ・K・パタビ・ジョイス師が言った通り、『プラクティスをしなさい、そうすればすべてが訪れます』なのです。ヨガはストレスに対処するのに役立ち、さまざまな依存やよくない行動を手放させてくれました。ヨガのおかげで痛みや苦しみから解放され、私の人生に平和と喜びと健康がもたらされました」。

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Text by SUSAN ENFIELD
Photo illustraions by CJ Burton
Translated by Setsuko Mori
yoga Journal日本版Vol.47掲載



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