獄中200時間ヨガで受刑者を救う!米国刑務所が実践する新しい更生プログラムとは?


メリーランド州の厳重警備の刑務所で行われた、女性受刑者に向けたヨガティーチャートレーニング。ヨガと出会った16名の女性受刑者たちに、どんな変化があったのだろうか。「ヨガジャーナル」だけの独占取材レポートを掲載する。
メリーランド州ジェサップにあるメリーランド女性矯正施設(MCIW)の体育館のセンターコートに、裸足の受刑者たちがやってきて、輪になってヨガマットを広げた。一見すると、高校の体育館と見間違いそうだが、窓は鉄格子でおおわれ、壁には神に赦しを請う言葉が書かれたポスターや、母親と暮らせない子どもたちの絵が貼られている。
数人の女性が、ヨガティーチャートレーニング(YTT)の教本や解剖学の本をむさぼるように読みながら、ポーズのサンスクリット名や、様々な筋肉の場所や機能について復習をしている。ある女性はゆったりとダウンドッグを行いながらストレッチとウォームアップをしている。隣の人とおしゃべりやジョークを交わしている者たちもいる。さらに何人かは、この場にいられることを味わうかのように、背筋を伸ばして座りながら呼吸をしている。この体育館にいる時だけは、常に監視されている生活から解放されるのだ。中には、ここに何十年もいる者もいれば、終生を過ごす者たちもいる。
受刑者たちは、週末の3日間に行われるトレーニングのために集まっていた。ヨガを教えるための練習ではあるが、彼女たちにとっては刑務所での日課から逃れられるありがたい機会でもあった。一年間続く200時間YTTのうちの数カ月を終え、16名の参加者たちは、ヨガを通じて自己への慈しみや心の平安を見いだし始めている。すでにヨガは、生きていくために不可欠なものとなっていた。
指導者のカース・メドウズが、元気に挨拶しながら満面の笑顔で現れると、受刑者たちの顔が輝き、部屋が活気づいた。メドウズの後ろから、アシスタントのダナ・クエリドが、片手で骨格標本をがらがらと引きながら、もう片方の手には花でいっぱいの花瓶を持って入ってきた。メドウズは、すぐに生徒たちの注意を引いた。「こんばんは、お嬢さんたち!」彼女のイギリスなまりの英語が場を和ませる。「さあ、始めましょうか?」。
「ヨガを学びたい。やり直したい。」受刑者たちの思い
刑務所初のYTTに参加するにあたり、この体育館にいる女性たちは、2月から12月にかけて週末に行われる18時間の集中トレーニングを11回受講するのに加えて、毎週行われるMCIWの全受刑者対象のアーサナクラスや、月に2回のメドウズとの復習セッションを受けることになっている。これらをすべて修了すれば、メリーランド州のコロンビア・ヨガセンターから指導者としての認定証がもらえ、刑務所内や、釈放後に外でヨガを教えることができる。
53歳のメドウズは、受刑者にヨガを教えるために尽力している組織、プリズン・ヨガ・プロジェクトの、女性受刑者指導ディレクターをつとめている。ロンドン育ちで、21歳と24歳の二人の娘の母である彼女は、2009年からフルタイムでヨガを教えている。今回のYTTは、刑務所で7年間教えた末に生み出されたものだ。MCIWでは、少なくとも2年以上の刑期が残っていて、コースを貫徹できる時間があれば、誰でもYTTを受講できる。はじめは20名が申し込んだが、そのうち4名はすぐに脱落した。熱心に続けている残りの16名は、横領から第一級殺人にいたるまで、様々な有罪判決を受けている。
やり直しの機会を求める受刑者にとっては、このYTTは、手に職をつけての社会復帰が可能となる金のチケットだ。クラスで最年少の24歳のシャメアは、8年前に16歳で第一級暴行の有罪判決を受け、母親のいるMCIWに入所した。彼女は、ある筋肉群についての解剖学レッスンの間、嬉々として立ち上がり、鍛え上げたふくらはぎを見せた。シャメアは2年後に仮釈放の資格を得る。それがうまくいけば、20年刑期の半分で服役を終えられるのだ。彼女は、取得できる認定証はすべて取ろうと頑張っている。「このYTTは、出所した後すぐに働ける機会を与えてくれたの」シャメアは、ウェーブのかかった黒髪を後ろに押しやりながら言った。「それに、ヨガのおかげで穏やかになれるし、体も鍛えられるわ」。 一方、二度と出所できない受刑者たちは、今この時に集中するようにしている。ヨガの勉強は獄中生活をがらりと変えてくれたのだ。43歳のケリは、殺人罪ですでに8年をMCIWで過ごし、2056年まで刑期をつとめることになっている。ケリはヨガを学び、練習することによって、獄中の生活や、運動不足、新鮮な果物や野菜が十分に食べられない苦痛はもちろん、押しつぶされそうな不安や愛する者たちに会えない状況にも、対処できるようになったと言う。「ヨガはいろんな意味で人生を変えてくれたわ」とケリは言う。背が高く色白で白髪まじりの彼女は、マットの上でぎこちなく長い手足を伸ばす。「ヨガができて、本当に嬉しい。自信もついたし、体にもいいしね。もともと不安感が強いタイプなので、ずっと抗不安薬を服用しているけれど、ヨガをやるといらなくなるの」。
その後ケリは、自分が犯した殺人について、包み隠さず話してくれた。彼女にとってYTTと詩を書くことは、受容と赦しと目的を得るための道具なのだ。彼女は言う。「私は確かにやったのよ(人を殺した)。母と弟がすごく心配で、やっちゃったの。その責任は負わなきゃいけない。だから、たった一つでも、誰かの人生に変化を起こすことができたらいいなと思ってる」。
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